第18話 死霊

 黒い霧は、だんだんと人の形をなしてきた。くそ、アンデッド系だ!


 RPGでゾンビや悪霊といった敵を「アンデッド系」とよく呼ぶ。考えてみれば墓地だ。出現するには、お似合いすぎる。


 大急ぎで手の輪っかを作り、交差させる。


「アナライザー・スコープ!」


  名前:死霊

  体力:1

  魔力:100

  攻撃力:0

  防御力:0(物理攻撃不可)

  アメジスト:1

  魔法:コールド・ブレス


 これ、やべえ、物理攻撃が効かないタイプか! 逃げるしかねえ。


 駆け出そうとした時、「アアア」と低い女の声と共に、冷たい風が押し寄せた。


 身体が固まった。


 マヒ系の呪文かよ! 生まれて初めて受けた呪文は、マヒ系か。これ、意外な辛さがある。目が乾く! まばたきできない!


 こういう精神系の呪文は、精神力でどうにかなったり、という話はよく聞く。気合を入れて指先を動かしてみた。


「うぬぬぬ」


 重い岩を持ち上げるみたいに、うめきが口から出た。指先がちょっと動いた。歯をくいしばる。


 くいしばる? 口は意外に動くのか。口とアゴに力を入れてみた。ガムテープが貼られた口を無理矢理に開くような感じだ。


「ぬうあー!」


 開いた!


「なにすんだ! このブス!」


 やべえ、思わず文句を言っちゃった。


「アアア」


 もう一度、女の声と冷たい風が来た。寒い。でもちょっと、エアコンの風を思いだす。またマヒした。口をこじ開けてみる。


「ぬうあー!」


 なんとか開いた。


「嘘です! 美人! カワイイ! 巨乳!」

「アアア」


 褒めても無駄だった。また風が来た。今度は口も、ぴくりとも動かせない。


「アアア」


 また来た。これ、さすがに喰らい続けると、やばいんじゃね? 心臓発作とか起こしそう。


 背中でモゾモゾと動く感触がする。フナッシーか!


 ガサガサと音が上がってきた。リュックの口から出てきたのか。いいぞ。逃げとけ。


 視界の下の方に、動くものがあった。眼球と首に力を入れる。ちょっと地面が見えた。


 フナッシーが、カサカサと霊廟の方に動いていく。あのバカ! そっちじゃねえよ!


 止まって体を前後に揺さぶっている。なんだ? あの動きは。


 パシッ! と音がして、フナッシーから針のような物が飛んだ。死霊の胸に突き刺さる。


 死霊の黒い霧は薄くなり、やがて消えた。


 身体のマヒが取れた。すぐにパラメータ画面を出す。仲間のパラメータを呼び出した。フナッシーの二ページ目。


  魔法:ニードル・ブレス


 うわおー! 魔法使えたんかーい!


 おそらく与えるダメージは「1」なんだろうけど、死霊にはドンピシャだ。


 死霊がいた霊廟の裏にまわる。アメジストのカケラを見つけた。リュックに入れる。


 早く逃げたほうがいい。もう一体出たら終わりだ。フナッシーはさっきの呪文で、なけなしの「魔力:1」を使い果たしている。


 フナッシーを拾い、胸ポケットに入れた。急いで帰る。バケツは持って帰らない。絶対に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る