第15話 奥様の猛進
「おはようございます皆様!」
とアクセル・ラーシュ・ルンドステーン様付きの従者である美形の彼、ノア・リンドブルムが今まで見た事ないくらい笑顔で出勤してきたので使用人達は驚いていた。
彼はそのまま女と寝ているアクセル様を叩き起こしに行った。
執事長である私はシェフのパウルに何事か聞いた。
「女しかないぜ。俺の経験上。それも付き合いたてホヤホヤの空気だ!!あのバカみたいな笑顔を見たろ?脳内お花畑真っ最中ってやつだよ」
すると庭師の弟子のマウリッツがやってきて
「それあってるかも…。ノアさんがお勧めの花屋を教えてくれって言ってきたよ…!女ができたんだよ!!」
とマウリッツは震えた。
『一体どんなやつがあの美形男の女なんだ!!?』
という疑問が三人の使用人達の間で繰り広げられていた。
「確かあいつ好きな人がいるって言ってたよな?」
「ああ、言ってましたね。じゃあその人と上手くいったんですかね」
「まぁそう見るのが普通でしょうな」
シェフのパウルは
「なんかあいつって最近おかしいよな?結構休んで、病気かと思ったら何か怪我とかして来るし」
マウリッツも
「ああ、ちょっと前に何か汚い包帯の巻き方で手とか怪我してましたよね?」
「正直、ノアくんがあんな汚い包帯の巻き方をするとは思えん。あれは…」
と私が答えを言う前にシェフが
「その女だろうな。恐らく…とんでもねえ不器用な女に違いない!包帯一つまともに巻けねぇんだ!」
ゴクリ…とその場の者は息を飲んだ。
「そんな…ノアさん程の人が不器用な女を好きになるとは!信じられねっす!」
「マウリッツくん…世の中にはそんな人もいるんだ、完璧な者こそ、自分には無い不器用な人間を求めてしまうのかもしれん」
「エドガー執事長…深いっすね…」
「そう言えばあいつ、明日から休み1週間取ってるよな…」
「そう言えばそうですね、旅行に行くとはいってましたよ?お土産頼みましたもん」
「あー、そんなこと言ってたような。でも今とは違ってなんか辛そうだったよなそん時…そっからの切り返しが今のあいつだとしたら…きっと上手くいったんだよ。因みに俺も土産は頼んだ」
「な、なんですと!?旅行!?聞いてませんな!!?しかも私には土産の話も無かった!!」
「執事長…どま…」
とパウルが肩を叩いた。
「エドガー執事長って俺たちと年齢離れてるから特に言うこともねんじゃ無いっすか?」
「あー…判るわ…俺もマウリッツとノアさんには相談しやすいけど執事長にはちょっとな」
「くっ!年寄りを仲間外れにするな!お前達!!私だって恋バナの仲間に入れろ!!」
「いやあ…それにしてもどんな女なんすかねー?その不器用な女って」
するとそこにスッと割って入る者がいた。
「ちょっと貴方達…今の話は本当!?ノアさんに好きな女がいるとかその女と上手くいってるとか!?」
三人は青ざめた。声をかけてきたのが
アクセル様の若奥様だったからだ。
「うわあ!!おお、奥様!?お帰りに!?」
マウリッツが青ざめた。
「あら…そうよ、さっき着いたのよ。お友達との旅行楽しかったわ。これ貴方達にお土産よ」
と奥様のエルサ様が立っていた。エルサ様は金髪碧眼の超ボインという体型だが、顔はあまり美しくなかったが、隣国の元第四王女と言うことで王族との繋がりを持ちたいアクセル様はこの結婚を断らなかったのだ。というか断れる奴がいたら見てみたい。
「あ、ありがとう御座います奥様…」
と私はお土産を受け取る。
不味いぞおおおお!!今アクセル様のお部屋に素っ裸の女共が恐らく三人くらいいるだろう!!ノアくんは大丈夫かね!?
「ふふふ、執事長さん、そんなに慌てなくともいいのよ?私知ってるわよ?あの人…アクセル様は女ったらしの不誠実極まりないヤリ●●野郎だってことくらいね!私と結婚した後も女関係が後を絶たないわよね?ある意味凄い夫だわ」
「お…奥様…だ、旦那様のは遊びのようなもので…きっと奥様が一番でありますからして…」
すると奥様は
「オッホッホっ!全く騙されたものよね!結婚前は誠実な男と聞いていたから。私も信じて輿入れしたけど…昼間はメイドと隠れて書斎でイチャイチャ…夜は私を一回抱いた後、仕事と言ってフラッと出て行ってどっかの女貴族か娼館の所で朝帰り。あの男はアホなの!?どんだけヤリたいわけ?」
それはこっちが聞きたい!!
