第1章 魔法少女が見ている夢。03話

しばらくの雑談も終わって。


朝のHRが始まる直前には。


がたがたと騒がしかった教室も。


とても静かになっていて。


今はみんなが同じ方を見ていた。


視線の先にいるのは噂の転校生。


みなから注目されているのを分かっているせいか


転校生の顔は緊張で赤くなっていて……。


ぎゅっと手を握って。


静かに言った。




桜子「はじめまして」




桜子「桜子といいます」




桜子「    から来ました」




桜子「……えっと好きな食べ物はシュークリームです」




桜子「好きなのは家族といることです」




桜子「得意教科は国語です」




桜子「運動は苦手です」




桜子「よ……よろしくおねがいします」




前日に考えた挨拶の言葉。


前に出て喋ることが苦手な感じは出てたけれども。


クラスの人はそれも好意的に受け止め。


静かに挨拶を終えた転校生に拍手で応える。


あさひもそのうちの1人で。


適度に関心を持ちつつも。


過剰には興味を持たないぐらいで。


みんなと同じように挨拶を聞いていた。


しいてあげるなら家族といるのが好きという言葉。


あさひも家族の仲がよく。


ご飯を食べる時はいつもお喋りをしていた。


なので同じように家族といるのが好きということに。


とても親近感を持ち、自然と拍手もできた。


そんなに関わることもないだろうなと思いつつも。


何か困ったことがあれば助けてあげよう。


そんな風に思ってる一方……。




えちる(あの子って……確か……)




えちるはちょっと驚いた感じで。


周りとは違う反応で転校生のことを見ていた。


外から見てもいつもと同じで。


静かに転校生の話を聞いているようだけれども。


その内面ではごちゃっとした記憶を……。




えちる(えっと……新しく入る人って……)




えちるは前日に聞いた言葉を思い出す。


夜に呼び出されて。


せっかくあさひとおしゃべりしてたのにと。


不満に思いながらいつもの場所に行って……。


そこで聞いた……。


新しく仲間が増えるという話。


その人の特徴の話。


仲良くするようにという話。


今、教室の前にいるのはその特徴にあってる人で。


変身すると多少は容姿が変わるとはいえ……。




えちる(やっぱり……あの子だよね……)




えちるはぼんやりした頭で考える。


同じ学校とも……。


ましてや同じクラスとも聞いていなかった。


きっと自分を驚かせたかったのだろう。


こうやって驚く自分をどこかで見てるのかも。


あれってそういうのが好きだから……。


えちるは目立ないぐらいで周りを見たけれども。


当たり前だけれども何もなくて。


また転校生の方に視線を戻した。


向こうはまだこっちに気がついてないよね。


そんな風に思いながら。






えちる(どんな人……なんだろう……)




同じようなことを考えている人はたくさんいる。


けれども……。


えちるほど真剣に考えている人は少ないだろう。


見た感じは……。


大人しそう。


怒鳴ったりしなさそう。


怖くないといいな。


いじめられたりしないよね。


そんな風に考えてしまうえちる。


えちるは昔からあさひと一緒で。


いじめられたことなんて一度もないのに。


いつもあさひが守ってくれるって分かってるのに。


いじめというものに人一倍敏感で。


この人は私をいじめないよね?


そう無意識に考えてしまうくせがあって。


でも……。




えちる(うん……きっと……大丈夫)




だって仲間になる人なんだから。


とえちるは結論づける。


先輩だって怖そうだったけどいい人だし……。


それに……。


魔法少女になる人はみんないい人だよね。


悪いことなんて絶対にしない人だよね。


魔法少女は誰にでも優しくて可愛くて強くないといけない。


えちるは自分に言い聞かせる。




えちる'(もし……困ってそうだったら……)




えちる(わたしから……あの子に……話しかけなくちゃ……)




えちるは引っ越しや転校をしたことはない。


ずっと同じ場所で。


あさひと一緒に過ごしてきている。


だから……。


もし自分が同じ状況になったら……。


誰も知らない場所に行かなくちゃいけなくなったら……。


考えただけでも怖く、震えそうになる。


もしかしたらあの子も同じなのかもしれない。


もしそうなら……。


助けてあげようと再び自分に言い聞かせる。


そうしないと話しかける勇気が出てこないから。


でも……。


そうやって誰かを助ける存在が。


魔法少女だよね。


そう決心して。


えちるはぎゅっと自分の手を握りしめた。

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