第17話 ノアさんと旅行

 朝が来た。

 私は髪の毛の色を翡翠色に変えて瞳を漆黒に変えた。まぁこの程度の魔力なら私にも使える。

 万一、行方不明の女の姿を見られたらということでの対策だ。流石に顔の変形とかは無理だったので諦めた。

 旅行用の可愛いワンピースドレスを纏った。首元までしっかりある。因みにこっそりノアさんのくれた形見の石をペンダントとして服の中にしまっている。御守りみたいに。


 これは以前にノアさんがちょっと加工してくれたから着けれるようになった、

 胸元には黒と白のストライプのリボンにフリフリのレースのついた白のドレススカートに黒っぽい上着を着て日傘も忘れない。まぁ地味な方ね。目立つ訳にはいかないし。


 それでも顔は変わらないから見る人が見たら美人だろう。


 1階に降りると朝食のいい匂い。

 すると旅行着のノアさんがいた。もはや普通のイケメンだ。白いシャツに茶色の上着とトラウザーズに翡翠の宝玉の着いたタイを結んでいた。どこから見てもどっかのちょっとした貴族?不覚にもカッコいいと思ったわ。やるわね!!


「おおお、おは、おはようノアしゃん!!」

 噛んだ!!

 やだ!別にカッコいいからって噛んだんじゃないから!滑舌がちょっと朝で回らなかったのよ!


「おはよう御座います!お嬢様!…いつものお姿も素敵ですが今日の変装も一見するとお嬢様とは気付かれ難いとはいえ、とても似合っていて可愛らしいですよ…」

 と言うから思わず赤くなる。やだ!可愛いなんてそんな!当たり前のことを!!


 …もっと言って!!


「本来ならどのくらい可愛いかをお手紙に書き連ねたい所ですが我慢しますね?さぁご飯を食べましょう。お出かけはその後です」


 と朝食を食べる。

 食べ終えるとさっさと片付けてミラに留守を頼むと万一の為に海の中からは移動して陸地…というか無人島に小屋を移動させておいた。


「それではミラちゃん…ちょっと行ってきますね」


「行ってらっしゃいにゃ!2人とも!留守はミラに任せるにゃ!大丈夫にゃ!暇だけど仕方ないにゃ!」


「時々私も時間ができたら戻って…」


「いいにゃ!一緒にいてやるにゃ!ご主人と!」

 と猫に言われ赤くなるノアさん。


「お土産持ってきますからね!」

 ヒシッとノアさんはミラを抱き上げた。


「ご主人…迷子になって従者に迷惑かけるんじゃないにゃ?」


「なる訳ないでしょ?失礼な!」


「では…お嬢様…行きましょうか…私にしっかり捕まってください!」


「は、はい!」

 と私はノアさんの腕をギュッとした。

 ノアさんはそれに赤くなりつつ転移した。


 *

 少し人気のない路地に転移すると、賑わっている道から沢山の人が往来している。

 遠い国の街みたいね。


「お嬢様…逸れたらいけませんので宜しければお手を…」

 と差し出すから


「し、仕方ないわね…」

 と手を繋ぐ。ドキドキしてきた。どうしようまた手汗が出たら!


 人混みの中、たくさんのお店が並んでいる。

 時々誰かがぶつかるけど何故か


「ぎゃーっ!!」

 と悲鳴をあげ立ち去る。


「この人混みですからね…。お嬢様や私に無礼にも身体を触ろうとしたり、何か盗もうとしようとした輩対策に魔力で見えないカウンター魔法を少しかけています。ですからご安心くださいね?」

