それから〈エピローグ〉
――なんてことがありまして。
「師匠。大変なことになっちゃいましたね」
「富永栄司のようなマインドの人間は少なくない。こうなりゃ裏会も敵に回して異能力者の国を作ってしまうのもアリだな」
「わぁ……壮大」
キャシーが聞かせてくれたこと。富永栄司はまだ何人かの異能力者を監禁しているという事実。
四年前のあの大事件すら彼が黒幕であり、生存者へのバックアップも全て異能力へのためと見ると、その執念に呆れも浮かぶ。
同時に気味が悪いものだ。
「人間同士がわかり合うのは難しいぞ。そして俺たちは、人種差別よりももっと難しい場所にいる」
「まだ人々へは私たちの実態って公表されてもいませんから。それを見てからでも、対話は遅くないかなーとも思うんですケド……」
「そうかぁ?」
「はい。きっとそうですよ、たとえ、私たちが許されなくても、きっとこれから私たちのような異能力者は増えていくんだと思いますから。必要なことだと思うんです」
「それで世の中があの富永栄司のようなクズばっかりだったら?」
「その時は国を作りましょう。異能力者のユートピア! 各々が各々の特性を活かして社会を形成する新たな形へ!」
「そんな上手くはいかねーぞー?」
「またその時はその時です、あは」
「ったく……」
世界は広い。そしてどこかで自分の特性に傷ついていたり、悲しんでいたり、事故にあってしまったり、キャシーのように事件に巻き込まれていたりもする。
そんな子たちの希望になるような、あるいは救ってあげるための組織を作るのもカッコいいなと、今となっては少し思った。
「あ、怪盗団、とか良くないですか! サイキッカーズ! みたいな名前で!」
「この流れでそれは異能力の悪用に世間の反感しか買わない結果になると思う」
「やだな違いますよ、怪盗団とは名ばかりで、異能力者の保護をしたり、支援や活動。などなどをしちゃうみたいな。エックスメンです」
「エックスメンねえ……いやダメだろ」
「ぶーぶー」
「ブーイングするな」
と。
「トオルー!」
聞き覚えのある声がした。
「キャシー!」
「見てトオル! わたしの格好、似合ってる?」
「かっこいいよキャシー! これでこれから一緒にできるね!」
「うふふ、うれしいわ! 師匠さま、ありがとう」
「うん……肩身が狭いからイチャイチャするのだけやめてくれ」
「師匠ぼっち」
「ぼっちいうな」
ぎゅっとハグして怪盗・キャシーとしての新衣装にわくわくを隠しきれずテンションが高くなる。
キャシーはあの後、たしかに目を覚ましてくれた。
キャシーが望んでいたみたいに、王子さまがお姫さまの目を覚まさせる時のような行為で。
ほんっとうに、恥ずかしかったけれど。
不死性。
彼女に投与されたその異能力が、今彼女のなかでどう存在しているかはわからない。もしかしたら獲得しているかもしれないし、もしかしたらやっぱり血清なんてあり得なくて、異能力の継承なんてそもそもできるわけないのない話かもしれないし。
試すことなんてありえなかった。
いま目の前に、キャシーがいてくれるという真実だけで満足だった。
「せめてじゃあ、私たち三人。異能力者の怪盗集団・サイキッカーズとして!」
「おー!」
「うい」
これから始まる物語。そのなかで、現代社会と異能力者は、どうやって道を進んでいくのだろう。
それはきっと誰にもわからないし、きっと誰もが幸せなエンディングを望んでる。
不安が七割。期待が三割。まだまだ先行き不透明だけど、頼もしい仲間が増えたし、結束だって強まっているから。
大丈夫、きっとこの先も安泰だろう。
「オタカラたくさんむっすむどー!」
「おー!」
「どうなんだそれ……」
――そう。
素敵な物語っていうものは、いつもめでたしめでたしで終わるんだ。
(終)
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