第4話 黒焦げのビチャビチャの●●●ーのような何か

「あの美形の変態の隣の部屋どうなってると思う?私の絵が壁と天井にびっちりあるのよ!?私の子供の頃から覗いていたのよ!

 どう?あの男がどれくらい気持ち悪いか判ったでしょ?」


 と私はミラに悲惨な状況を説明していた。

 しかしミラは猫であり人間と感性が違うのかどうしてもどこかズレた意見を返すのだ。


「ご主人のことそんなに沢山愛してくれてるにゃ!むしろご主人は美味しいご飯とお世話をしてくれる従者に感謝すべきにゃ!」


「えっ…まぁ料理は美味しいけど、そう言うことじゃないのよ?ミラ…」


「ご主人何が不満なのかミラ解んにゃいにゃ。お世話されるのがそんなに嫌にゃら自分でやるにゃ。料理、洗濯、掃除全部あの従者は喜んでやってるにゃ。ご主人はゴロゴロ本読んだりしてたまにミラに愚痴言って撫でてるだけにゃ。あいつの為に何もしてないにゃ」


「しようとしたら止めるんだもの!」


「……ここから逃げる作戦もないのにかにゃ?中途半端な優しさは返って損するにゃ!まぁミラはここにずっといてもいいにゃ」


 外の豪雪を見て欠伸をするミラ。

 猫は居心地が良ければどこでも生きて行けるもんね。


「正直ね、もう数ヶ月は経ったかしら?外の空気が吸いたいわ…」


「なら頼んでみるといいにゃ。信用させるんにゃ?頼むならおねだりを可愛くするにゃ!スリスリして甘えるにゃ」


「猫じゃないし無理よ」


「じゃあ諦めるにゃ」

 ゴロンとミラは寝転がった!


 おい!ミラ!そりゃねぇよ!!ご主人様がこんなに悩んでるのに放置かっ!

 所詮猫畜生。ゴロゴロ可愛くしながら肉球をぷにらせるしかない奴よ!


「ご主人…試しにお菓子でも作って上げてみるにゃ。きっと喜ぶにゃ。あのキッチンはオーブンから、パン窯とか一通りは揃っていて材料も沢山あるにゃ!」


「お菓子!?」


 ……そ、そうねぇ。どうせゴロゴロしていても暇だし…。


「判ったわ…お菓子くらい作ってやるわよ!」

 と私は立ち上がりキッチンへと向かった。

 とにかく料理器具と材料を揃えていった。

 ……しかし何を作ればいいのかしら?

 そもそも私料理とか…したことあったかしら?

 え、待って確かあるわよ!小さい頃!!

 こ、孤児院に寄付しようってことでボランティアでメイド達と一緒に…


「クッキーだわ!!」

 そう、あの時私は初めてクッキーを作った!はず!

 うーん、どのくらい使うんだったかしら?バターはいるわよね?卵、小麦粉?えと砂糖!!後何かある?えっ!?何g?


 いや、落ち着いて私?

 確か生地をこねて寝かせて焼くのよ!!うん!

 確かコップで型をとるのよ。丸い。


 そこまで考え、私はボウルを見つめ作り始めた。


 *


 床が光りいつものように私は愛しいお嬢様の元へ仕事を終えて戻りました。ま、まるで妻が待っている家のようです。ああ、すみません!期待してしまいました!ダメです。そんなこと。


 しかし…家の中…いや、キッチンから黒い煙が!?というか煙くさい!?


 私は顔色を変えた!!


「お嬢様!!ヴィオラお嬢様ああ!!!」

 叫びながらキッチンに入ると

 ゲホンゲホンと咳をしながら可愛らしいエプロン姿にノックアウトされそうになりましたが、そんな場合ではない!!!


「オーブンが…」

 ぶっ壊れてますね。


 ビクッとお嬢様が青くなり震えました。

 壊したことへの罪悪感でしょうか?

 それよりどこかお怪我や火傷などがあったら大変で


「お嬢様!お怪我は?火傷していませんか!?」


「大丈夫にゃしてにゃいにゃ。でもオーブンを爆発させてなんとか火を消してクッキーも黒焦げのビチャビチャになってしまったにゃ。ご主人は今後料理しない方がいいにゃ。勧めたミラにも責任があるにゃ」


 とミラちゃんが謝った。

 なるほど、料理台の上に黒焦げビチャビチャの物体があります。


「……………ごめんなさい…壊しました…」

 とお嬢様が反省しています!!

 ど、どうしましょう!しおらしい!可愛い!!

 私に怒られると思っているんですか?そんなわけないですよ!私がお嬢様を怒るなんて死んでもあり得ない!死んだ後もあり得ないです!!


