第9話 スリュート伯爵領


 盗賊の荷物を漁り、持ち運びしやすそうな大きめのバッグを見つけたが、食料、服や布、ナイフなどの武器、を少し入れただけでいっぱいになってしまった。

 こちらはアインスに持って貰った。


 適当な小物は小さめの鞄に詰めて俺が持ち歩くことにした。

 奴隷の方が重い荷物を持つものだからな。


 それと、盗賊が持っていた武器の中には槍があったので、アインスに装備させた。


 こういう時にゲームでよくあるアイテムボックスのスキルとかあったら便利なんだけど。


 盗賊はお金もそれなりに溜め込んでいた。


 金貨×1、銀貨×6、銅貨×14、鉄貨×21


 アインスにこの世界の金について聞いた。


 白金貨、金貨、銀貨、銅貨、鉄貨の5種類があって、貨幣が変わるのに10枚が必要とのこと。


 とりあえず、金銭については小袋に詰めて俺が持ち歩くことにした。


 名前:ゼント

 レベル:35

 魔法:〈火魔法(下)LV3〉

 スキル:〈剣王LV1〉〈闘士LV8〉〈投擲LV4〉〈隠密LV6〉〈自然回復LV8〉〈運搬LV5〉〈感知〉〈鑑定〉〈アイテムボックス〉new

 称号:無能


 あれ?欲しかったスキルが手に入ったぞ。

 一応鑑定してみよう。


 アイテムボックス

 異次元空間に手にした物を収納する。

 生き物は不可。

 収納できる量は使用者のレベルによって決まる。

 1レベル×10kg

 『無能』により上限なし


 俺は試しに小袋をアイテムボックスに収納してみる。

 目の前から小袋が消えた。

 なんかゲームみたいなアイテム画面が出てきて、その中のひと枠に小袋が表示されている。

 今度は取り出してみる。

 銅貨1枚と念じると、手の平に銅貨が1枚あらわれた。

 分けるこもできるのは便利だな。


「ご主人様、今のは?」

「アイテムボックスのスキルを手に入れたんだ」

「…………」


 アインスは驚きで言葉が出ないようだ。

 無能の能力は聞いて知っていたが、実際に目にするとその凄さに絶句してしまっているようだ。


「アイテムボックスのスキルは珍しいスキルなのか」

「珍しいわけではないですが、持っている人は多くないですね」

「なら、街中で使っても問題ないな」


 俺は金品からアイテムボックスに積んでいく。

 質屋みたいなところがあれば金に変わるし。


 残った空きスペースには武器や道具をいれた。

 回復薬の残りは下級が3本しかなかった。

 出来るだけ、怪我をしないように気をつけよう。


 俺は自然回復スキルがあるから、傷を負ってもすぐに回復するが、アインスをそうもいかない。

 戦闘は主に俺が担当する方が良さそうだ。

 経験値も手に入るしな。 


 これで収納についての問題は解決したな。

 次に移動手段だが、盗賊達は徒歩での移動だったからな。

 馬とか乗れる動物がいれば便利だったんだが、

 仕方ない徒歩で移動するしかないな。


 俺たちは昼食を済ませ、山の中を歩き出した。

 ちなみに昼食は角兎を火魔法で焼いてみた。


 あまり美味しくはなかった。

 アインスにも食べさせるとまた涙を流していた。




 2度の野営をこなした3日後、やっと街道に出られた。

 その間にも何回か魔物と戦闘があった。

 おかげで俺もアインスもレベルアップし、新しいスキルも手に入れた。



 名前:ゼント

 レベル:43

 魔法:〈火魔法(下)LV6〉up

 スキル:〈剣王LV2〉up〈槍士LV3〉new〈闘士LV9〉up〈投擲LV7〉up〈隠密LV8〉up〈自然回復LV10〉〈運搬LV8〉up〈感知〉〈鑑定〉〈アイテムボックス〉

 称号:無能


 名前:アインス

 レベル:14

 魔法:なし

 スキル:〈槍士LV4〉up

 称号:ゼントの奴隷(仮)