と三人は思ったが言えやしない。だって巻き込まれたく無いから!!
「だから私決めたの。あんな身体だけしか必要ない男よりももっと誠実そうな男に私も愛されたいと!女ならそうよね?貴方達ももし女に生まれていたらそうでしょう?ここのメイド達はもうほとんど全員旦那様にお手付きされているみたいだし?私だって遊んでもいいわよね?あんな男と結婚してやったんだから!うちのお父様に報告しないだけマシだと思いなさい!」
と言い、使用人達は震え上がった。奥様のお父様は隣国の国王陛下じゃーい!!と。
逆らったら何されるかわからない。
「そこで私は以前から目をつけていたの。あのヤリ●●旦那の従者のノアにね!彼、とっても美形だし婚約者もいなさそうだし、何より真面目だわ!」
そこはうなづける!!と三人はウンウンと首を縦に振った。
「でもぉ、さっきの貴方達の話だとどうやらノアには好きな女がいるみたいじゃないの?しかも上手くいってるとか?冗談じゃないわよ?ノアは私が目をつけたからね!もう私のモノも同然なわけ」
えええー!?なんじゃその理屈はー!?
と三人は思った。
「あ、いやあの…奥様…ノアくんにも好きな人がいるとのことですので…彼の幸せを奪うようなことはその…」
と私がモジョモジョ言う。こうなったらノアくんの為に私も腹を括ろう!亡くなった妻よ!許してくれ!!
私はひざまづいて若奥様に手を差し伸べた。
「私ではお相手していただけませんか?」
と。
パウルとマウリッツとエルサ奥様がドン引いたのが判った。
「エドガーさん…貴方…気持ち悪いわよ!?ていうか普通に嫌よこのエロジジイ!!」
と奥様はパァン!と私の頰を平手打ちなさった。
*
私は旦那様…アクセル様のお部屋に朝食を持ってノックした。中からまだやらしい声が漏れていた。爽やかな朝が台無しだ。いっそ、魔法で火をつけて女達ごと燃やしてやろうかという衝動がいつもなら起こるのだけど今日の私は機嫌が最高にいいから中がふしだら一色でも私の耳にはもうそよ風のごとく流すことにした。
だって昨日…お嬢様の最高のデザートをいただいたので!!あ、あれは実に思い出しても顔がにやけて変態になるので顔の筋肉をにこっと固めるのが大変だ。
しかも明日から…しばらくお休みでお嬢様といられる!!これがニヤケてしまわずにいられるだろうか!?というか旅行である!ふ、二人きりで!
お嬢様が私にあんなデザートを用意してくださったということは…少なからずとも私は嫌われてはいないと思うのですが…。私の勘違いでなければ…。ああ、早く今日の仕事を終わらせて帰りたい!
するとガチャリと扉が開き、中から
「おはようございます!リンドブルム様!」
「おはようございます!」
「おはようございますぅ!ノア様ぁ!」
と三人のメイド達が頰を赤らめ、あからさまに首筋に真っ赤な跡を見せつけながら出てくる。
「おはようございます。アクセル様に朝食をお出ししてください」
「はあい!私がやりますう!」
「ずるううい!!私も!」
「わ、私もです!」
とメイド達は我先にと食事をテーブルに乗せてそこへ身なりを整えたアクセル様がもう一人のメイドの腰を抱きながらやってきた!
あ…もう一人いましたか…なんて野郎だ…でも今日は機嫌がいいから叱らないでおきましょう。
アクセル様はそのメイドが特にお気に入りなのか自らの膝に乗せてイチャイチャしながら見せつけ朝食を取りつつ、仕事しないくせに本日の予定を聞いてくるから一応予定を告げていると
「ああ、お前明日から休暇か?旅行に行くんだっけ?土産を頼む。……そうか、女とか。お前もやっとか。俺がどんな女を贈っても全然相手にもしないもんなぁ?一体どんな女なんだ?一度見せてくれよ?」
「ふふふ、お断りしますよ」
誰が見せますか!!
