第82話 一夜明け
次の朝、騒がしさに目が覚めた。
人が大勢いるような、ざわめきが聞こえる。廊下に出てみた。
二階に人はいない。一階の騒がしさのようだ。
階段を降りて、ぎょっとした。人で溢れかえっている。商人から農家、金持ちそうな格好の者まで多種多様の人々が窓口に押し寄せていた。
壁づたいに人混みを避け、職員側への扉を開けて入った。おれを見たグレンギースが駆け寄ってくる。
「交渉官、この騒ぎはなんです?」
「昨晩の死霊、あれは島の各地に出たようです」
「じゃあ、この人たちは死霊退治の依頼ですか!」
そうか。死霊退治を請け負っていた三つの教団は、憲兵や守備隊と戦った後だ。憲兵が壊滅状態なら、教団もそうだろう。
そうなると、死霊退治をしてくれそうなのは、ギルドしかない。
「カカカ様、受けていただけますか?」
「それはもちろんですが、この量は」
依頼書の束を抱え、壁に貼っている職員が見えた。
「交渉官、依頼書の壁に、違うものを貼ってもらう事ってできます?」
グレンギースは不思議そうな顔をしたが、説明すると納得してくれた。すぐに、その書類を作ってくれる。
貼ってもらったのは、パーティーの募集だ。一緒に死霊退治をしてくれる人が欲しい。
十枚の同じ紙を作ってもらい、依頼書が貼られた壁の下に一列で並べた。かなり目立つ。冒険者が来れば、必ず目につくはずだ。
おれは募集が来るまで、街に出た。
あの死霊はどこかに去っていた。街中のどこにもいない。人はいたが、皆、それぞれ固まって不安そうな顔で話をしていた。
港の方に出ると、船に乗る人の多さにびっくりした。こんな島にはいられない、そう思ったのだろう。
去る人々の中には冒険者も多かった。何度かギルドで見た顔もかなりいる。
港の近くから歓声が聞こえた。それは憲兵本部のほうだ。
駆け寄ってみると、憲兵本部から列をなして馬車が出ているところだった。憲兵本部の屋上から、高らかなラッパの音も聞こえる。
これは出陣式だ。列の中にガレンガイルの顔を探したが、見つけられなかった。
そうだ、詰所だ。街中の詰所に行けば、見知った顔がいるかもしれない。
詰所には、三人の憲兵がいた。そのうちのひとりが、あのギルドでも会った若い憲兵だ。名はたしかニーンストン。
離れた木陰から、ニーンストンに手を振る。気づいて、こっちに駆けてきた。
「カカカ殿! 隊長が!」
「その話は聞いた。今どこに?」
「家で謹慎中です。むごい話だとは思いませんか? 敵のアジトを見つけたのは隊長ですよ!」
おれはうなずいた。見つけたのはダネルなんだが、この若い憲兵の意見は正しい。
ガレンガイルに非はない。何ができるかわからないが、何か考えないといけない。それはともかく、さきほどの出陣が気になった。
「ニーンストン、さっき、憲兵が出掛けてたが、どこへ?」
「北の採石場です。ヨーフォーク邸の地下壕から伸びる道は、途中で塞がれていましたが、方向は採石場のようです。それに、調査に行った者が言うには、ドクロの頭巾をした者が洞窟へ出入りしているようです」
採石場の洞窟。バルマーはそこに根城を構えたか。悪者には、お似合いの住まいだ。
「ニーンストン、お前は行かないんだな?」
「ええ。志願しましたが、だめでした。一番隊、二番隊の生き残り、それに三番の精鋭を連れ、ブレアソール総隊長が指揮します」
行かなくて良かったな。その言葉をおれは飲み込んだ。
昨晩の死霊、どう考えてもバルマーだろう。ところが、簡単に居場所が見つかったのが気になる。罠の匂いがレバーソーセージ並みにプンプンだ。
しかし、バルマーを倒せれば、死霊は全ていなくなる可能性もある。
夕方まで待ってみたが、仲間の募集はなかった。募集どころか、ギルドに冒険者が来ない。明日の午前中まで待ってみよう。
仲間にできそうな冒険者がいなければ、ひとりで死霊退治をするしかない。しかし、この数、ひとりでできるのか?
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