第13話 悪女の制裁
ラディム王子はノアさんを見て驚いた!
「なっ…何!?僕を手当てしたのはお前…だと!?」
「ええ…ミラちゃんの言う通りお嬢様ではなく私が手当ていたしましたよ?勝手に勘違いなさり連れ去ったのは貴方です」
とノアさんが言う。
「従者はお前の命の恩人にゃ!それに見ていたなら判ったにゃ!?ご主人と従者は愛し合っている最中だったにゃ!!邪魔なのはお前にゃ!」
ノアさんの顔が一気に赤くなる。
私もだ。
「くっ!…何ということだ。侍女の言うことは本当だったのか…姫がその男を愛していて結婚したいとずっと訴えていたと言うのは!!」
悔しそうにオッサン美少年王子が顔を歪めた。
「まぁそう言うわけでとっとと帰るにゃ!ほらほら!」
とミラ様が仰られた!!
最初私のことをズボラの塊とか言ってたけどその件は多めに見てあげるわ。
しかし諦め悪く王子は
「姫…それでも僕はまだ貴方を諦められない!!どうだろう!?僕も暫くここで一緒に暮らしても良いだろうか!?心変わりするかもしれないぞ?その男より」
それに私とノアさんは
「却下です!」
「無理なんです!!」
と言った。ノアさんは
「お嬢様…」
と嬉しそうに私を見た。
「何故無理なんだ姫!?」
悲壮な顔で美少年がこちらを見る。
「な、何故って…だって…王子様はあんなのを毎日食べてるじゃない!ごめんなさい!無理なの!貴方達竜人族と人間の私は食文化が違い過ぎるの!!」
「なっ!!…姫…まさかそ、それだけなのか!?食事などどうとでもできる!」
「何ですって!?どうとでも!?私が捕まってた時に何食べさせてくれてんのよ!!それに外に連れ出しても犬みたいに鎖つけて散歩とか!嫌よ!」
すると王子はしゅんとして泣きそうになり、プルプル震えていた。おっと、少年に見えてもオッサンだからその手が通じるなんて思わないことね!
対するノアさんは何故か勝ち誇った顔をしている。
「そういう訳なのでどうぞお帰りくださいませ王子様」
とほくそ笑んでいた。
オッサン美少年王子はムッとして、
「ならば僕も姫と同じ食事を頂こうか!一体人間がどんなものを食っているか興味がある!僕が姫の食べるものを合わせればいい!」
とめげなかった!
「貴方はお嬢様に何を食べさせていたのですか?」
「何って…姫は芋虫が嫌いなようだからカエルと蛇を与えたらやっと食べてくれたが?」
と暴露され私は青くなったが、それ以上にノアさんも青くなった!!
「お、お嬢様…な、なんて物を食べさせられていたのですか!さ、最悪ですね!」
「何だ?僕の国では普通だぞ?暗い地下では普通である」
「人間はそんなゲテモノ食べませんよ!!バカなのですか!?拷問じゃないですかっ!!」
「えっ!?ひ、姫はカエルと蛇もダメだったのか…そ、そうかすまなかった…」
としゅんとした。あああ!小さい子がしょげてる!!可愛い!!でも中身オッサン!!
「い、いやあの、虫は無理だけどね、な、何とかそれだけは細切れにして原型見なきゃなんとかいけたし…ふふふ」
と苦笑いした。
「……ご主人は…別の意味で凄い人間にゃ…」
とミラが言う。
「じゃあ!さっさと人間の食べるものを持って来い!!」
とオッサン美少年は完全に居座る気である。
不味い。
もう明後日は旅行なのに!
ノアさんはため息をついて言った。
「お嬢様…旅行は中止にするしかないようですね…」
「そ、そんな…」
「この問題を片付けないと私も安心できないので!!」
と王子を睨んだ。
それからキッチンでダンダンと大きな音で料理をし始めるノアさん。
「ところで姫は名前を何というのだ?僕のことはラディと呼んでくれて構わないぞ」
と手を握るオッサン美少年。
「え…わ、私は…」
と名前を言おうとしたらキッチンから包丁がビュンと飛んできて壁にグサリと刺さって王子は思わず手を離し避けた。
ノアさんが怖い顔でキッチンから歩いてきた。
「おっと…私としたことが…手が滑ってしまったようですね…」
と壁に刺さった包丁を抜きに行った。
「どうやったらそんな所から包丁が飛んでくるのだ!!」
と突っ込んだ王子。
それは同感だ。
王子はキョロキョロしてやっと気付いたように
「それにしてもこの小屋は何なのだ?狭いし…何故こんな所に姫とこの男は居るのだ?」
ギクーーン!!!
