第19話 爆発
死霊が出るとは聞いていない。仕事が違うのは契約違反だ。
館の玄関にまわり、強くノックする。執事が出てきた。
「契約違反だ。死霊が出たぞ」
「退治したのですか!」
「依頼人を出してくれ」
「旦那様は、出掛けております」
帰るまで待つか、ちょっと考える。
「もういいわ」
おれは執事に背を向けた。バカバカしい、もう帰る! そんな気分だ。
乗り合い馬車で街まで帰った。ギルドに直行する。報告する前に、壁の依頼書を見ておこう。次の依頼を決めておかないと、お金がない。
子犬探し:300G
これいい! 最高!
壁から外して窓口に行く。おばちゃんの窓口に無意識に出した。もう習慣になっちゃったかも。
依頼書と、ズボンのポケットに入れておいた冒険者証を出した。
「依頼は、二つ同時には受けれません」
そうなのか。そして意外、おれを覚えているみたいだな。
「今日の依頼は、契約違反だ。内容が違う」
「どのように?」
「墓掃除だった。行ってみたら、死霊がいた」
「なるほど。それで逃げて来られましたか」
「いや、倒したよ。一応」
うしろの職員が数人、こっちを見た。おばちゃんも意外だったのか、少し眉が動いた。
「では、こちらで調査いたします」
「お願いします」
おれはもう一度、依頼書と冒険者証を相手の方に押した。
「調査が終わるまでは、次の依頼はできません」
まじか! がっくりして依頼書を壁に戻した。
帰る前に、レベル上げだけしとくか。パラメータを確認する。やっぱりね。あの死霊との戦闘で、かなり経験値が入っている。
二階に上がり、四回ノックして四回目で空き室があった。部屋に入る。
水晶玉に手を置いた。胸ポケットのフナッシーが、うごうごしている。いけね、黄色い玉と一緒に入れてるわ。
つまんでみると、フナッシーは黄色い玉にしがみついていた。黄色い玉が光っている。なんだこれ?
パラメータが二つ開いた。おれの分とフナッシーの分だ。そうか、仲間もレベルが上がるのか。
台の上の水晶玉が光り始めた。黄色い玉も、さらに強く光る。なんでだ?
爆発した!
おれは後ろに吹き飛んで木の壁をぶち破り、隣の部屋まで飛んだ。鼓膜がきーんとして音が聞こえない。女性の泣き叫ぶ声がかすかに聞こえた。
倒れたおれの胸に、何か小さな赤い生き物がぽとりと落ちた。小さなハサミと、尻尾には棘がある。まるでサソリだ。赤いサソリ。
「ア、アナライザー・スコープ」
名前:クリッター
体力:100
魔力:1
攻撃力:10
防御力:60
魔法:ニードル・ブレス
特殊スキル:毒針
なんだ、こいつは?
「我ガ名ヲ与エヨ」
はあ? 名前?
それどころではない。意識が飛びそうだ。
「我ガ名ヲ与エヨ」
うるせえな、ちくちくしてそうだから「チック」は?
「心得タ」
だから、お前は、なんなんだ?
目の前が白くなってきた。
そしておれは、気を失った。
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