第42話 二度目の入院
見知った部屋で目を覚ました。アドラダワーの治療院だ。
今回も病室にはおれひとり。ベッドの右には院長が小さなイスに座っている。身体を起こそうとしたが、マヒして動かなかった。
どう起きようか考えていると、ふいに身体が動いてびっくり。左側に看護師がいて、おれの上半身を起こしてくれた。くの字の板をお尻に挟まれ、おれは座ることができた。
「一緒にいた娘さんに、だいたい聞いたわい。仲間のクリッターは、その子にまかせた。今回は、上級のマヒ呪文をずいぶん受けたのう」
右手を上げてみる。ゆっくり動くが力は入らない。
「受け過ぎじゃ。何回も受けると、すぐには治らん。しばらく療養じゃな」
「回復魔法でも?」
「魔法は、万能ではない」
怖くて確認したくなかったが、この際だ。聞いてみよう。
「蘇生魔法って、あります?」
「死は、避けられぬ自然の
まじか、ないのか。
「理を超えることはできん。それを越えようとすれば、お主が会ったような異形の物になるだけじゃ。いや、もしかすると、人間はすでに異形の物であり、それに対して自然が妖獣を放ったのかもしれん」
アドラダワーは苦々しい顔をした。
「院長」
「なんじゃ?」
「たぶん、すげえいい話なんだと思うんすけど、おれ、半分も意味がわかんないっす」
アドラダワーが、イスからずり落ちそうになった。
「まあ、よく死ななかったものじゃ」
「ここ最近、死霊と戦いまくったんで、マヒ系に慣れてるのかも」
「ほう、なら、精神力はかなり上がっとるの」
しまった。あの爆破以降、レベル上げをするのを忘れている。
「いえ、レベル上げは忙しくて、最近してないんですよ。前と同じです」
「レベル上げ? お主が壊したギルドの事か?」
「そうっす」
「あれは、数値をまとめて上書きするための道具じゃ。人間は日々、成長しておる」
えー! とおどろいたが、それで納得できた事がある。チックが突然、違う魔法を使った事だ。
待てよ、ということは、ティアのあれもか。特技が生まれた、そういう事か?
「もう、ここはいいぞ」
院長が看護師に言った。看護師が出ていく。院長が身を乗り出し、おれを正面から見据えた。
「前も思ったがの、お主、何者じゃ?」
おれは返答に詰まった。
「最近、来たばかりで。ここの国のことは、あまり」
「異国人どころではない。生まれたての赤ん坊ほど、常識を知らん」
院長がおれを見つめる。これは困った。
実は、この世界の人間ではないんです。ゲームしようと思ったら、ゲームの世界に入っちゃって。現実だったほうがゲームになったみたいです。ああ、そのゲーム? おれの家にありますよ。木の兜で見れます。びっくりですよね。
なあんて事は、言えない。
「悪人か、善人か、災いを呼ぶ者か、わしから見ると、さっぱりわからん」
院長の顔は、まじだ。
「き、そう! 記憶喪失です」
ひねり出した! オカンが見てたドラマが、たしかそんな感じだった。記憶喪失で恋人と結ばれたら、実は血が繋がってましたって。どんだけ運命の出会いやねん。
「記憶が無いと?」
「あっ! ほら、だから、こんな適当な名前なんです。カカカ。普通、つけます?」
「たしかに。よほどの変わり者しか、つけんかもしれん」
「そうなんです」
言いながら、自分で傷ついた。
「それは大変じゃのう。困る事はないのか?」
「まあ、今の所は。いや、あります! 魔法がどうやったら使えるのか、さっぱりわかりません。魔力はあるようなんですが」
「魔法か。魔法学校は行ったのか?」
え、そんなのあんの?
「それも覚えておらんか」
うんうんと、うなずいておく。いいように解釈してくれたみたい。
「古代文字は読めるんじゃろう?」
古代文字? あの本棚にあった意味不明の文字か?
「わかりません」
「そこからか! 初等学校で習うじゃろう」
おれは「うーん」と首をひねった。院長も「うーん」とうなって考え始める。
「ちょっと待っておれ」
そう言って部屋を出ていった。
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