 途中で剣ではなく槍で戦闘してみたが、槍が2人いても戦いにくいだけだった。

 剣の方が戦いやすい感じがした。


 アインスには新しいスキルは会得しなかった。

 もしかしたら、槍のスキル以外覚えられないのかもしれない。


 それにあれだけ戦闘して上がったのがレベル1だけということにこの世界はレベルが上がるのにけっこう経験値が必要だと感じる。


 魔王の配下のフェンリルなんだから、レベルアップすれば色々とスキルを覚えるのかと思ったのだが、単にレベル不足なのかも知れないので長い目で見ることにしよう。

 俺の火魔法を何回か見せても魔法を覚えなかった。

 魔法自体を覚えないというのは考えたくない。

 


 昼後に10メートルぐらいある壁に囲まれていた街が見えてきた。

 街道を進んで行くと門とその前に門番が2人いた。


「おい、街の中に入るなら身分証を見せろ」


 転生者である俺は身分証なんて持っていない。

 奴隷のアインスも持ってはいない


「身分証は持っていない。身分証がないと街に入れないのか?」


「なんだ、冒険者にでもなりにきたのか?」


「あぁ、その通りだ」


 武器と防具を装備しているからそう思ったのだろう。

 ここは話を合わせた方が良さそうだ。

 ただ旅人でも大丈夫かもしれないが、特にこだわりはないので別になんでもいい。


「入市税は銅貨5枚だ。街から出るのは無料だが再度街に入るに入市税がかかる。冒険者カードか市民票を見せて貰えれば入市税は無料だ」


「奴隷にも入市税がかかるのか?」

「いや、奴隷に入市税はかからない」


 人権がないところがこんなところにも現れるんだな。

 今回に限ってはありがたいと思っておこう。

 受け入れはするが納得はしない。


 俺は銅貨5枚を門番に渡して街に入った。


「スリュート伯爵領へようこそ。冒険者ギルドはこの道をまっすぐ進んだ突き当たりだ」


 親切な門番だった。


 スリュート伯爵領ってことは、ここは貴族の領地の街ってことか。

 後でアインスに貴族について教えて貰おう。

 貴族になる気はないが、敵対はするからな。


「アインス、まずは宿探しと盗賊からもらった金品と途中で狩った魔物を売るぞ」

「はい、ご主人様」


 ゲームや小説なら、冒険者ギルドで買取とかやってくれるからこの世界でも大丈夫だと思う。

 一応アインスには顔が分からないように、深いローブを着て耳と尻尾を隠してもらった。

 これでも安全とは言えないが、無いよりはマシだろう。

 フェンリルであるアインスの顔が知れ渡っている可能性もあるし、余計な騒ぎは避けた方がいい。

 ここに俺よりレベルが高い相手がいるかも知れないしな。



 教えてもらった道を進むと、冒険者ギルドと書かれたデカイ看板がある建物の中に入った。

 中には十数人の男女がいた。

 何人かで集まって話してる奴もいれば、1人で座ってる奴もいる。


 予想より少ないな。

 今は昼過ぎだから時間帯の問題かもな。


 俺は空いていた受付嬢のところに近づいた。

 定番だと、こういう所に最初に着くと変な輩に絡まれるんだがそんなことはなくすんなり行けた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」


 テンプレの挨拶と営業スマイルが上手な受付嬢という印象だ。


「魔物の買取をお願いしたい、それと盗賊から奪った物を売れるならここで売りたい」


「魔物の買取は可能ですが、盗賊の品物については買取は受けられません。冒険者カードはお持ちですか?」


「いや持っていない。さっきこの街に着いたばかりだからな」


「では新しく登録されますか?冒険者登録されていなくても買取は可能ですが、冒険者登録していた方が報奨金が増えたりしますよ」


 特に冒険者として食っていこうとか思っていない。

 俺の目標と今後のことを考えると冒険者になって行動が制限されるのはあまりよくはない。

 それにステータス情報を知られる訳にはいかない。


「奴隷だけを冒険者登録させることはできるか?」


「申し訳ありません。奴隷が冒険者登録するには主人と一緒でなければなりません。奴隷が不祥事が起こした場合に責任は主人にとってもらう事になっています。ですので、主人にも登録をお願いしています」


