第10話 レベル差

 時は少し遡り、アインスが受付広場で主人の帰りを待っていたら、複数の冒険者が絡んできた。


「そこのお前、レッドベアーを倒したのはお前か?」


「私ではなく、私のご主人様が討伐されました」


「このレッドベアーは俺の冒険者団が倒す予定でその準備をしていたんだ。それをいざ依頼を受けようと来てみれば、どこ誰と知れねぇ奴に横取りされたんだ、この意味が分かるよなぁ?」


 冒険者達の中で一際目立つ体格をしている男がアインスのフードの中を覗きこむように睨む。


「貴方のおっしゃってる意味が分かりませんね」


「新人の分際で俺様に逆らうのか!このレッドベアーは俺が倒すはずだったんだ、だから報酬を寄越せと言ってんだ!」


 男の後ろからは「そうだそうだ」「とっとと寄越せ」と声を出すものもいる。


 だか、アインスは怯まない。


 ここで引いてはご主人様の荷物番を任せられている意味がない。

 例えそれが小銭だろうと、ご主人様の所有物は命をかけ守らなければならない。

 でなければ、命を助け奴隷にしてくれたご主人様に顔向け出来ない。


「この魔物はご主人様が討伐したものです。貴方に報酬を渡す必要があるとは思いません」


「そのご主人様とやらも、どうせ運良く倒せただけで大した実力もないんだろ、俺様のレベルを聞いたら泣いて許しをこうようなやつだろうよ」


「ご主人様を侮辱するのは私が許しません!」


 自分のことならいくら罵倒されても構わない。

 しかし、主人を侮辱されることはアインスには我慢出来なかった。





「アインスどうした?」


 アインスは王子様がピンチに駆けつけてくれたような気分でゼントの側まで移動し冒険者を睨む。


「あんたがこいつのつれか?」


「そうだが、俺の奴隷に何か?」


「主人がいるなら話は早い、レッドベアーの報酬を寄越せ、そいつは俺が貰うはずだったんだ」


 ゼントは一瞬で状況を把握した。

 生前の彼よりも思考速度が上昇している。

 これもレベルアップの影響だ。


「これは俺たちのものだ、文句があるなら報酬を渡したギルドに言え」


 ゼントは受付嬢を見るが、目を合わせようとせず、知らぬ存ぜぬを突き通すつもりのようだった。


 腐ってやがると思った。


 この冒険者が貴族なのか相当レベルの高い冒険者なのか知らないが、ギルド内で行われている犯罪に目を瞑っていることに腹立たしく思った。


 ギルド内だから見逃されているのかもしれない。

 ゼントの中でさっきのギルド長の評価は真っ逆さまに落ちていく。


「俺様はこのギルドでトップランクのレベルの冒険者だ。聞いて驚けレベル31なんだぜ、分かったらとっとと報酬を置いて行け」


 レベルが10も下ということにゼントの中でただの雑魚で目障りなやつという認識になった。

 それでも騎士団の上位クラスぐらいの実力はあるということだ。


「それがどうした、なんだったら勝負でもするか?」


 ゼントは挑発するように言う。

 こういう輩には口で何を言っても聞かないだろう。

 同じことを何回かやってきてるようだったからだ。


 実際この冒険者は事あるごとに何かと理由をつけては報酬や手柄を横取りしていた。

 ギルドから黙認されているのもギルドを辞められて、ならず者になられても困るからだ。

 レベルが高いので敵にするよりは味方でいてくれた方がいいと思ったからである。


「いいぜ。そっちから挑んできたんだ、あとから文句なんて言うなよ」


 ゼントたちはギルドの外に出て、そこに野次馬が集まってきた。


「バルドが勝負するって、相手は誰だ?」

「さぁ、見ねぇ顔だな。新人かな?」

「運のないやつだな、バルドの実力は本物だ。本人の性格が悪くなければ、王国の騎士団にいてもおかしくないからな」


 周りはゼントが負けることが決まっているように話している。

 体格的にもバルドと呼ばれた男の身体は鍛えられていて腕や足が太く、ゼントの倍ぐらいあるんじゃないかと思う程だ。


「降参するなら今のうちだぜ?」


 バルドと呼ばれた冒険者はテンプレを守る男だ。


「いいから早くかかって来い」


 ゼントもそのフラグに乗せて貰う。

 もう勝つことが決まっているような口ぶりだ。


 バルドは大剣を両手で持ち斬り掛かった。

 ゼントは反撃せず、剣を構えたまま避ける。

 何回も振り下ろされるが、全く当たる気配がない。


 本人のレベル差もあり、その敏捷値に差がけっこう出来ている。

 さらに剣王のスキルのおかげで剣の耐性が上がっていて、ゼントにはバルド剣筋が簡単に読めてしまう。

 ゼントから当たろうと思わなければ、一太刀もあびることはないだろう。


 そろそろいいかなと、ゼントはバルドの剣を紙一重で避けて懐に飛び込み両目を斬り裂いた。

 バルドは叫び声を上げて、両目を手で押さえる。


「うわぁぁぁー」


 目からは血が溢れて失明は確実だろう。


 取り巻き達が駆け寄って回復薬をかけているが視力が戻るかどうかなんて分からない。

 ゼントは知ったことではないと、剣を納める。

 これで実力差が証明され、この街でゼントに易々と挑んで来る輩がいなくなるだろう。


「何が起きたか分かったか?」


「新人が斬られたと思ったら、逆にバルドが斬られてたんだ。何やったんだあいつ……」


 野次馬が騒ぎ立てるが、特に構いもせずゼントはアインスに近づいて行く。


「お疲れ様でしたご主人様」


「あぁ、お前も怪我なくて良かった」


 ゼントの評価ではアインスがバルドと闘っていたら負けていた。

 本人やスキルのレベルでここまで実力に差が生まれるとなる。

 ゼントの計画の中で早めにアインスのレベルを上げといた方が良いと思った。

 


 冒険者や街の野次馬達の中でゼントに話しかける者もいるが、全て無視して進んだ。

 この中でついて行こうという者は1人もいなかった。



 名前:ゼント

 レベル:44

 魔法:〈火魔法(下)LV6〉

 スキル:〈剣王LV3〉up〈槍士LV3〉〈闘士LV8〉〈投擲LV7〉〈隠密LV8〉〈自然回復LV10〉〈運搬LV8〉〈感知〉〈鑑定〉〈アイテムボックス〉

 称号:無能

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