第16話 ノアさんが帰ってこない

 私はノアさんの職場でそんな事が起きてるとも知らずにニヘニヘと昨日のことを思い出し悶えていた。


「気持ち悪いにゃね?ご主人…」

 ミラが呆れていた。


「何よ!?あんたまだご主人呼びしてるの?ご主人はノアさんに乗り換えたんじゃないの?」


「乗り換えたにゃ。でもその従者がご主人を呼び捨てにしてはダメと申したにゃ。だから今まで通りご主人というあだ名で呼んでやってるにゃ」


 なっ!何だと!?紛らわしい!!


「それにしても海の中だから面白いわね!ほらまた魚が通ったわ!」


「でももし結界が破れたらこの海の水は家に入ってきて溺死すると思ったら怖いにゃ」


「ちょっと!やな事言わないでくれる!?こんな普段は見れない幻想的な空間に何不吉な事言ってんのよ!」


「ご主人もすっかり監禁生活に慣れたもんにゃね?やっぱり昨日イチャイチャしたのが良かったにゃ?もう二人はくっついたも同然にゃ!やるにゃ!」

 とミラは嬉しがった。


「そ、そんな!まだキスまでなんだから!!ていうかノアさん真面目なんだから!律儀に私のいう事守ってくれるもの!!」


「そりゃ従者はあほご主人に夢中にゃから仕方ないにゃ!ミラも夫が欲しくなってきたにゃ!」


「やだあ!夢中だなんてー!そ、そりゃ私は【黒蝶の月】とまで言われたいい女なんだから仕方ないじゃない!!ノアさんだって夢中になるわよ!」


「その前からずっと覗き見してただけにゃ」


 う…それはもういいから。変態部分はあるけど基本いい奴なのよね。ノアさん。

 明日は旅行よね?もう鞄にギュウと服を詰めて用意してあるのだ。

 ミラが


「ご主人汚い詰め方にゃ!もっと綺麗に畳まにゃいと鞄が道でバーンってなって服やら下着やらが皆に見られるにゃ!」

 と注意されたから何回も何回も綺麗に畳み直して入れたの!


「むしろ服如きでこんなに苦戦する女なんていないにゃ…」


「入ればいいのよ入れば!」


「じゃあ、ご主人…旅行中は従者とゆっくりイチャイチャするにゃよ?ご主人が誘惑したらイチコロにゃ。夜は可愛い下着姿でベッドで待機してたら直ぐにいただいてくれるにゃ!」


 れ、恋愛マスター!!!

 それは流石に恥ずかしい!!


「恥ずかしいにゃらやはり従者に脱がせてもらうにゃ?その方が従者も変態だから興奮するかもしれないからわざと手のかかる位置にあるボタンの服を着て見るといいにゃ」


「にゃんと!!」

 流石恋愛マスター!!

 い、いや待って?そらもちょっと恥ずかしくない!?ていうか恥ずかしくない工程はないわ!!ていうかそんな恥ずかしい展開を期待なんかしていないけど、万が一…億が一の展開として参考にするだけよっ!!


 私は妄想しながらドキドキしつつ待っていたが…ノアさんは夕方になっても帰ってこなかった…。ちょっと遅いな?と思ってソワソワしながらソファーを座ったり立ったりしていた。


「ご主人落ち着くにゃ?まだ仕事が残ってるのかもにゃ」


「あ、うん…そうよね…」

 なんだろうか?胸騒ぎぎして落ち着かない。


 グウウウウ…


 …どうやらお腹も落ち着かないようね。


 しかし夜になってもノアさんは戻らない?何故?そしてまたもやお腹がグウウウウと鳴った。

 ちなみにミラには作り置きの餌があったのでマジックポケットから出した。ノアさんがミラに旅行用に一人で食べれるように取り置いているもので時間になるとマジックポケットからぺっと餌が出てくるのが本来の仕組みなのだ。

 因みにミラがトイレなどをした場合もささっと魔力で掃除が行われるようになっているのだ。


 今の所魔力が切れた様子がないからノアさんには危険はなさそうだけど。…まさかあのオッサン美少年に捕まって戦闘になってないよね?

 それともまさか仕事場で魅力的なメイドとかとイチャイチャしていたり……いや、それはないか…。


「ノアさん…」

 と呟くけど帰ってこない。

 別に寂しくなんかないわよっ!

 お腹減ってるだけだもん!グスン!


 *


 ルンドステーン邸では奥様、旦那様、引き止める使用人達と朝からまだ攻防が続いていた!


「さっさと女を呼べ!」


「呼びなさい!」

 と旦那様と奥様。


「辞めないでくれ!」

 と執事長とシェフ!


「俺はノアさんの味方っす!」

 と庭師の弟子。


「とにかく私はここを辞めるのでこの書類にサインを!」

 と言い合っていた!!