「いいんですよオーブンがちょっと使えないくらい。魔力で火を出せますから直すまでそれで代用致します」


「そのクッキーはいつも疲れて帰ってくるお前さんにご主人が作ろうとしてたにゃ。大失敗してゴミになってしまったがにゃ」

 とミラちゃんが言う。


「なっ!ちょっ!ちがっ!わ、私が食べる為に!!」

 とお嬢様が赤くなり慌てた。


 は!?

 わ、私の為と今ミラちゃんが言いましたか?動物が嘘をつく理由もない!な、なんと言うことだ!

 あの黒焦げビチャビチャのクッキーらしき物体は私の為に作られた神の至高の一品だったのですか!!


「ではここは私が片付けて置きますのでお嬢様はリビングでお寛ぎを」


「なんか…ごめん…も、もう入らないわよ…。それもさっさと棄てておいてね」

 と言うので


「はい、私が全部いただきますね。棄てるということは所有権を廃棄したと言うことですから、私がこの黒焦げビチャビチャのクッキーを引き取りお食べします!」

 と言うと何故かお嬢様が青ざめた。


「あ、あんた何言ってんのかちょっと解んないんだけど!?そ、それとても食えるような物じゃないわよ!?もう食べ物としては完全に役目を終えた物体よ!?お亡くなりになっているわ!!やめなさい、お腹を壊すわよ?」


「例えお亡くなりになっていても在りし日の元気なこの子達が私の脳内には浮かびます…。そう、あの日火事で亡くなった両親と同じように…。大丈夫です!お嬢様!私が!私のお腹の中できちんと天国へと浄化致します!!むしろ私の心配をしていただきありがとうございます!!」


 と言うとお嬢様は白目になり…


「ど、どうなっても私は知らないからね?」


「はい!!」

 と私はその黒焦げのビチャビチャのクッキーのような物体を大事に夕飯の後まで取っておいてお部屋で食べている途中から意識を失いました。


 *

 ドサリ!!


 ベキベキベキバキーーーン!!!


 と大きな何かが倒れる音がして、何と五重結界の壊れる音がした!!


「なっ!!?何事!?」

 ミラと私は隣のドアを叩いたが返事がない。

 仕方なく私は魔力でまたカチャリと扉を開けた。すると相変わらず壁と天井は私だらけの絵に引いたが床にビクビク痙攣しつつ泡拭いてる美形の青ざめた顔があった!!


 側にはなんと私が作った黒焦げのビチャビチャのクッキーらしき物体のゴミのカケラが落ちている。


 ミラと共に白目になった。


「ご主人が…従者を殺したにゃ…」


「な、何言ってんのよ!!ここ密室だったのよ!私は隣の部屋でミラと本読んでたもの!アリバイがあるわ!!殺したのは私じゃない!犯人は黒焦げのビチャビチャのクッキーのような物体のゴミよ!!」


「それ…ご主人が作ったにゃ」


「うぐっ!!」


 まさかこの黒焦げのビチャビチャのクッキーらしき物体のゴミを本当に食べる人間がこの世にいるとは思わないじゃない!?


 いや、いたからこうなってるんだけど!?

 しかし…逃げ出せる最大のチャンス到来かもしれない!!


「ミラ!この隙に逃げるのよ!!今ならこいつ気絶して意識ないから魔力が途切れたわ!!すぐに持ってる服を全部着て外に出よう!」


「えっー?寒いからミラはここにいるにゃ。死ぬのは嫌にゃ、夜だし」


 この薄情猫!!いいわよ!1人で逃げてやる!!

 ……………。

 ちらりと死んだような美形を見た。このまま本当に死ぬのかな?私のあの黒焦げのビチャビチャのクッキーらしき物体のゴミが殺したとは言え…いや、生きてるのかも謎だわ。


 私は一階に降りて玄関の扉を回した。

 数ヶ月ぶりに外の空気を吸った。

 ……が、寒すぎて直ぐ閉めた。


「さっぶ!!寒い!!」

 心なしか何かおかしい。部屋が寒い…。

 もしや…今まで快適だったのって…全部ノアさんが調節していたから!?

 その彼は2階で屍の手前みたいになっている。

 うぐうううっ!!!


 私は玄関のドアをもう一度開けた!!


 *

 あれ?

 何処でしょうかここは?


 巨大な黒い湖面に花の乗ったボートの上で黒いローブの髭男が振り向きました。


「ああ、目が覚めちまったか…寝てていいよ?直ぐに岸に着くから…」


「えっ!?誰ですか貴方?」


「誰って…見りゃわかんべ?死の案内人だよ。あんたをこれから死の国に連れてくんだべ」


「ええっ!?ま、待って下さい!!そんなっ!まだ私やり残したことが!!私の幸せを返してください!」


「おいっ!立つな!あぶねーだろい!!やめろ揺らすな!!」


「あっっ!!」


 ドボン!!

