第69話 酒場の外

 くそっ。どこを探していいのか、見当もつかない。待てよ、まず最初にあいつに聞いてみるべきじゃないか?


 おれは数少ないコネの中から、関係がありそうな者を思いついた。


「校長、馬車を借りれませんか?」


 学校なら、馬車の一台ぐらいあるんじゃないか? そう思って聞いてみたら、本当にあった。


 職員のひとりに運転してもらい、西の港街に急ぐ。


 街に着くと飲み屋街に走った。酒場に入る。会いたかった男は、酒場のカウンターで部下と酒を飲み交わしていた。


「憲兵隊長、折り入って話がある」


 隊長を連れて外に出た。


「切羽詰まっているな。何だ」

「初等学校の子供が四人、いなくなった」

「そうか、迷子か」

「ではない。結界を使い、学校から連れ去った可能性がある」

「誘拐なのか!」

「ここ最近の、行方不明者の情報は何かないか?」


 隊長はおれを見つめた。


「カカカ、それは憲兵内の情報だ。外の人間には話せん」

「その中のひとりは、おれの知り合いだ。どうにかならんか?」


 隊長は首を振った。


「悪いが、それはどうにもならん」

「わかった。では、憲兵隊はそういう情報は持っているのか? それとも、これはギルドの仕事なのか?」

「憲兵の仕事だ。その身内がギルドにも依頼をしているだけだ。ギルドよりも我々のほうが情報は多い」


 ということは、行方不明はもっと多いのか。


「わかった」

「わかった、とは何だ?」


 おれは踵を返した。憲兵隊長に肩をつかまれる。


「待て、カカカ、何がわかったというのだ」

「憲兵本部に行く。情報を盗む」

「おい、本人の前でそれを言うか」

「聞かなかった事にすればいい」

「そうはいかん。止めねばなるまい」

「止めれば、斬る」


 隊長の動きが止まった。


「剣を教えている俺を切れるのか? まだ、そこまでの腕はないぞ」

「ああ、負けるだろう。だから、お前は、教え子を斬ったと後悔して生きればいい」

「法外な事を言う」

「ガレンガイル、知り合いの子の生きるか死ぬかの話をしている。止めるなら、そのつもりで来い」


 隊長は珍しく頭をかきむしった。


「最初に会った時もそうだった。脱獄して帰ってきた。お前は時に無茶をする」

「いや、あれは知らないだけだった。今回は違う。ここに来るまでにおれは考えた。その子の生き死には、おれの生き死にと同じだ。そう結論が出た」


 馬車の中で、人生でありえないほど動揺している自分に気づいた。結婚もしていないし、親の気持ちもわからない。だがもし、あの子に何かあれば、おれは一生、悔やむだろう。


 まして今の自分の職業は「勇者」だ。ここで助けられなければ、おれは終わる。強烈にそれはわかった。


 隊長は考え込んでいる。そして意を決したように頭を上げた。


「ついてこい」

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