 こんな所にお嬢様を連れてくるわけないでしょうが!!!


 もう夜だ!お嬢様がお腹を空かせていると言うのに!もうこのまま帰ってしまおうかと思ったが、このエルサ様に転移を見られては、きっとエルサ様は付いてくる!魔力を辿り私の転移先を把握できるのはエルサ様だろう!何とかしないといけないのはまずエルサ様だ。


「おい、ノア…そろそろ折れたらどうだ?ほらエルサは元王女だぞ?逆らうと怖いぞ?」

 このヤリ●●野郎!


「元はと言えば旦那様が奥様を放って浮気ばかりなさるからでは?結婚前は遊んでいてもいいと思いましたが、結婚してからは夫は浮気してはいけないものだと思います!世間一般的にね!」


 その場の者は皆ウンウンとうなづいた。

 だが、アクセル様ははあ!?という顔をする。


「ふっ…私のこれは浮気とかそういうレベルじゃないんだ!!趣味なんだよ!!いや、薬だ!!1日に何回かは女といやらしいことをしないとストレスが溜まり病気になる!」


 ど最低の言葉が出てきてアクセル様を除く全員がこいつ…頭がおかしい!!

 という目で見た。


「むしろほとんど一日中かと思います。ほんと仕事してくださいよ!誰が今まで肩代わりしていると思ってるんですか!!それでも侯爵様ですか!いい加減にしてくださいよ!私が辞めたら没落しますよ!?」


「だからそれをさせない為にノアくんにはここにいてもらわないと困るんです!」

 と執事長が言う。


「そうだそうだ!誰が辞めさせるかー!ばかめー!」

 とヤリ●●野郎が囃し立てる。

 この野郎…本当に燃やして灰にしてやろうか!?


「いいですか?ここの領主は誰ですか!?旦那様貴方ですよ!!?私じゃないっ!!」


「ふん!何だよ!お前んとこの家が燃えてからずっと面倒みてやってきたのに!エドガーだって半分くらいはお前のこと息子だと思ってんだぞ?俺だって友達くらいには思ってた!」


「じゃあ、その友達を解放してください!友達の好きな女性を寝取ろうとか考える輩を信用できませんよ!」


「そうです、何が友達ですか!結局女とヤリたいんじゃないっすか!ノアさんはね、旦那様と違って真面目に一途に想ってきたんです!ウワァーン!」

 とマウリッツはついに泣き出しました。


「うるさい庭師だな…。別にちょっと味見したいと思っただけではないか…」

 それが悪いんですよ。ギロリと私は睨んだ。


「おい、何だよその顔…首に…」


「してくださいどうぞ!」

 と書類を突き出すが燃やされる。


「ふははしてやるかばーかばーか!」

 とヤリ●●野郎ははしゃぐ。ガキか!!


「ノア…貴方が強情を張るならもういっそ私の手で閉じ込めてしまおうかしら?」

 とその手になんと魔力封じの枷が握られていた!

 なっ!あれを嵌められたら不味い!

 今お嬢様は私の結界に守られて海の中だと言うのに!!


「くっ!!ならば!私は奥様と言えども本気で戦いますよ!?この家が燃えてしまうかもですがいいですか?」


「なんですってえ!?」

 睨み合う私達。震える執事長。もうどうにでもなれなシェフ。泣きじゃくる庭師。おちゃらける侯爵。


 やってられるかーーー!!!

 私は早くお嬢様の元に帰りたいんだ!とっくに就業時間は過ぎているだろう!!


「判りました…私は今から隣国の王の元に転移します。そして奥様や旦那様のことを王に報告することにします!もう最終手段でしたがここまで時間を取らせるとなると私ももう我慢できません!!全てを王に話します!」


「なっ!!お父様に!!?や、やめてよ!ノア!」


「そうだ!馬鹿な真似はやめろ!ノア!!」


「今更何を言ってるんでしょうか!?貴方方は?一方的に私に纏わり付き私の自由を奪うなど……」

 と言いかけ私は…お嬢様に自由を奪っていることを思い出した。自分も最低なことをしているのは判っているのに。

 でも、それでもこいつらは許せない!


