第二章

第31話 りんご畑でブタにはねられる

 依頼主は老夫婦の二人だった。


 じいさんのほうに連れられ、急いで林檎畑に行く。山の中腹にある、けっこう大きな果樹園だった。


「あそこに!」


 じいさんが指すほうを見ると、黒豚のような生物が走っている。あれが「ラブー」か。


 どこへ走ってるんだろう? と思うと、林檎の木にどしーん! とぶつかった。林檎の実が、ばらばらと落ちる。賢いな!


 おれは手で輪っかを作った。


「アナライザー」

「わわわ!」


 じいさんの声で前を見る。ラブーがこっちに向かって突進してきた!


「おじいさん離れて!」


 背中の盾を外して構える。正面からラブーを見据えた。こいつ、一つ目か。おっかねえ。


 ドン! と衝撃。原付きに轢かれた! ぐらいの威力。おれは吹き飛んで、地面を転がる。


 どどど!っと、こちらに駆けてくる音が聞こえた。あわてて身を起こし盾を構える。今度は突進を受けずに寸前でよけた。


 ラブーが引き返してくる。また寸前でよけた。すれ違いざまに短剣で斬る。「ぶふぉ!」と鳴き声を上げたが、また引き返してくる。これは、あれだ、スペインの闘牛だ。


 さきほど喧嘩したネヴィス兄弟の長男より、動きは単純だった。とにかく体当たり。かわす時に短剣で斬る。それを繰り返した。


 十回は斬っただろうか。血は流れているが、走る速度は落ちてない。こいつの体力は、いくつなんだ? 永遠に続きそうな気がした。


 また突進してくる。かわした。この隙に、胸ポケットからチックを地面に下ろす。


 チックがいる場所から、少しずれて盾を構えた。足を大きく開き、腰を落とす。


 ラブーが来る。ぶつかった。必死に踏ん張った。


「チック! こいつを刺してくれ!」


 盾に肩をつけ踏ん張っているので、チックが見えない。わかっただろうか?


「ぎゅぎゅう!」というような鳴き声を上げて、ラブーが離れた。よたよたと逃げていく。


 チックが足元に帰ってきた。胸ポケットに入れる。


 ラブーの動きはゆっくりになり、そして倒れた。チックの特殊スキル「毒針」だ。


 おれはラブーに近づき上から見下ろす。ラブーは、一つしかない目でおれを見た。これは、あまり気分のいいもんでもないな。早く終わらそう。


 短剣を逆手に持ち、心臓と思われる場所に刺した。ラブーの息が止まる。


 しばらく待っていると、水晶のカケラが十個出てきた。リュックに入れる。


「ありがとうございました」


 じいさんとばあさんが戻ってきた。ばあさんは手に綱を持っている。


 じいさんに依頼書を渡す。ペンは用意していたようで、すぐにサインをくれた。


 ばあさんのほうは、ラブーの足に綱をつけ、畑の端に引っ張って運んでいた。この世界の人にとっては慣れてるんだな。たくましいわ。


 おれは依頼書を受け取り、目礼をして畑を出た。

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