第1章 魔法少女が見ている夢。05話

桜子はずっと緊張していた。

最初の挨拶から。

休み時間も。

授業中も。

ずっと緊張していた。

周りの人達はいい人ばかりで。

すぐに仲良くなれるかもしれない。

でも……。

桜子はでそうになるため息を飲み込んだ。

ここでため息をしてはいけないことぐらい分かる。

そういうつもりじゃなくても。

あまりいい印象を与えないことぐらいは。


桜子(早く家に帰りたいな……)


家に帰れば大好きな家族がいる。

今日はこんなことがあったって話せる人がいる。

桜子は家族が大好きで。

早く家族に会いたいと思っていた。


クラスメイトA「お昼ごはんね」


クラスメイトA「いつもみんなで食べてるんだけど」


クラスメイトA「一緒にどうかな?」


クラスメイトB「他のクラスの人もいるしさ」


クラスメイトB「部活案内とかもできるしね」


昼休みの時間。

近くの席のクラスメイトの言葉。

善意で言ってくれてるのは分かる。

すごくありがたいとも思う。

でも……。

桜子は昔からわいわいしのが苦手だった。

できるだけ少人数で静かにしていたいと思っていた。

きっと……。

普通ならこの人達も私をお昼ごはんに誘わない。

私が転校生だから誘ってくれてるだけ。

そう少しだけ卑屈になる。


クラスメイトB「もちろん、桜子さんがいいならだけど」


クラスメイトA「うん」


クラスメイトA「うちらって騒がしいからね」


クラスメイトA「そういうのが苦手なら断っても大丈夫だから」


そうも言ってくれる。

なんだか逆に断りづらくなった。

いい人のお誘いなんだから。

最初ぐらいは付き合ったほうが……。

そう考えて返事しそうな時だった。


へちる「あの……」


1人の少女が桜子に声をかける。

小さな体にセミロングぐらいの髪。

それに……。

ぼそぼそっとした小さな声。

あまり目立たないタイプで。

桜子は今初めて存在を認識したぐらいだ。

でも……。

確か……。

あの小悪魔が……。


クラスメイトA「へちるちゃん、どうかしたの?」


クラスメイトB「桜子さんに用事があるの?」


へちる「え……そ……その……」


クラスメイトの言葉に少し怯えた雰囲気のへちる。

別にいじめられてるといった様子はなくて。

慣れてない人には誰にでもこんな感じななんだろうなって……。


へちる「う……うん……」


へちる「えっと……ちょっと……し……知り合いっ……」


クラスメイトA「桜子さんとえちるちゃんって知り合い?」


えちるではなくて桜子に聞くクラスメイト。

きっとそうした方が話が早いと思ったのかもしれない。


桜子「うん」


桜子「少し前からの」


クラスメイトB「そうなんだね」


へちる「だから……一緒に……ご飯……」


へちる「食べたいなって……」


たどたどしい言葉だけど。

十分にへちるの言いたいことは伝わったし。

桜子はそれがありがたいとも思った。

へちるとの方が静かに過ごせそう……と。


桜子「分かった」


桜子「一緒に食べよう」


桜子「えっと……」


桜子「そういうことだから」


桜子「誘ってもらえて嬉しいけど……」


クラスメイトA「ううん」


クラスメイトA「大丈夫、大丈夫」


クラスメイトB「えちるちゃんが自分から誘うって珍しいしね」


クラスメイトB「もう2人は仲良かったりするの?」


桜子「うん」


へちる「う……うん……」


桜子ははっきりと。

へちるはおどどと。

それぞれ返事をした。

やっぱりこの子が魔法少女だよね。

事前に教えてもらった容姿や話し方が同じで。

それに……。

私が同じ魔法少女だって気がついたから。

こうやって話しかけてくれたんだなって。

へちるは見るからに人見知りで。

そういうことがとても苦手そうなのに……。


桜子「もしおすすめの場所があるなら」


桜子「そこを教えてくれたら嬉しいな」


へちる「う……うん……」


へちる「静かな……とこが……ある……よ……」


相変わらずぎこちなくしゃべるへちる。

でも、いい子なのはなんとなく分かって。

この子と仲良くなれたらいいなって。

桜子は思った。

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