「それが嫌なら!!旦那様は今すぐ女遊びを止めて奥様だけを愛してあげてください!本当は奥様はそれを望んでいます!」


「なっ!ノア!何を!!」

 と奥様の顔が赤くなる。その反応に旦那様は


「くっ!!今までに無かった反応!!俺の何かが反応!!」

 とか言ってる。


「さあ、どうするんですかな!、旦那様奥様!ノアくんがこのまま隣国の王に全てを打ち明けたらこの家は取り潰されてしまうかもしれませんな!隣国の王が自国の王とは友達なのは知ってるでしょう?こんな家ノアさんがいなければベシャリと潰されますよ!何故なら旦那様はノアさんがいなくなると仕事できないでしょ!?」

 と執事長エドガーさんは味方になった。


「俺もカミさん一筋だからよ?悪いが奥様の愛人にはなれねえよ」

 と断るシェフのパウルさんだが無情にも奥様は


「は?いつ私がシェフを愛人にすると言ったの?ないわ。好みじゃないし。ないわ」

 と言ったので


「俺帰っていい?カミさん待ってるから」

 と一抜けしようとした。


「………………」

 全員静かになり、アクセル様が


「まぁそういうことで」

 とパンパンと手を打った。

 いやどう言うことなんですかね?


「とりあえずあれだよ…。俺もこんな長く話し合いしたの初めてだからもう精力が暴発しそうなんだ!」

 知りませんよ!!


「エルサの可愛い一面も知れたし、ノアの言う通りこれからはエルサだけを愛そう!あ、仕事もちゃんと始めるよ…」


「なっ!!?旦那様が真人間に!!?」


「そんな馬鹿な!!」


「恐ろしい!!」


「本当ですの!?めんどくさくなって言ってるんでしょうか?」


 口々に言われ


「何なんだよ!折角仕事しようと思ったのにじゃあ、やめるぞ!?いいのか?」


「それは困ります」


「なら問題ないじゃないか!!もう終わり!はい!終わりー!さっさと寝室にいくぞ!エルサ!!」


「ええ!?は…はい…」

 と奥様は引きづられていく。

 扉が締まる前にアクセル様が


「ノア…辞めるなよ!?お前がいないと俺は困るんだ…お前の女にも手は出さないから!」


「約束ですよ…アクセル」


「はっ!ようやく昔みたいに呼び捨てにしやがったな!?ノア!」

 とニヤリと言うと


「んじゃ!休暇楽しめ!本日はお疲れ様!」

 とバタンと出て行った。

 と同時に執事長とマウリッツが泣きついてきた!!


「ウワァーンー良かった!ノアさん!!良かったああ!!」


「ノアくん!!辞めなくて良かったああ!絶対無理だもん!私最近老眼進んでるから!この家私一人で回せなかったし!!」


 私ははぁっとため息をついた。

 ある意味私もこの家に監禁されてるようなものだなと。


「おいノアさん…遅くなっちまったな、さっさと帰らねーと恋人に誤解されちまうぞ?俺もこの後カミさんに殴られるかもな」

 とパウルさんが笑う。

 

「ええ…そ…そうですね…そろそろ失礼しますよ」

 本当はまだそんな恋人とは言える状態なのか謎だ。…私の方がもうずっとお嬢様に心を囚われているのだから。


 私はようやく深夜近くに小屋に転移した。ソファーで何故か涙跡を残したお嬢様が寝ている。

 寝言で


「お腹減った…ノアしゃん…バカあ」

 とおっしゃられた!!

 完全な不意打ち!!

 そんな!わ、私の夢を!?どうしよう、嬉し過ぎて死にそうだ!お嬢様がお腹が空いて夜中に目覚めたら大変だ何か作っておこう!


 でも…その前にと…私はこっそりとお嬢様の涙の後にキスした。


 その後…私はせかせかとキッチンに入りトントンと夕食を作っているとグウっと音がして目を擦りながら私のお嬢様が起きてきた。


「起こしてすみません、お嬢様…お夜食になってしまいました…」

 と疲れた顔で笑うと


「お疲れ様…ノアさん…こんな時間まで仕事だったの?そ、それともまさか女の人とイチャイチャしてたんじゃないでしょうね!?」

 と言われて嬉しい!お嬢様が私なんかのことを考えてくれるなんて!しかも浮気と思って嫉妬してくれたとか!?


 私は火を止めると


「いいえ!お嬢様以外私には何も入りませんから!!お嬢様だけです!他の女などただの生ゴミですから!!」

 と言うとお嬢様は照れてグウウっとまたお腹を鳴らした。


「ひっ!!あ、あのこれは!!」

 と恥ずかしがった。可愛い!!私のお嬢様は何でこんなに可愛いのか!?


「すぐ出来ますよ!!私もお腹が空きました!早く食べて寝ましょう!明日から旅行です!!」

 と言うとお嬢様はようやく


「楽しみだわ!!」

 と笑ってくれた。お嬢様の元が私の帰る場所であり私の居場所なのだとそう思う。

 だから私は言うのだ。


「お嬢様…ただ今戻りました…」

 するとお嬢様は


「おっ…お帰りなさい…ノアさん…」

 と恥ずかしそうにした。

 可愛くて抱きしめたい衝動を抑えて二人で夜食を取った。

 明日から旅行だ。

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