エピローグ

 依頼を片付けた帰りだった。


 いつものように氷屋に寄る。手にしていた袋から、玉ねぎをいくつかカウンターに置いた。


「おう、こりゃいい玉ねぎだ。肉と一緒に焼いて挟むか?」


 おれはうなずいた。今日の依頼主からいただいた物だ。いつもの席に座って待つ。


「はいよ、エールだ」


 オヤジさんは、ジョッキをカウンターに置いた。


 おれは自分で取りに行く。


「この間の大ダコ騒動、どうなった?」

「あれですか。ひどいもんでしたよ。みんな真っ黒になっちゃって」


 漁師の網に巨大ダコが引っかかる事件があった。倒せたが、おれもハウンドも墨をかけられ真っ黒になった。


 オヤジさんは「ぐはは」と笑った。


 オヤジさんが助かった経緯は、本人には話していない。アドラダワー院長が助けた事になっている。


 おれのお陰、なんて思われると最悪だ。おれのもっとも愛すべき店が、使いにくくなる。みんなには固く口止めした。


 ジョッキを持って席に戻る。


 チックをテーブルの上に乗せ、足元のハウンドをなでた。おれの仲間は、相変わらずの二匹だ。


 戦士となったガレンガイルは、一人で星三つの依頼をがんがん受けている。もはや「ギルド最後の砦」なんて噂も聞こえる。


 ティアは色々なパーティーを出たり入ったりし、多種多様な依頼を受けている。マクラフ婦人の教えかもしれない。


 ティアとは、あの石切り場での戦いから、あまり話をしなくなった。ギルドですれ違っても挨拶するぐらいだ。このおじさん、シモネタ言いすぎて嫌われたみたい。


 マクラフ婦人は、今日も絶好調に不機嫌だった。


 ダネルとどうなっているか、そこはわからない。わからないが、あのペンダントは外していない。それは今日も見た。


 交渉官のグレンギースは、ギルド局長に大出世だ。


 たしか、憲兵の若造も副隊長になったと聞いた。


 何も変わらないのは、おれぐらいか。あいかわらず星一つの依頼をかけずり回っている。まあ、好きでやっているからしょうがない。


 海に視線を移した。


 水平線の上がずいぶん赤い。今日はいい色に焼けている。


 エールを一口飲んだ。


 やっぱり、ここのエールが一番うまい。


 ゆるい風が吹いた。


 夕凪だ。


 おれはその夕凪を楽しもうと、目を閉じて風を感じた。





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