『猫の祟りと六代目』について
高校の英語の授業の中で「God」というと基本的にはキリスト教における神の概念が第一義に来て、キリスト教では神は唯一なので、それだけで善なるもののイメージが強いという話を聞いたことがありました。
それに対して日本の神の概念は、「八百万の神」というように沢山いることに加え、貧乏神やら祟り神やら、「善ではない」神もいることが特徴として挙げられ、キリスト教圏の人からするとその辺りの感覚の違いが大きいと聞いて、非常に興味深く思いました。
また、日本においても宗教的な諍い(キリスト教の弾圧や寺の焼き討ちなど)は、もちろんあったわけですが、海外ほど苛烈な宗教戦争に発展していないのは、そもそも日本の神道が多神教ゆえ、他の宗教の神様も「外国のなんか偉い神様の一柱」と受け入れる素地があったからとかなんとか聞いたこともあり、こういう感覚の緩さが大変好きだなと昔から思っておりました。
そんなわけで、偽教授さん主催の自主企画・第三回偽物川小説大賞のテーマが「神」だったので、私の好きな日本的な神様の話にしようと思い、“猫の祟り神”を主軸に据えて『猫の祟りと六代目』を書きました。
まあ、たぶんキリスト教的な神の話はたくさん来るだろうし、そもそも馴染みがなくて書いても内容が薄くなりそうだから、一神教的な神様はやめておこうと思ったのも理由としてあります。
「猫は七代祟る」という俗説について、この少子化のご時世だとそもそも七代続くかどうかも怪しくないか? というか七代続く前に断絶したらどうなるんだ? と前々から感じていて、その疑問を元に話の骨子を作りました。
元々「三年峠」のような悪いジンクスを逆手に取る話が好きで、「猫は七代祟る」ということは「猫に祟られた場合は七代は続くことが保証される」ということでは? という逆転の発想で、おタマ様の祟りの理由と過去の話を書きました。
ありがたいことに、偽物川小説大賞で銀賞を頂き、講評でも祟りの理由がしっかりしていてよかったという内容のお褒めの言葉も頂きました。
一番書くのに苦労したのは、過去編のおタマ様が暴力を振るわれる描写で、暴力描写を書きなれていないのでしんどかったです。
動物を飼ったことはないのに、動物ものの映画は予告編だけで泣いてしまうタイプなので、動物が虐げられる描写が本当に書いていて辛くて、それ以外のところでバランスを取ろうとして全体的に他は優しい世界観となっています。
まあ、そもそもの話として、ツイッターで回ってきたタグの『悪役になったら何をしたい?』という質問に対して『高笑い』と答えたことがある人間なので、悪い奴を書くのが向いていないのだと自分では思っています。心理テストをすると大抵、典型的な秩序/善タイプになります。
過去編のエピソードは暴力描写以外も、登場人物の行動背景の部分に割と気を遣って書きました。
クソ当主に暴力を振るわれても、おタマ様がおキヨの方は恨まないように、店の人からもおキヨからも愛されて育ったことが分かるような描写を入れて、一応、クソ亭主の方もそういう行動に走ってしまった理由の部分も多少は入れました。
奥さんと猫への虐待は許されるものではないですが、それでもおキヨが支えようとしただけの何かしらはキャラ付けしておかなければと思い、商才のなさと先代との比較に悩んでいる器の小さい男、ということにしました。
おキヨは当時だと年増と呼ばれる25歳で嫁いできて、子どもに恵まれないことを気に病んでいるという設定でした。
そして、読んだ方から大変好評だった祟り神の猫のおタマ様! 正直ここまで愛されるとは思ってもみませんでした。いやはや、もふもふは正義ですね。
おタマ様は江戸っ子に育てられたので、チャキチャキした江戸っ子気質です。
伊織の世話を焼かせるにあたり、同年代やちょっと上よりは、うんと年が離れている方がいいと思い、おばあちゃん猫にしました。
人に化けている時の見た目のイメージは女優の夏木マリさんです。
人型だと頼もしいし、猫型だと可愛いし、一度に二度美味しいなと思って化けられる設定にしました。
また、「2万字でまとまっているけれども中・長編で読みたい」という話が選考会議で出たようで、確かに、主人公・宮尾伊織と、魚屋の
ただ、最初に祖母と紹介した手前、結婚式に本当の祖母が来た時に北海へどう説明するかという問題があって、長編にするとしたらこの辺りを何とかしないといけないなと思っています。
結婚式の集合写真に人型のおタマ様が映ってそうだねと友人に言われ、それは素敵な心霊写真だなと思いました。
ちなみに北海の下の名前は、従妹の同級生の鮨屋の息子に同じ字で「まだい」と読む子がいて、そこから借りてきています。
お父さんが「真鯛」と付けたかったそうなのですが、周囲に大反対されて「真大」に落ちついたというエピソードが好きすぎてお借りしました。
書いていませんが、北見には県外の大学に行っている「
伊織と真大の関係の進展を旬の魚で概略した部分が個人的にはこの小説の文の中で一番気に入っている文です。
そしてこの作品、pixivノベル大賞~2021Autumn~(https://www.pixiv.net/info.php?id=7813)のテーマ(私は「妖怪」「罪と罰」を選択しました)にちょうどいいんじゃないか? と思い、「祟り神」を「化け猫」にして、あとは概ね同じ内容で応募していたのですが、なんとpixivノベル賞を頂きました!
イラストレーターさんの描いた表紙付きでpixivノベルに掲載になります。
ちょっとよそのサイトのことなのでここに書くのもアレなのですが、初めて公募で賞を頂いて大変嬉しく思っております。
素敵な企画を開催してくださった偽教授さん、推してくださった評議員の皆さん、本当にありがとうございました。
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