第4話
「それで、どうだよもぎ。吸血鬼を治す方法って、なにかないか」
よもぎはぼくのベッドをいつものように占領して、毛布から顔だけを出した状態でこちらを見つめている。
「ないとも言い切れない、と言っておく」
「なんだよ。そんな回りくどい言い方」
「その情報量からしたら、それくらいのことしか言いようがないって意味」
「まあ確かに、まだ一回話しただけだしな」
「でも、なにより、まず初めに、道端で偶然出会った吸血鬼が、眷属を作るために一般人を襲うっていうのは、なんだか引っかかる」
「どういう意味だ」
「吸血鬼はそう簡単に人間を襲わないってこと。わたしは吸血しない鬼だけど、鬼が簡単に人を襲わないように、吸血鬼もやすやすと欲望の向くままに襲撃したりはしないはず。そもそも、眷属を作るだけ作って、そのあとははいどうぞご自由に、なんて責任のないこと、普通の吸血鬼は絶対にしない」
「でも、実際、あいつは吸血鬼にされちまったわけだ」
「だからそこがおかしいの」
よもぎは起き上がる。カオナシみたいに顔だけ出して、あとは毛布にくるまっている。
「つまり、そもそもその女は吸血鬼にはされていない可能性がある」
「はあ? それはちょっとおかしくないか。吸血鬼じゃなかったら、見た目や吸血衝動はどう説明づけるんだよ」
「それはお前の仕事だろう」
冷ややかな視線で、よもぎが言う。
「鬼がわざわざ、そいつの存在を決定づけてやるほどのやさしさは持ってない。青鬼だってそんなに親切じゃない。そもそも、そいつを襲った吸血鬼に話を聞かない限りは、どうしようもない気がするな」
「それは難しいな。あいつは、その吸血鬼としばし会話を交わしたって言ってた。それで、いろんなところを旅してるんだって聞いたらしい。てことはもう近くにはいないだろうな。吸血鬼ってことは、海外って可能性もある。そうだ。よもぎ、そういう方面にツテはないか? 吸血鬼のコミュニティとかって」
「ない。まったく」
「そうか。お前もぼっちだったか……」
「ぐぬ!」
よもぎが威嚇の声を上げる。
「そもそも、日本古来の鬼と、ヨーロッパ産の吸血鬼を比べることが間違い。ルーツもまったく異なる。鬼が付くものが全部鬼の仲間なら、殺人鬼だって立派な鬼になる」
殺人鬼は鬼というか、いかれたただの人間か。
「事件を起こした張本人がいないとなると、ああ。そうだ。その吸血鬼の首に、噛み跡はあった?」
「いや、なかった。遭遇したって言っても、一年以上まえのことらしいぜ。さすがに傷跡は塞がってーー」
「あるはずだ。眷属にされたならね」
「え?」
「仄聞した話だけど、吸血鬼が眷属にするときの噛み跡は、治癒能力をもってしても、一生消えることがない」
彼女の首筋に、それらしき痕跡はたしかになかった。
「どういうことだ?」
「簡単でしょ。そいつが嘘をついているか。それとも、吸血鬼が嘘をついているか」
「彼女が嘘をついている可能性っていうのには賛同するが、後者はいったいなんだ?」
「例えば、吸血鬼に対して、私を吸血鬼にしてください、とお願いしたとする。吸血鬼はいいよと言い、吸血をしながらも、実際には眷属にすることはなかった、とか」
「お願いなんて、するか?」
「あるんじゃないかな。吸血鬼は、結構崇拝されているみたいだし。なりたがる人間が現れてもおかしくない。スーパーヒーローにあこがれる気持ちと、さして変わらないんじゃない」
とにかく、もう一度、彼女に詳しい話を聞いてみないと。
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