 と私は黒い湖面に落ちてなんかビチャビチャしたヤツに捕まった。ああ…寒い…でも熱い…。たす…け…。


 するとヒヤリとした何かが私を包み込んだ。

 何だろう?冷たくて気持ちがいいです。


 *

 ゆっくり目を開ける美形執事。

 額には雪がこんもり山となって乗っている。


「……………」


「気がついたにゃ」


「あらほんと…やっぱり冷やすのが良かったのよ」


 美形執事は額に着いた雪を見てカッと起き上がりいきなり魔力を振り絞り五重結界を元に戻してしまった!!


 あーあ…逃げるチャンスが水の泡。

 と言っても凍死するだけだから、外の雪持ってきて頭に乗せただけなのに。


「お、お嬢様…な、何故…今、私…死にかけていたのに…結界も…壊れていたのに……に、逃げ出さなかったのですか!?」


 と言われても逃げる以前に寒くて無理だっちゅーの!舐めてた。雪山相当舐めてた!!


「あんな吹雪の中無理だわ。外の空気が吸えたのは良かったけど…。ここに死体を残して行くのもね。仕方ないからちょっと頭を冷やしてあげたけどね…気分はどうかしら?」


 すると彼はうっと口を押さえて失礼しますとトイレに駆け込みゲーゲー吐いたり、お腹を下してゲッソリして帰ってきた。

 流石に私はヤバイものを作ってしまった!!と反省した。しかも殺しかけたわ!!

 この黒焦げのビチャビチャのクッキーみたいな物体のゴミで。


 まだ気分が良くないのかとりあえずノアさんは横になって動かなくなったので水を置いて部屋を出た。


「………ご主人…」


「………何よミラ…ちゃんと逃げなかったわ」


「ご主人は人殺しになるところだったからあの従者に一つお詫びをあげるにゃ」


「え!?お詫び?」

 な、何でそんなこと!大体私は止めたのよ?一応。でもあの変態はどうなっても知らないと言う私の警告を無視して勝手に死にかけたと言うのに。


 しかし罪悪感が凄い!人殺しはいけない!!


 翌朝ようやく少し回復したノアさんはキッチンで朝食を作っていた。


「ちょっと!大丈夫なの!?」

 と声をかけるとほっそりと笑った。


「し、心配ありません、もう大丈夫です。私なんかのことでご心配をおかけしました」

 と大変蒼白な顔付きで言ったから


「今日は休みなさいよ…」


「いいえ、大丈夫です」


「顔色悪いわよ?また倒れるわよ?」


「………判りました…。通信魔道具で連絡してきます」

 と2階へとフラフラ上がって行った。

 ん?通信魔道具!?いい、

 今あの変態は通信魔道具と言った!!?


 言ったわ!!


 何てこと!!通信魔道具なんて高価な代物がここにあったなんて!!通信魔道具は遠く離れた場所でもこれがあれば相手と会話できるのだ!!侯爵家などの上流貴族しか持っていないと聞いたけどラッキーなことに私の元婚約者のヤリ●●野郎も持ってるみたいね!!


 私はそっと薄らと開く扉から休むことを伝える美形執事を見た。

 確かに通信魔道具を耳に当てて喋ってる!!


 よっしゃああ!

 あれがあれば私が誘拐された事を伝えられるじゃないの!!

 ひひひひひ!諦めたフリをしてあの通信魔道具を奪ってやるわ!!何とか王宮の衛兵とかに繋がって事情を話してお父様達に知らせられるかもしれない!!そうしたら魔法省が何とか捜索してくれるかもしれない!!


 俄然やる気が出てきたわ。

 諦めてなるものですか!!これも私が黒焦げのビチャビチャのクッキーのような物体のゴミを作ったおかげだわ!!


 すると連絡を終えたノアさんは…


「休むことにしました…。ちゃんと元気になって沢山お金を稼いできますね…。お嬢様…逃げないでくれて…私のことを心配してくれて本当にありがとうございます。貴方は本当に優しい方ですね…」

 と微笑んだ。

 ぽ…っと頰に熱が灯り見惚れた。


 や、優しいとか…

 今し方通信魔道具で何とかしようと思っていたと知れたら私どうなるのかしら?


「ご主人ー?」

 とミラがイライラしていた。うっ!わ、判ってるわよ!


「あー…ノアさん…流石に悪いと思ってるから、私に一つ何かお願いしてもいいわよ?1日だけね?や、やらしいことはなしだけど」


 と言うとノアさんは驚き目を見開いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る