***

犬のところに戻ると見知った女にまたも出くわした。

「もう勘弁してくれ。だから外に出るのは嫌なんだ。」

お隣さんの娘だ。

「あら、先生ごきげんよう。今日も腐った眼をしていますね。」

このガキ。ちょっと発育がいいからって調子に乗るなよ。

「このガキ。ちょっと発育がいいからって調子に乗るなよ。なんならその胸もんでやろうか。じゅるり。」

「はぁ!?何を!」

「心を読まれて焦っていますね。なんなら本当に触ってみますか?」

胸を突き出してくる女。痴女なのか!

「痴女とは失礼な。れっきとした淑女(しゅくじょ)です。」

「もういい。疲れた。帰る。」

エスパーに付き合うことはない。

「あ、先生稽古はいつしますか?」

もうつき合っていられない!我慢の限界だ!ちょっと外に出てみては「先生」、「先生」と呼ばれ、挙句の果てに稽古をつけてくれだと!何の事だかわかりませ~ん。おれの何を知っているのだ!いい加減にしてくれ。

と、突然耳鳴りがした。

「ヤバい…。」

「先生?」

「構うな…いや、お前…水持ってないか?」

「お茶なら…。」

「それでいい。少し分けてくれ。」

ふるえる手でポケットから固形の薬を取り出し一錠、口に入れ、ペットボトルのお茶を飲んだ。

薬を飲んだことで、少し楽になった。

「先生。どこか悪くされていますか?」

「今度は本当にかまうな。…茶、ありがとな。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る