Ⅱ第四十四話 夜更けのギルド

 馬車を降り、ギルドを見ると明々と灯りがついていた。


 重い扉を開けると、意外な人物が一人、立っていた。


「グレンギース!」


 おれを担当していた交渉官だ。今は出世して、このギルドの所長をしている。忙しいのか話す機会は滅多になかった。


「あら?」


 グレンギースの身なりに首をひねった。いつもは仕立てのいい白いシャツを着ていた。それが今日は黒ずくめ。黒のシャツに黒のズボンだ。


「これ、偶然すぎません?」


 おれは、おどろきの声を三人にかけた。アドラダワーは黒いドクターコート、ミントワールは黒いロングフード、それにおれ、黒いマントだ。


「偶然ではありません」


 グレンギースが口を開いた。


「私の提案で、すべて私から思う人に贈呈してあります」

「いや、おれはダフにもらっただけで・・・・・・」


 そう答えようとした時、ギルドに誰か入ってきた。


「それは、わたしの提案ね。カカカに詳しくは伏せておいたほうがいいって」


 マクラフ婦人だった。真新しいのか、ぴかぴかに光る銀色の鎧をつけている。その下に着ている服は、やはり黒だった。


「これは何の集まりなんだ、グレンギース」


 ギルド新所長はうなずき、一度奥に行った。木箱を抱えて戻ってくる。


「これは、すべて私への連絡石です」


 中には魔法石がたくさん入っていた。


「前回のバルマーのような一件。この国に危機がおとずれた時、緊急の連絡網を作ろうと思いました」


 なるほど。ロードベルの魔法を使えない人には、これをわたすのか。


「でも、おれ、もらってないぜ?」


 仲間外れが一人、ここにいる。


「さっき言ったでしょ、わたしの提案だって」


 横から口を開いたのはマクラフ婦人だ。


「グレンギースは所長になったけど、あなたとの繋がりを危険視する人も多いの」

「お、おれ?」


 危険視されるって、あれかな、このギルド、爆破したしな。


「まあ、危険人物に見えなくはない・・・・・・か」

「ちがう、救国の英雄でしょ!」


 あっ、そっちか。


「再編成された憲兵隊、オリーブン城、どちらからも要注意人物なのは、この島であなたぐらいよ」


 それを聞いて思い出す事があった。ミントワール校長を見る。校長は、おれが何を言いたいのかわかったようで、うなずいた。


「カカカを助手で使うと城に言うと、最初は断られましたわ。ほかに誰もいないので、最後はしぶしぶ許可が出ましたが」


 なるほど。なんでおれに最初に言わないんだろう、そう思ったが、理由はこれか。


「おう、集まってるな」


 その声はダネルだ。馬車が着いたのに、どこ行ったのかと思いきや、家に一旦帰ったのか。その後ろにはダンとダフの兄弟もいる。みんな、黒服だ。


「お前も知ってたのか」


 おれはダネルを睨んだ。水くさい。


「俺も賛成したからな。おめえは、秘密を守るとか、演じるとか苦手だろ」

「んなことねえよ」


 そんなことはない。ない。ないよな? 思わず聞いても無駄なハウンドを見つめた。ハウンドは興味なさそうに長椅子に行き、ぴょんと飛び乗って丸くなった。


「遅くなってすまねぇ」

「いた、カカカ!」


 聞いた事のある親子の声。嘘でしょ。ふり返ると、ギルドに入ってきたのはブルトニーとカリラの親子だ。


「ブ、ブルトニーさんも?」


 グレンギースに聞いてみた。


「あの方は、昔、けっこう名の知れた武道家です」


 おお、どうりで戦いっぷりが慣れてると思った!


 そしてブルトニーさん、今日は黒い前掛けをつけている。そこは前掛けにこだわるのか。


「わたしもカカカ・パーティーに入るもん!」


 カリラが怒った顔でやってきた。うん? 何て言った?


「すいません、出かけに聞かれて、どうしても来るって聞かなくて」

「わたしだって、カカカ・パーティーの一員だもん!」


 妙な単語が二回聞こえた。


「グレンギース?」


 おれの元担当交渉官、そして現ギルド新所長は、大真面目にうなずいた。


「私が黒服を進呈したのは、国が危機になった時、すぐにカカカ様のパーティーに入っていただける者たちです」


 あんぐり。開いた口が塞がらない。


「前回のように、勇者が自ら募集をかけ、それを待つなど、二度とやらせたくありません」


 バルマー討伐のパーティー募集か。あの時は誰も来ず、最後にガレンガイルが来たっけ。


「そういや、そのパーティーに、ガレンガイルは?」

「もちろん加わっております。あいにく島を離れているのが悔やまれます」


 なるほど。おれは振り返り、あらためてみんなを見た。知り合った人、ほとんどだ。


 これ、目に力を入れておかないと、おじさん泣いちゃうぞ。


「まあ、俺たちは物資要員だけどな」


 ダネルが言った。それでも嬉しい。


「腕っぷしはねえからな、俺ら三兄弟は」


 いや、ダン、お前は戦えよ。むしろ先頭を走れ。


「しかし、名前が・・・・・・」

「カカカ・パーティー、ですか?」

「ええ」


 なんとも、しまらない。


「ほらな、だから言っただろう、カカカ軍団だと」


 ダンが言った。いや、それもダサイよ、飛びっきり!


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