第7話 アインスの過去
盗賊が持っていた出来るだけキレイな布にくるまりなが睡眠をとった。
自然回復スキルがあるとはいえ、戦闘の連続で精神的に疲れていて雑魚寝でもすぐに寝れてしまった。
血の匂いが気ならないわけではないが、そんな贅沢は言ってられない。
スキルのおかげで、体力的には完全回復していた。
起き上がるとすぐにアインスは、俺の傍らに跪き頭を下げた。
「おはようございますご主人様」
「うん。おはよう」
犬耳と尻尾のせいか忠犬のようにみえる。
「ご主人様、朝食の用意はすでに出来ています」
「ありがとう。アインスも昨日は大変だったんだから、ゆっくり休んでいてもいいんだぞ」
「いえ、ご主人様より早く起床し、準備を整えるは当然です」
アインスは自分の中で奴隷のルールがあるようだ。
こうして敬ってくれるのはいい気分だ
俺は起き上がり、寝起きのぼんやりとした意識のままアインスについて行く。
そこには、布の上にパンと干し肉と水が入った器があるだけだった。
盗賊が持っていた食料の中で火を使わないで出来るのはこれが限度だろうな。
「申し訳ありません。今の私ではこれが精一杯です」
「道具がないんだから仕方ないだろ、それより一人前しかないけど、アインスはもう食べたのか?」
「いえ、奴隷がご主人様より先に食事を頂くなどできません。それに奴隷の食事はご主人様の判断によります、もしよろしければ、おこぼれを貰えたらと思っています」
なるほど、奴隷に食事を与えるかどうかは主人次第で与えない場合もあるのか。
今の状況だと、食料は盗賊達が持っていた分だけだ。
角兎は投げるのに使った1匹だけ、他の獲物は森の中に残してきてしまった。
盗賊の食料には限りがあるが、森で動物でも狩れば、食い尽くしても困らないだろう。
火魔法を覚えたから、焼いて食べるという選択肢が増えたんだ。
水魔法も覚えられたら、飲み物にも困らないんだけどな。
それでも、主従関係は大切だ。
甘やかして調子に乗られては困る。
俺は干し肉をアインスの足元にぽいっした。
「それを食っておけ」
これくらいやっても大丈夫だろ。
「ありがとうございます!」
アインスは干し肉にむしゃぶりついた。
余程お腹が空いていたのかな。
「水もちゃんと飲んでおけよ」
「はい……ありがとうございます」
朝から泣きそうな声でお礼を言う。
大袈裟だなとしか思わなかった。
ゼントは気付いていないが、犬種の獣人にとって肉は最大の好物であり、ましてや奴隷の身分で肉が食えるなどこの世界では珍しいことなのだ。
もう二度と食べれないと思っていた物を食べさせてくれたことにアインスは感激してしまった。
干し肉の味を噛み締めながら、さらなる忠誠を心の中で誓う。
ゼントは干し肉って硬くて食いにくいイメージで好きじゃないんだよなー、としか思っていなかった。
食事を終え、アインスと向かい合うように座る。
実際は俺がぼろぼろの椅子に座り、その前でアインスが跪いている形だ。
今更だが壊れて原型が分からない像(多分女神の像だと思う)の前でこんなことやってバチが当たらないか心配になる。
「アインス、お前は何で奴隷になったんだ」
「………」
黙ってしまった。
やはり答えたくない質問だったか。
だが、奴隷のことを知っておかなければ、今後の信頼関係に問題が出る可能性がある。
「言いたくないなら言わなくていい」
「いえ、……ただ、私の話を聞いてご主人様の気分が変わり、捨てられるか心配になりました」
それ程重い内容なのか、
じゃなきゃ奴隷になんてなっていないか。
「安心しろ。俺は1度手に入れてた物を簡単に手放すつもりはない。それにお前見たいな美人奴隷を捨てる理由なんて俺は思い浮かばないな」
「美人なんて……私には勿体ない言葉です」
照れた顔も可愛いな。
「お話させていただきます…………私はオーストセレス王国で騎士団に所属していました。当時は国のために民のためにと働いていましたが、ある日、同じ騎士団の男に私の種族がバレてしまったのです」
「アインスの種族って?」
「かつて魔王に使えていたフェンリルの末裔にあたるのです」