「残念だ。その気持ち悪い顔…。上手くいってるみたいだな?あーあ、寝取ってみたかったよ」
と言うヤリ●●野郎。ぶん殴りますよ☆
という衝動を抑えていたら後ろから強い魔力の気配。
「あらここにいたの?ノア………あら旦那様もおはようございます…朝から随分とメイドと仲がよろしいこと?」
と明日帰られる予定だった奥様のエルサ様がいた。隣国の元第四王女だった彼女は王族であることもありかなりの高位魔力の持ち主である。私より少し落ちる程の魔力だが、この方も何なく転移魔法が使えることを知っているので、私はこの方に自分の魔力を知られないよう極力並くらいにフェイクして魔力量の調節をしたりしている。
一方でアクセル様は奥様を見て顔面蒼白になった。そりゃ、メイドが膝に乗ってイチャイチャしながら朝食を取っていらっしゃる浮気現場を見られてしまったのだから。
しかも手は完全にメイドの乳にありました。アホである。
「え?エルサ…明日帰る予定ではなかったのかな?」
メイドも青くなりささっと何もなかったように膝から降りたが時既に遅し。
「ほほほ…今更ですわね?ばっちり浮気現場はこの目で見てしまいましたわ。まぁ良いのですよ?私は見目が良くない醜女ですからね?身体だけの関係ですし、王家との繋がりを貴方は失くしたくないのも解りますから離縁はしないでおきましょう…勝手に好きにどうぞヤッてくださいな?アクセル様」
「い、いや違うんだその…こっ、これは…たわいもない遊びというか趣味というかね?はは…」
もはや言い逃れできないのに何言ってるんだという空気がビシバシその場で流れていた。早く帰りたいです。お嬢様。
「ですからその遊びも存分にしたらいいでしょう?妻が良いと言ってるんですから安心なさって?お父様にも告げ口なんてしませんわ!」
それを聞くとヤリ●●野郎はパッと明るくなった。
「本当か!?い、いや…だから俺は…」
とまだ何か言いたそうだが、奥様は無視して私の肩に手を置いた。
「アクセル様がお遊びになっている間私も暇ですからノアを貸して頂けないかしら?いいですわよね?それくらい…私はノアだけでいいので。貴方はたくさんの女達とお遊びになって?」
「は?ノアと?君…それは…ノアと遊びたいと!?」
何だと!?奥様…私と浮気したいと!?冗談じゃない!何で私が夫婦の色恋沙汰に巻き込まれなくてはならない!?私はヴィオラお嬢様一筋なのに!!絶対にお断りする!!
「ええ、いいでしょう?それともお父様に報告してもよろしいのかしら?アクセル様?」
「そ、それは…しかしノアにはほら、好きな女がいるんだと!」
おお!ヤリ●●旦那様が私を庇うとは思わなかった。
「はぁ…それが何だというのですか?むしろ人のものとなれば私もより楽しめますわね!おっほっほっ!…では行きますよノア!休暇は取り消して私の相手をなさい!」
「なっ!!?」
何言ってるんだ!?奥様!!
このヤリ●●野郎の仕事を肩代わりしつつも一生懸命働いて金を作りお嬢様との休暇の為だけを心の支えにして、昨日やっと素晴らしいデザートをいただくことができたのに!(唇だけです)
悪女だ!この元王女は完全に悪女だ!
私はアクセル様を見た。目を逸らされた。
このヤリ●●野郎!!
「奥様…それはあんまりでございます…。ならば私はここを辞めさせていただきます。奥様とはそのような関係には絶対になりませんので」
と言うと奥様は笑い
「まぁ!なんて真面目なのかしら!このヤリ●●旦那様なんかよりよほど誠実だわね!!貴方まだ女を知らなさそうよね!判るの私!うふふ!燃えるわ!その女より先に奪うわ!」
と宣言する。
「な、成る程…ならノア…うちの奥様が遊んでいる間、その君の女を私が相手すると言うのは?」
「は?」
何言い合ってるこいつら?非常識にも程がある!!誰が大切なお嬢様を渡すかこの野郎!!屋敷燃やしてやりましょうか!?
「あら旦那様いい提案だわ、ノアとりあえずここにその貴方の女とやらを連れてきなさいよ」
「嫌です!絶対に!!もう辞めさせていただきます!」
すると物陰から執事長達が止めに入った!
「ひいいいい!!ノアくんが辞めたら仕事が大変なことになる!!辞めないでくれえええ!」
「そうっすよ!奥様も酷いっす!ノアさんやっと想いが通じたっぽいのに!二人を引き剥がすとか!」
「………ノアが辞めたら俺が奥様の相手させられそうで嫌だ。俺もカミさん一筋だからな」
………真面目に引き止めてくれるのマウリッツくんだけですか!!
「うるさい!!とにかくその女を連れてらっしゃああああい!!」
と奥様は怒鳴った!
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