第6話 獣人

 

 吐き気もおさまり、落ち着きを取り戻せた。

 魔法使いの服の中から鍵を見つけ出し檻を開けた。


 目が微妙に開いていて、息もしている。

 良かった、まだ生きていた。

 これで死んでいたりなんかしたら、後悔が襲ってきて心がどうなるか分からない。


 檻から出し、近くに寝かせる


 檻の中にいたのは女の獣人だった。


 頭に犬のような耳とお尻のあたりからふわふわの尻尾が生えていた。

 毛色は多分白だ。

 血とかで滲んではいるけど、なんとなく分かる。


 それ以外は人間と変わらない姿だ。

 ボロボロの服で胸と腰まわりしか隠れていない。

 首輪をしているから、おそらくペットか奴隷のどっちかだろう。

 後者の可能性が高いけど。

 全体的にスレンダーな体型で胸は大きくないどころか、まったく膨らんでない。

 非常に残念だ。


 こんなこと考えてる場合じゃない、まずは自己紹介だな。


「俺はゼント、旅人だ」


 ニートだと名乗るよりは、こちらの方が良いだろう。

 旅人と言っておけば、山奥で遭難していても変に思われないだろう、多分。


「……ぁ、…あぁ」


 上手くしゃべれていない。

 所々傷もあるし、

 まずは彼女の治療が優先だな。

 でも、ゲームのポーションみたいな回復薬なんて持ってないしなぁ。


 俺は建物の奥にあった盗賊の荷物を荒らす。


 汚い布や武器が多い。

 水と食料とかは見つかったが、目当ての物が見つからない。


 さらに探すと、綺麗な木箱を見つけた。

 触ると明らかに頑丈で良い素材でできているのが分かる。

 

 蓋に鍵は掛かっていなかった。

 中を開けると青白い液体が入った小瓶が1本入っていた。

 鑑定スキルで確認すると上級回復薬だとわかった。


 すぐさま彼女に回復薬を飲ませる。


 すると彼女の体が白い光に包まれ、身体中の傷や痣が消えていく。

 顔や耳などの毛が綺麗になっていく。

 こうして見ると整った顔立ちをしていて、元は美人だったと見惚れてしまった。

 

 それにしても上級回復薬って凄いな。

 

 彼女も驚き戸惑っているようだ。

 自分の体の確認が終わると、俺に向かって地面に頭突きする勢いで土下座をする。


「若旦那様、見ず知らずの私の命を救っていただき誠にありがとうございます」


「助けられて良かったよ。名前はなんて言うんだ?」


「名前はありません。奴隷になった際に名前も身分も全て捨てましたから」


 本当に奴隷だったんだ。

 異世界に奴隷制度があることに不思議はないが目の前でみると、なんかいろんな感情が湧いてくる。

 主にエロい方面で……


「助けていただいた上に、更にお願いするようで申し訳ありませんが、私の新しいご主人様になってはもらえませんか?」


 新しいご主人様?

 前の主人、多分盗賊の中の誰かだろう。

 そいつが死んだから新しいのに乗り換えるということなのか。


「主人は多分死んだから、君は自由になるんじゃないか?」


「いえ、たとえ主人が死んでも奴隷という身分は変わりません。体に奴隷紋がある限り一生奴隷として生きることになります。どうか私のご主人様になってください」


 彼女の鎖骨とない胸の谷間の間には小さな魔方陣が描かれていた。

 この世界の奴隷がどれだけ酷いものか知らないが話し方からして人権とか一切ないのだろう。


 奴隷か〜、

 正直欲しくはある。


 この世界に信頼できる人物が全くいないこの状況。

 最初にあった人間は盗賊だし。


 奴隷なら主人に逆らうことは出来ないはずだから、信頼出来る存在がいるのはおおきい。

 日本という治安の良い甘い環境の中で育ってきた自覚はあるので注意は必要だ。

 この世界について知らないことが多いからな、正しい情報を得るのは重要だ。


「その前にお前のステータスを見せてくれるか?」


「はい。こちらになります」


 他人に自分のステータスを見せることって簡単に出来るんだな。

 奴隷だからかもしれないけど。


 名前:なし

 レベル:13

 年齢:18歳

 性別:女

 種族:獣人

 魔法:なし

 スキル:〈槍士LV3〉

 称号:奴隷



 特に気になる情報はないな。

 レベルとか見ても、この世界の基準値を知らないから強いのかどうかとか判断できない。


 黙っていると、彼女から不安そうな感じが伝わってくる。

 奴隷にするのに問題はないな。

 それにこんな美人を奴隷に出来るのは、男として喜ばしいことだ。


「分かった。お前の主人になってやる」


「ありがとうございます!この身全てを捧げてご主人様にために忠義を尽くします。まずは私に名前を与えて貰えませんか?」


 名前か〜

 こういうの得意じゃなんいんだよな。

 適当でいいや。


「お前の名前は『アインス』だ」


 俺の名前がドイツ語の千から取ったから、同じドイツ語の1でいいだろ。

 1番目の奴隷だからな。


「素晴らしい名前をつけていただきありがとうございます」


 アインスは再度頭を下げてお礼を言った。


 確かに意味的にはいい名前だよな。


「主人になるためにどうすればいい?」


「はい、私の奴隷紋にご主人様の血を与えていただければ仮契約が可能です。正式な儀式には奴隷契約のスキルを持つ奴隷商に依頼する必要があります」


 そうか、街へ出たら奴隷商に行こう。

 奴隷契約スキルを見せて貰えれば、俺が奴隷契約スキルを覚えられるはずだ。

 そうすれば、奴隷を好きに作り放題だ。


 俺は剣先で指に傷をつけ、アインスの奴隷紋に血を垂らす。

 すると、魔法陣が光りだした。


 名前:アインス

 レベル:13

 年齢:18歳

 性別:女

 種族:獣人

 魔法:なし

 スキル:〈槍士LV3〉

 称号:ゼントの奴隷(仮)



 アインスのステータス情報が更新された。

 奴隷のステータスって好きな時に見られるんだな。


「アインス……早速命令だ。これから言うことは絶対に守ってもらう」


「はい、何なりとお申し付けください」


「1つ目、俺を裏切らない。2つ目、俺のステータス情報を俺が許可した奴以外に漏らさない。とりあえずこの2つは守ってもらう」


「かしこまりました。この命に掛けて絶対に守ります」


 俺のこの称号は絶対にバレたくない。

 もしかしたら、この世界のバランスを崩してしまうかもしれない能力を秘めているかもだからだ。


「それと死体を外に出すのを手伝ってくれ」


 俺はこの教会で一夜を過ごすつもりだか、盗賊の死体と一夜を共にするつもりはない。


 とりあえず外に出しておこう。

 多少匂いが良くなるかも。


 あ、火魔法があるから燃やせばいいのか。

 でも今から火葬の準備するのも面倒だ。

 山火事になっても困るし。

 土魔法とかあれば、穴を掘って埋められるのだけど。

 色々考えるがいい案が浮かばず、木の近くに放置することにした。


 彼女とこれからのことについて話合わなければならない。

 この世界での俺の目標も決めなくちゃな。

 もうあんな社畜生活に戻らない。

 俺はこの世界でゲームのように自分の欲に正直に生きるんだ。

 

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