犬じゃなくて狼だったのか。
そのフェンリルが何をしたのか知らないが、魔王の配下の末裔を騎士団に置いておく訳にはいかないか。
気に入らない考え方だ。
入社後にわかった事実があったとしても雇った責任をちゃんと持つべきだ。
即退社にさせるのはダメだ。
「昔フェンリルは勇者一行に瀕死の寸前まで追い込まれたところである村に逃げ込んで獣人の姿になり傷を癒してました。そこで村にいた女性と子をなしました。その末裔が私にあたり、この話と一緒に受け継いできた物があります」
アインスは胸回りの服をはだけさせた。
小さいながら可愛らしい綺麗な胸だと思った。
しかし、その左胸には痣のような禍々しい紋様が刻まれていた。
「これが魔王の配下である証になります。いつか魔王が復活した際にはこの紋様を持つ者達が集まり、魔王と共に人々を滅ぼすという呪いが込められているという伝承があります。フェンリルの子供にはこの呪いの紋が代々受け継がれていて、この呪いの紋によって私は国を追放され奴隷の身分に落とされました。その後はある城で幽閉されていたのですが、あの盗賊供に城が襲われ連れ去られました。何日かし、この教会に連れられご主人様に助けて頂きました」
「よく殺されなかったな。そんな呪いを持つ者を見つけたら、奴隷より死刑になる方が可能性が高いと思うが?」
「それは私が王女様に拾われて騎士となったからです。その後も王女様とは友人としての関係を気づいており、その王女様の優しき願いから命を助けて頂きました」
その王女様にはいつか感謝しないといけないが、その国に近づくこと自体が危険な行動になるな。
もしかしたら、周辺諸国にも広まってる場合もあるから注意しないとだな。
「一応聞くが紋が見つかった理由はなんだ?」
「私は紋が見つからないために普段から1人で水浴びをしているのですが、ある男性騎士が私の水浴びを覗いたことにより発覚しました」
よし、そいつは絶対殺そう。
俺よりも先にアインスの裸を見た罪と紋を見つけた罪でた。
割合としては9:1だ。
俺は貧乳よりも巨乳の方が好きだが、アインスのこの小さく可愛い胸を見たのは万死に値する。
禍々しい紋様があってもこの胸の美しさが下がることはない。
「お前の過去は分かった」
「はい、命を救っていただきたご主人様にならどのような処分も受けます」
アインスはもしかしたら、俺の気分が変わり捨てられるか殺されるかもしれないと思っているのかもしれない。
俺はそんなことを微塵も思っていない。
「アインスのことは俺が絶対に守ってやる。捨てたりなんかしない。お前を殺そうとする奴がいれば逆に俺がそいつを殺してやる。その敵が組織だろうが国だろうが世界だろうが、アインスを殺そうとする奴は俺が全部殺してやる」
アインスは呪いの紋が発覚し殺されるかもしれない覚悟で国の為に仕えていていたにもかかわらず、国は不穏分子として殺そうとしたのだ。
そんなことがあってはならない。
アインスが人殺しをしたか未遂で終わったのどちらかなら分かるが国に貢献してきたという行動を無視して排除しようとした。
それが許せない。
俺はその国に怒りを覚えた。
滅ぼしたいと思う程に。
「……ん!、……んん……」
アインスは手で押さえながら、大粒の涙を流した。
おそらくアインスが自分の過去を明かしても受け入れられた喜びから出た涙なのだろう。
涙を拭き終えたアインスは服装と姿勢を直して、改めて誓いを立てる。
「ありがとうございます。私は生涯ご主人様のためにこの命を使います。この身全てはご主人様の物です。如何様にもお使い下さい。それがご主人様の役に立てれば私の至上の喜びになります」
「あぁ、お前の忠誠を受け入れる。俺のために存分に働いてくれ」
これで俺の目標が決まったな。
オーストセレス王国を滅ぼす。
俺は魔王ルートを目指す。
社畜を怒らせると恐ろしいというのを見せてやる。
国を滅ぼすとかゲームっぽくてすごくいいな!
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