第3話 起承「転」結、しかしてそれは物語

紆余曲折、艱難辛苦。

そうして省かれた中にこそ、私にとって重要な事柄はいっぱいある。

私は結局、観測する事しかできない。


そういうゲームだからだ。

プレイヤーとは名ばかりの、およそただの観測者。

そして意図してそうさせられている、干渉量の少なさは意図的なのだ。



【艱難辛苦には様々な物がある。】

【それは書き記しきるべきものじゃない。】


【彼女が記憶の中で泣き叫ぶ事は多かった。】

【彼女が記憶の中で微力ながらも助けを得たり、助けになる事もあった。】

【彼女が記憶の中で無力を噛み締める事は多かった。】

【彼女が記憶の中で死んでしまう時もあった。】


【彼女が記憶を思い出して、彼女が喜ぶ事もあった。】

【彼女が記憶を思い出して、彼女が悲しむ事もあった。】

【彼女が記憶を思い出して、彼女が疑問に思う事もあった。】

【彼女が記憶を思い出して、悲嘆に暮れて閉じこもる時もあった。】


【どの時も、私は見るか少しばかり何かするかしかできない。】



彼女が悲嘆に暮れたり、喜んだり。

それを見るのは楽しみだった。

だってそれは物語だから。

様々な方法や意味で否定したり、埋め立てようとしてもゲームの物語なのだ。

劇的で、葛藤があって、激情と理性がもつれる。

最高だ。


だがそれは、彼女と感情を共有しない理由とはならない。

そして彼女に入れ込ませるためのシステムと要素はたっぷりとあった。

干渉量は少ない。だが全く影響できない、ただの観測者ではない。

多少の意思疎通はできるし、その他色々な事もできる。

制限はある、ただ少しずつ様々な物が追加されても来る。

関係性を築くだけの、時間と要素。

特に時間の方は、皮肉にもたっぷりと用意されてしまった。



【物語は佳境に入る。】

【様々な伏線と構造が暴かれ、どのような存在であるかが明かされる。】

【彼女が異世界に誘拐された"設定"とか、それがどうして物語に絡むのか。】


【ようやく、私がプレイヤーとなるタイミングがやってきた。】

【先のゲームと連動するゲームが出たのだ。】

【そこでは私が主人公である、唯一のでは無いが。】

【だがそれで十分だった、それまでに貯めた物をぶちまけるには。】

【だがどうあがいても、そもそも不十分だった。】



真に、心の底から望んでいたのは、戦闘でも物語への介入でも無い。

全くの逆。

絶対に提供されない、いやできないものなのだ。

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