Ⅱ第四十六話 敵のアジトはどこだ?

 手にしたSSS級の証、黒い鉄札をしみじみ眺める。


 おれは万年平社員だったような男だ。リーダーをやるって問題あると思うけどな。


 勇者って職業が特殊なのかもしれない。職業替えをするべきだろうか。いや、色々な職業を思い浮かべたが、こなせそうな職業はない。


 そんな事を考えていると、グレンギースが空中に向かって話していた。連絡石で誰かとしゃべっているのだろう。


「キニンギー様から情報をいただきました」


 グレンギースはそう言って、壁に向かっていく。


 キニンギー? 白い風車のおじいちゃんか。グレンギースの連絡網は思ったより広い!


 壁には大きな地図があった。いつもなら依頼書が貼られてある所だ。


「キニンギー様の情報では、近くの空き家で灯りがついているそうです」


 壁からピンを一つ取り、地図の一点に刺した。貼られた地図には、そのほかの場所にもピンが刺してある。


「ここまで集めた情報だけでも、五ヵ所。あやしげに人が集まっております」


 五ヵ所か。ただの素人ならいいが、それが全部、暗殺者みたいなツワモノだったら、これヤバイぞ。


「わかってるだけで五ヵ所、なら十ヵ所あってもおかしくねえ。敵は百人以上と考えたほうがいいな」


 ダネルが前にきて言った。ひゃ、ひゃくか!


 ガレンガイルが隊長にいた頃なら、憲兵が使える。だが今は新兵ばかりでアテにならない。それに、三番隊は身分調査をしたが、ほかの隊には敵が紛れている可能性もある。


「頭を叩くしかねえぞ、こりゃ」


 ダネルの言葉にうなずいた。全部を相手にはできない。首謀者を倒すのが手っ取り早い。ただ、その首謀者だ。まったく手がかりがない。


 窓の外が白み始めてきた。やばいな。夜が明けると、敵も一斉に動きそうだ。


 今、何時だ? ポケットから懐中時計を出した。おお、間違った。オリヴィアのだ。


 オリヴィアの懐中時計をポケットに戻そうとして、おれは止まった。


「カカカ、どうかしたか?」


 懐中時計を耳に近づける。チクタクチクタク・・・・・・


 フタを開けてみた。懐中時計は動き出している。


「おい、カカカ」

「ダネル」

「なんだ?」

「お前の作り話、なんて言ったっけ?」


 ダネルが不思議そうな顔をしたが、話は覚えていたようだ。


「悲運の死を遂げ、死霊になった女がいた。そこへ通りがかった勇者が呪いを解いた。死霊はやさしい勇者に恋をした。人の心を取り戻した死霊は、恋の精霊へと生まれ変わりましたとさ。これの事か?」


 今日、オリヴィアは馬車の中で座っていた。人間みたいだった。ここ最近、オリヴィアは出しっぱなしだ。だんだん意思の疎通ができているのか?


 おれはマクラフ婦人を見た。


「なに? どうかした?」

「何度も、オリヴィアに触れましたよね?」

「ええ、魔力を与えるためね」

「変わってきた事とか、あります?」


 婦人はちょっと考えた。


「言われてみれば、最初のころより、魔力が抵抗なく入るわ」


 何度も人と触れ合った。それも変わる要因なのか。


 オリヴィアはギルドの隅に漂っていた。その前まで歩き、真正面から見つめる。


「おれに何か、伝えたいのか?」


 オリヴィアの表情は動かなかった。だめか。相手は死霊から精霊になったとは言え、妖獣だ。複雑なやり取りはできないのか?


 なんだろう。何か見落としているのか。


 ギルドの窓から外を見る。あの日、死霊のオリヴィアは、ギルド前のアパートメントを見ていた。自分の部屋だ。


 待てよ。アンデッドは人を襲ってきた。オリヴィアは自分の部屋を見てただけ。その後で戦った。いや、戦ってない! 単にぶつかっただけだ。


 バルマーの命令で、人々を襲うんじゃなかったのか? 現にアンデッドは襲ってきた。


「おい、カカカ」

「ダネル」

「だから、さっきから何やって・・・・・・」

「おれが寝取ったのは、バルマーじゃないかも」

「はあ?」


 ひょっとすると、ひょっとする。今回の一連の騒動は、変異石とバルマー絡み、すべてそうだと思っていた。だが一つ、浮いてる存在がある。地縛霊だ。


「じゃあ、誰から寝取ったんだよ」

「実は、もう一人、島にいたとしたら?」

「なにがだ?」

「ネクロマンサー」

「なに! 死人使いが?」


 おれはオリヴィアを見つめた。


「オリヴィア、君が殺された所に案内できるかい?」


 白い精霊はギルドの出口に移動した。そしてこっちを振り返る。おれはうなずいた。お前の伝えたい事、伝わったと思う。


「よし、みんな」


 おれはギルドに集まってくれた仲間を振り返った。


「ボス戦に挑もう」



 

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