 と抜かりない美形執事だ。


「でも…私と離れたら意味ないのでしっかり繋いでいてくださいね…お嬢様…」

 と微笑み、キュウンとする私。


「わ、判ったわ…は、離さないから…」

 と言うとノアさんが立ちくらみか、壁に寄りかかる。


「ど、どうしたの?まさか昨日寝てないとか!?」


「い、いえ、お嬢様が…あまりに可愛らしいので立ちくらみが………」


「ちょっとやめてよ!もう!恥ずかしい!」


「すみません…」

 と気を取り直し歩き出した。


 大きな街だわ。こんな所来たことがない。

 活気に溢れて野菜や果物を売ったりするおじさんや焼きたてのパンの匂いもどこからか漂よってくる。


 国の名は知らない。監禁されてる身だからノアさんは申し訳ありませんと告げなかったから。別にいいわ。名前なんて。外に出れたし。


「ぎゃっ!!」

 とさっきから男の人にぶつかっては痛がる奴多くない?そんなに私が可愛いかしら?ふふ。


「あっ、お嬢様…どうやらこの先で人が集まっています…喧嘩でしょうか?大きな街ではよくあることです」


 すると奥の人だかりから


「やれっ!ホーカン!!お前に掛けてんだよ!!」


「いやいや、俺はこっちに掛けるぜ!女なのに大した強さだ!」

 と騒いでいるがここからじゃ見えないわね。


「お嬢様…危ないので…」

 とあっちに行こうとするノアさん。


「あら、面白いから見たいわ!」


「ええっ!?でもあんなに人だかりがございますよ?仕方ないですね。隠匿魔法で上空に浮き上がりましょうか。お嬢様…抱えても宜しいでしょうか?」

 と聞かれた。え?抱えるの?まぁそうよね?見えないしっ。


「よ、宜しく頼むわ」

 と私達は消えてノアさんが優しく抱え上げ空に浮き上がり喧嘩を見た。

 距離近いし!!ノアさんの綺麗な銀髪がすぐ近くにサラサラと揺れた。


「お嬢様…私じゃなくて下を見ないと…」

 と言われてかあっと赤くなり下を見るとポニーテールの女の子が屈強なマッチョの上に乗り首を締め上げていた!!強い!!


「ふ、俺の勝ちだ!金を寄越しな!全財産!」

 と女の子はニヤリと笑い、泣き出したマッチョから金を搾り取った。


「女だと思って舐めてるからそう言う目に合うんだ!いいか?今度不埒な真似をしようとしたら殺すからな?」

 と女の子は言って去る直前上にいる私達を見た。


「何だ?お前ら?」


「えっっ!?」

 こちらのこと見えるの!?ええっ!?

 ノアさんも驚き…


「あの方は魔力が高いようです。見破るとは…」


「まるでお姫様と騎士みたいだな…けっ!」

 とこちらに石を投げた!

 ええっ!?何で投げるわけー?

 しかしノアさんはそれを受け止めた。


「ふうん?男の方かこの魔力は!欲しいな…」

 とペロリと舌で舐める女の子。彼女が1人で喋ってるように周りは見えるのか、ザワザワしだした。


「行きましょう、あまり関わり合いにならないことです」

 とそのままスッと人混みに降り立ち歩いて逃げるように後をすると人集りかゴアっと竜巻が起こったようにブワリと舞った!中央にあの女の子がこちらを睨みつけていた。


「姿を表しな!そして俺と勝負して有金全部いただこうか!」

 とノアさんに勝負を挑んだがノアさんは私を抱えたまま、高速で逃げ始めた。これは本気で関わりたくないモードに突入した。


「鬼ごっこか!?ならよーいどんだ!」

 と人を放り投げながらも全力で追いかけてくる!


「ひいいっ!!何あれどう言うことなのノアさん!」


「知りません!大きな魔力持ちだと喧嘩を仕掛けてくる奴が多くなるんです!迂闊でした!とにかく加速して逃げますのでお嬢様もっとしっかり私に捕まって!」


「判ったわ!」

 ともっとギュッと首に捕まると


「あ…♡」

 とか反応するから困る。私だってノアさんの匂いで酔いそう!ていうか何してんのかしら私達!


 ノアさんは加速しだしたがそれに付いてくる女の子も凄い!!どんな身体能力よ!!

 魔力も確かに高いだろう!

 折角の旅行なのにぃ!ぴえん!


 ついにはノアさんは魔力で跳躍して壁を走りだした!!いいっ!?


 それにも付いてきて女の子も壁を走る!

 ぎゃあ!あの子なんなわけ!?しつこいわ!!


「く!これはどこかに隠れて一旦魔力を解除して気配を断つしかないですが…お嬢様の微弱な魔力でバレてしまう!」


 ここに来て私のか細い魔力が邪魔になった!!魔力の気配を断つとかいう高度なことが出来ないので私!!


「仕方ないです!お嬢様!アレを使うしかないです!」


「アレって何!?」


「お嬢様のお造りになった芸術品です!」


「えっ!?」

 そう言えばマジックポケットに保管してるあれ!?


「だ、ダメよ!あの子を殺しちゃう!!」


「しかし戦闘は避けたいので!それに私が彼女の口に放り込むだけです!罪は私にあるかと!」

 と殺る気でいるノアさん!!


 ノアさんは暗い路地に降り立ち私を物陰に隠すと


「ここで待っていてください!」

 と言い残し、直ぐにその場を離れると女の子も


「待てええええ!」

 とノアさんを追って行った。どうやら私のことは気付かなかったようだ。


 *

 全く、何なんだあの女の子は!!凄い魔力なのは認めるがしつこいですね!ようやく壁際に追い込まれた私は振り返る。


「くくっ!ようやく捕まえた!さあ!勝負だ……って…げええええ!!お前っ!なっ!!なっ!!」


「……?」


「なんていい男だ!!?」

 何だろうこの女の子…。そして急にモジモジし始めて


「俺は…アスタって言うんだ…。職業は…暗殺者やってんだ!えへへ♡」

 とか言っている。暗殺者!?物騒すぎる!!