え?ど、どうするの?
誘拐されたから☆
…とは言えない。いや、言っていいの?
いやそしたらこの王子にまたあの地下に連れ拐われるだけよ!それは不味い!また蛇とかカエルとかの生活は嫌なのお!!
「お、お嬢様は避暑に来られているのです!!人のいない静かな所でゆっくりされたいとのことで!!」
と変態執事は誤魔化した。
凄く申し訳なさそうな顔をしている。
「そ、そうなの!人が多い所は苦手だから…」
「それにしても男と2人と言うのはいただけん!それともまさか秘密の関係とかではないだろうな!!?」
「関係ないでしょう!?」
「ある!お前は僕の恋敵だからな!!」
「なっ!」
とまたバチバチと美形と美少年が火花を散らした。このままではお互い私をかけて魔力のぶつかり合いが起こってしまう!!
そして下手したら巻き込まれる!
私は止めることにした。
古代より伝わりし男女間、三角関係における伝説の台詞………いや、正確には読んだ小説に書いてあった言葉を解き放つことにした!
涙目になり2人の間に入り、
「お願い!!もうやめて!!私の為に…争わないで!!」
と。
2人は前に出た私にハッとする。
ええと…これからどうするんだっけ?
前に出て台詞を言ってみたけど次の言葉が出てこない!…こんなことなら前に出るんじゃなかった!!
仕方なく私は泣き真似をしだした。
「うっうっ…うっ…」
「姫…す、すまない!泣かせる気は…!お前のせいだぞ!?」
「なっ!?どう見たって貴方のせいです!お嬢様すみません…ハンカチをどうぞ」
と渡してくるがそれを美少年が指先に魔力を集めてボッと一瞬でハンカチに火をつけ、ハンカチは一瞬で灰になった。
「何するんですか!」
「お前のハンカチなどで姫の涙を拭かせるわけにはいかん!姫の涙はこれから僕が舐めとる!」
と言い、瞬時に私に近寄りペロリと舐められた!!
はっ早い!
ノアさんも止めれなかった。
王子は勝ち誇った顔になった。
「き…貴様…お嬢様に何と言うことを!もう許さない、殺す!」
と怒りでノアさんの魔力が乱れ建物がゴゴゴと揺れた!
ひっひいいいい!!不味い!
怒りを鎮めないと小屋がぶっ壊れる!!
私はサッとノアさんに近寄り頰にチュッとキスをした。
するとノアさんの怒りが止まって固まった。
よしっ!
しかし今度は王子から恐ろしい殺気が!!
私は今度は王子に近寄り仕方なくチュッと額にキスをするとこっちも固まった。
「2人とも!いい加減にして下さい!!この小屋で暴れたら許さないから!!
………いいでしょう!そんなに私のことを想ってくださるならどちらが私に本当に相応しいかは私が決めるわ!!それならしばらくの間2人がどれだけ私をときめかせることが出来るか勝負するといいわ!
もちろん攻撃魔法は無し!暴力ダメ絶対!やらしいことは禁止!私の許可がない限り触れるのも禁止!!なるべく言葉で!私を口説き落とした方が勝ち!」
ふふふ!言ってやったわ!
これなら平和的に解決できるだろう!ジャッジを下すのは私だ!それにこれならノアさんに合理的に好きだとか言ってもらえる確率が高まる!!そこで一気に【私を養ってお願い】に掛ける!悪いわね、オッサン美少年!この出来レース…敗北するのはあんたよ!!
「そうか…姫の心を先に捉えた方が勝ちと言う訳か!いいだろう!その勝負を受けて立とう!僕は小屋では魔力を使わない!」
「判りました…。結界以外の魔力なら使わないということにします…。お嬢様それでよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんよ…」
「では、昼は僕が姫を口説こう…夜はお前に譲ろう、おっと姫にはやらしいことはするなよ!?」
「ちょっと待って下さい!!私は家事もあるし、仕事もある!それに夜は夕食にお風呂や就寝の時間もあり、どう考えても私の方が時間が短いじゃないですか!!不公平では!?」
確かにそうだ。ここに家事のできない女がいる以上は全てノアさんの負担であった!