「わかった。登録は無しで買取をしてくれ」


「かしこまりました。魔物は外ですか?」


「いや、今から出す」


 アイテムボックスから魔物の死体を出す。


 ホーンラビット×13

 ブルーウルフ×6

 ビッグボア×3

 レッドベアー×1


 魔物の名前は鑑定とアインスから知った。


 ビッグボアは4匹狩ったが内1匹は食べてしまった。


 レッドベアは赤い毛の熊で3メートル近くあった。

 火魔法があまり効かず、俺が両腕を切り落としてダメージを与えて、アインスがとどめを刺した。

 こいつのおかげでアインスがレベルアップできた。

 レッドベアーは結構皮膚が硬くて武器が壊れたりしてしまった。


「これは……レッドベアー⁉︎何人で倒されたのですか?」


「俺とこいつの2人だ」


「……そうでしたか、こちらは討伐依頼が出ていたものです。他の3種類につきましては常時依頼のものです。報酬を用意いたしますので少々お待ちください」


 受付嬢は奥の方へ消えていった。



「お待たせ致しました。こちらが報酬になります」

トレイの上には金貨3枚、銅貨3枚、鉄貨6枚が乗っていた。

内訳は以下の通りだ。


 ホーンラビット 報酬:鉄貨2枚

 ブルーウルフ報奨:銅貨2枚

 ビッグボア 報酬:銅貨1枚

 レッドベア報酬:金貨3枚



 レッドベアーが金貨3枚もしたのは意外だ。

 確かに他と比べて強かったが、そんなに違いが出るものなのか。


「それとギルド長が面会を求めています。お時間を頂きたいのですがよろしいでしょうか?」


「あぁ、分かった。アインスは適当に待っていてくれ」


「かしこまりました」


「部屋までご案内いたします」


 アインスに剣を預けて、受付嬢について行く。


 冒険者でもないものがいきなり大物の魔物を狩り、盗賊を倒したとなると気になるのも当然か。

 こっちもこの冒険者ギルドが味方なのか敵なのか判断しなければならない。

 ほぼ間違いなく敵になるだろうけど……


 俺は受付嬢に案内され、社長室みたいな机とソファが並べられた部屋に案内された。


「よく来たね。好きなところにかけてくれたまえ」


 高そうな服を来たちょび髭を生やした30代後半ぐらいの男がいた。

 こいつがギルド長なのだろう。

 俺はソファに座り、その前にギルド長が座った。


「私は冒険者ギルド長のモラフュムという。早速本題に移らせてもらうが、レッドベアーをたった2人で倒したというのは本当か?」


「俺はゼントだ。あの熊を倒したのは本当だ」


「どうやって倒したかを聞かせてもらえるかな」


 相手はギルド長だ。

 慎重に必要最低限の情報だけを与えて、良い人になるのではなく、悪くはない程度でいいだろう。


「俺と俺の奴隷の2人で倒した。それだけだ」


「そうか、まぁ情報は武器だからな、そう簡単に教えて貰えるとは思ってない。それと盗賊を討伐したと聞いたがそちらについては名前を覚えているか」


「知らない。山の中で殺したから死体が残っているかはわからない」


「見た目よりも思い切りがいいな。もし指名手配されてる者なら追加報酬を出せたのだが、死体が無ければ確認が取れないんだ。すまないな」


「構わない」


「冒険者ギルドに入るつもりがないとのことだが、騎士団や商人ギルドに入るつもりなのか?」


「俺は流浪の旅人だ。どこかの組織に入るつもりはない」


「分かった、無理な勧誘はしない。もし気が向いたら来てくれ、いつでも歓迎するよ」


 そのあとは俺の出身や目的、アインスについて聞かれたが適当にはぐらかした。

 悪い人ではないが、良い人というわけでもないようだ。

 話が終わり、受付場所に戻る途中でなんだか騒がい声が聞こえてきた。


「ご主人様を侮辱するのは私が許しません!」


 アインスが複数の冒険者に囲まれて言い争いをしていた。

 絡まれたのは俺ではなくアインスだった。

 こんなフラグの回収の仕方はごめんだ。



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