(ショートエッセイ③)お風呂の底の電車

 わたしが幼かったころ、母方の祖父母の家は都会で商売をしていました。店舗の奥が住まいになっていて、三階まで部屋がありました。

 古い家でした。一階のいちばん奥には、いかにも昭和っぽいタイル張りのお風呂があって、湯船に入っていると、ときどき地響きのような電車の音が聞こえました。店の前の道路の下を地下鉄が通っていて、コンクリート伝いにその音が響いてくるのです。


 小さな体をぶくぶくとお湯に沈めて目をつぶると、タイルの下の暗闇を、長く連なった銀色の電車が、ゆっくりと曲がってゆくのが見えました。

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