(ショートエッセイ⑤)冬の話[その1]コーンスープ

 小さいころ、母に連れられて電車に乗り、スイミングスクールに通っていました。

 何年間か、毎週通っていたから、その間に何度も季節が巡ったはずなのだけど、思い出すのは冬のことです。


 北風の吹く夕方、泳いだ帰りに駅構内のハンバーガーショップに寄り、コーンスープで体をあたためるのが、冬の習慣でした。吹きさらしのプラットフォームで紙コップを手にして飲むスープは舌をやけどするほど熱くて、粉っぽくて、明らかにインスタントだったけど、この世でいちばんおいしいものみたいに思えました。


 あれ以来、あんなにおいしいコーンスープにはいちども出会いません。コーンスープを口にするたびに、わたしの期待は裏切られるのです。

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