「しかしお前は昼間忙しいのだろう?ならば姫はその時間寂しい思いをするのだから僕が口説いてもいいではないか!」
「くっ!!」
反論できず変態執事は仕方なく折れた。
それから私達は夕食を食べることにした。
「おい!ちょっと待て!何故王子の僕のご飯が床に置いてあるんだ!?」
オッサン美少年は床に並んだ料理を見て怒っていた。
するとノアさんは冷めた目つきで
「申し訳ございません!椅子が足りないのですよ…」
と飄々と応えた。
「ぐっ!お前が避ければ良いじゃないか!」
「は?何故ですか?招かれざる客だと言うのに!ご飯を恵んでやっていることをお忘れなく!!」
私も恵んでもらっています。…おお、有り難や…。とこっそりテーブルクロスの下で手を合わせておく。
因みにミラは無視して餌に夢中だった。
ともあれ、美少年は人間の料理を見た。
「ふうむ…何とも野蛮な…肉食動物を捕食する等…人間は何という残酷なことをするのだ…。こちらのサラダはまだ食べれるな」
と野菜を中心にモリモリ食っている。
いやカエルや虫や蛇を主食で食ってるあんたが言うんじゃない!!
「人間は肉や魚・野菜・果物を好んで食べます。やはり貴方方竜人族とは徹底的に違います。カエルや蛇に虫なんて論外ですよ!」
と言い放つ。
「くっ!!ひ、姫の為なら僕だってこれを食してやる!!」
と青くなりながらもパクリと一口食べた美少年…。
そして…
「な…なな、何と!?う、旨い!!」
と言った!!
ええええええ!!!?
「肉がこんなに旨いとは…嘘だろう?………なるほど僕達は人間を避け、地下で採れるようなものばかり食していたからな…。姫済まなかった…。これからはこういうものを食そう…、何…他の者も最初は嫌がるかもしれないが食べ始めたら食文化も変わるだろう」
なっ!何だと!!?
てっきりこの美少年も私と同じ目に合うのを期待してた。こんなもの食えるか!と皿を放り出すのかと思ったのに!!おいそりゃないよ…。私カエルと蛇とヤモリ食べたのに!!酷い!!
私に復讐心が沸き起こり始めた。
思わず私はオッサン美少年を睨んだ。
美少年はビクっとした。
「ひ、姫?」
「…王子…折角ですからデザートは私が1人で作ってもよろしいかしら?」
ズゴゴゴゴ…。
「えっ!?姫の手作りのデザート!?もちろんだ!!」
とオッサン美少年王子は歓喜して目を輝かせた。それに対してミラとノアさんは一瞬固まりかけた!彼等は完全に察したのである!
恐らくこれから起こるだろう未来の悲劇…いや、惨劇を…。だから恐怖した。踏み込んではならないと彼等は本能で感じているはずだ。
「ノアさん…キッチンをお借りしてもいいかしら?」
「ええ…もちろんです…お嬢様…しかし危ないので私も手伝いましょうか?」
とノアさんが気遣うと…美少年は止めた。
「折角の姫の手作りデザートを手伝うと言うのか!?姫は僕の為に1人で作ると言ったんだ!」
「………判りました…。もう私は止めません…」
「従者!ミラもう眠いにゃ!お部屋に連れてくにゃ!」
「そうですね!ミラちゃんは安全な…いえ、部屋に戻りましょうか」
とノアさんはミラを抱き上げて部屋に連れて行った。
「それではデザートをお作りしてきますわ!」
と私はキッチンに行き、材料をかき集め始めた。
けけけけけ!
王子!これでお前も終わりだわ…。
もはやさながら暗殺者と同じだが、私の料理の破壊力はノアさんで実験済みである。
そう…これは制裁である!
私にカエルや蛇を食わせ、自分はノアさんの料理を旨いと言って食った!!ほんの仕返しだ。
「まぁ、普通にプディングを作るだけよね」
しかし数十分後…キッチンではもはや恐ろしい光景が繰り広げられていた。今回は焦がしはしなかったものの自分でも恐ろしい物体を作ったかもしれない…。流石にこれは食えたものじゃないと自分で判る。
私はリンゴのプディングを作った。
…はずである。
台の上には禍々しい真っ赤な血とも思えるようなそれでいてスライムのような…いやそれよりも更にジュクジュク煮えたぎる恐ろしい魔界の生き物に見えた。
な、何だこれ?
自分で産み出しておきながら私は震えが止まらない!心なしか暑いし、目が焼けるように痛いような気がする…。
だが…これを王子に食べてもらい今度こそお帰りいただこうではないか!
私は鼻を摘み涙目になりつつも、不敵に笑った。
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