「俺に勝った奴の子を産むのが俺の使命でさ…お前強そうだし…お前の子産んでもいいぞ♡」


「お断りします…。私好きな人いるので。後、そういう台詞は私に勝ってからでしょう!?」

 すると目つきが鋭くなるアスタは


「それもそうだな?なら勝負だ!!お前名前は?」


「言いませんよ面倒臭いので!」


「ちっ!まぁいい!俺が勝ってお前を縛り上げて聞き出してやるからよぉ!!!」

 とアスタが魔力を使い武器を投げた!

 魔力で作られた強力な鎖を何本も放ち生き物のように私に迫ってくる。


 私はそれを全て避けるが追跡され逃げる。


「ひひひ!!俺から逃げられると思うなよ!諦めて子作りだよ!!」

 と追ってくる!なんて恐ろしい女だ!

 旅行が台無しだ!お嬢様と2人きりの時間を奪われて私はまた怒りが滲み出る!


 しかし強い!この国の暗殺者は凄いな!

 側の壁に鎖が当たり砕ける。

 殺す気だろ!?


 壁に手を突き向かってくる鎖を私は途中で拾った鉄パイプでなぎ払っていく。もちろん魔力で弾いている。


「中々やるね!!でもこれはどうだ!?」


「!?」

 すると壁の中から鎖が現れて私を捕らえてしまった!!


「くっ!!」

 身を捩るが解けない上にキツく締め上げ更に鎖が私の魔力を吸い上げている!?

 つ、強い!!


「ふっ!俺の勝ちだ!!わーはっはっ!!」と笑って近づくアスタにゴツっと石が当たった。


「あん!?」

 下を見ると…何と!お嬢様が石を持ち投げつけていた!!何でこんな所まで!!

 側には馬がいた。まさか乗って追いかけてくるとは!!


「何だあの女?ハッ!めちゃくちゃ美人じゃん!?ま、まさかお前の!?」

 と私を見る。どう言えばいいんだ!

 しかしそこでまたアスタは石をぶつけられる!

 お嬢様!コントロールはいいんですが、逃げてください!貴方の敵う相手ではない!


「ちょっと!やめてよ!何なのよ貴方!!彼に酷いことしないで!!」

 とお嬢様が叫んでいる!うっ!わ、私の為に!お嬢様!!


「へえ?あの女…ムカつくな。顔をぐちゃぐちゃに切り裂いてやろう!くく!」

 と降りていく。


「やめろ!!彼女に手を出すな!!」


「大丈夫だよ…俺があんな女のことなんか忘れさせてやるからさ?」

 とアスタがお嬢様に向かっていく!


「ダメだ!逃げてください!!お嬢様!!」

 と私は叫ぶがお嬢様は動かない!な、何故!?


 アスタが地面に降りた。


 *


「やっと降りてきたわね!卑怯者!」


「はあ?卑怯って?何が?俺なんか卑怯なことしたか?」

 と女の子はこちらを凄い魔力を出しながらニヤついた。


「あんた綺麗な顔してるけどあいつとどんな関係?恋人か?」


 私はキッと睨み


「関係ないわね!それこそ!貴方には!でも彼を返してもらう!」


「へえええ!?そんな蚊みたいな魔力のお前に何ができんだ!?はっはっはっ!」

 私は汗を垂らす。

 正直勝ち目なしだ!!魔力量が違いすぎ!


「あ、待てよ?お前顔がいいから捕らえて奴隷商に売っちまうか!金になるわ!!ひひ!」


 ひいいっ!何てこと言うの!それでも同じ女なのこの子!?


「くっ!」


「さっきの威勢はどうした?あ?お嬢さん」

 私はシュッと石を投げた。しかしあっさり避けられる。


「あほか!同じ手に何度もー…うぶっ!!」

 ビタンと女の子の顔にカエルがゲコっと張り付き、女の子は思わず


「きゃあああ!!か、カエル!?」

 と大口開けて叫んだ所に私は空かさずガボンとアレを入れた!!


「うぐ!?」

 女の子は目玉が飛び出そうなくらいの悶絶をして次第に意識を失い倒れた!

 魔力が消え、ノアさんの鎖が解けて全力でノアさんがこちらに来る!!


「お嬢様!!」

 とがっしり抱きしめられた!!


「ノアさん…無事!?」


「お嬢様こそ!!待っていてと言ったのにこんな危険なことを!!」


「ノアさんだって手も足も出なかったじゃない!!」

 私も思わず怒鳴る!


「………っ!申し訳ありません!この女暗殺者だそうで…手こづりまして…」


「あ、暗殺者…」

 と白目向いて倒れてる女を見る。


 ノアさんはマジックポケットから魔力封じの枷を取り出し女の子に取り付けると近くのゴミ箱に放り込みさらに鎖で巻いていた。

 いや私以外の女なんて生ゴミと言ってたけど本当にゴミに捨てやがったわ!!


「とりあえずここから直ぐに離れましょう!危険ですから、それとこの子は気絶しているだけです。お嬢様の料理は…人を殺すんじゃなくて死の縁ギリギリまで追いやるだけですので!」


「なっー…何ですってええええ!?」

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