第5話 一日手を貸すだけなのにどうしてこうなった!?
「ヴィオラお嬢様が…今日一日私の願いを聞いてくれると…そう言ったのですか!?」
ノアさんから怪しいオーラが溢れた!!
「ちょっ!だからっ!!やらしいことは絶対的に拒否するからね!!」
するとノアさんは考え込み言った。
「では、今日一日許されるなら食事とトイレとお風呂洗面所などを使う時以外お嬢様の手を握る、もしくは触ることをお許しください!!もちろん変なことはしません!誓って!手以外には触りませんから!!」
えっ!?手!?
手だけか…大丈夫かな!?いや、手?
「何にゃ?手ぐらいなら別にいいにゃ」
「ありがとうございます!!」
「いや、ちょっと待って!!今返事したのミラだから!!!」
あぶねー!!
ミラの奴!手って言ってもね…
「あ…あの…手を触るって何なんですか!?それ一日中とか耐えられるんですか!?」
「お嬢様!手を握ることはやらしいことに含まれますか!?そんな話は聞いたことがないです!!それに普通に触りますから!」
とノアさんが言うので、ま、まぁ手ぐらいならいいか!?と考えたがちょっと待て?
「いや…待ってください。もし手汗とか出た場合どうなるんですか!?汚いでしょ!?」
「お嬢様の手汗なんてもはやウェルカムとしか思えませんので!!」
どこの世界に手汗を好む人間がいるんだよ!!あ…ここにいるか…。
「だ、ダメでしょうか?」
もはや捨てられた仔犬のようにしゅーんとなってしまった!
「わ…判ったわよ!手くらい!!」
するとノアさんは輝かんばかりの笑顔になりおい、お前気分悪いのどこ行ったんだよ?元気なら仕事行け!と思ったらそこで優雅な所作で嵌めていた手袋を口の端で噛み、素手の掌を前に出す。
「ではお嬢様…お手を拝借致します」
と丁寧に私の手を取りソファーに導いた!
手を繋ぎソファーに座ると何もしてないけどなんか照れる。しかも大きい手に包まれて…。
「ああ、お嬢様の手を独占できる日が来るなんて私は何という幸せ者なのでしょうか!!滑らかな細い指先から掌全体に熱が伝わりとてもドキドキします!」
「ああ…そうですか…はい…」
ていうかずっとこれまた手の感想言ってくる気!?嫌すぎる。
「お嬢様の親指可愛いです。人差し指も可愛いらしい。中指も更に愛しい。薬指はそこに…いえ、恐れ多い!小指は小ぶりでまた可愛らしいあどけなさです」
ひいいいいー指一本一本の感想とか言い始めた!!やめてくれえ!!ゾワゾワと背筋が逆立ち始めた。変態を調子に乗らせるんじゃなかった!
「あっ!そ、そうだ!!」
と何か思いついたノアさんはマジックポケットをゴソゴソしてなんと、爪磨きを取り出して
「お嬢様…どうかお嬢様の爪を…磨かせてください!!」
と膝をついて嘆願している!!
「………は、はあど…ドウゾ…」
もう白目になりながらソッと差し出すと彼は優しく磨き始め、時々爪に語りかけて恍惚になっていた。
もはや…この手で握り拳を作り顎に一発入れてやりたい衝動に駆られたが喜ぶだけなので何とか抑えた。
数分後…私の両手の爪はピカピカに輝いていた!!
「お嬢様の爪は大変健康ですよ!爪で健康かどうか判るんです。綺麗なピンク色でしょう?血液が綺麗な証拠です。逆に白いのは貧血気味で紫になると心臓病や肺疾患が疑われます。赤すぎるのは動脈硬化の可能性。赤黒いのは肝臓に問題ありなどです」
「へ…へええ?それは知らなかったわ。物知りなのね」
すると美形爪博士と化したノアさんは照れた。
「お嬢様のことをいつも爪の先まで欠かさず見ていますので…」
「あっ…ソウデスカ…」
ちょっと見直したけど見過ぎだよ!!
「そうだ、お嬢様…手のマッサージをしましょうか!?血行促進や疲労回復などのツボを押したらもっと健康になれますから」
「えっ!!?」
おいおいおい!マッサージとか言ってやらしい触り方すんじゃないの!?手だから安心とか言って!!
この変態まさかそれが目的なんじゃないの!?
と睨んだが…
数分後…
あっ……き、気持ちいいいい!!!
何これ?手もみマッサージってこんな気持ちいいの!?
うわっ!心なしか体調が良くなったしなんかリラックスする!!
ノアさんはハンドクリームをつけて指一本一本を円を掻くようにしては伸ばしを繰り返している。最初は少し恥ずかしかったが慣れてくると
あれ?何これほんと極楽だわ!!
になった!!
「体調も血行も良くなるし、内臓の機能も良くなるんです!手にはいろいろなツボがありますからね、お嬢様にいつまでも健康でいてほしいですから!他にもいろいろな症状が改善されます。肩こりや腰痛・頭痛・めまい・耳鳴り・不眠・腹痛・ぜんそくとか…」
おい!今度は健康博士になったよ!!!
ていうかこれお前がやれよ!!
「ノアさん…なんだか私ばかり悪いから今度は私が…」
と彼の手を取ろうとするとバッと避けられた!
なんでよ!?
「お嬢様に私如き薄汚い野良犬の手をマッサージさせるなんてそんないやらしいことはさせられな…」
おい、こいつ今、いやらしいことって言ったぞ!!なんかもっともらしいこと言って結局興奮してる変態じゃないのおおおおお!!!
「……………………」
半目になると
「いや、違いますよ?マッサージですよ!!変なことしてませんから!!むしろ変なのは私の脳でありまして!!」
自分で言うなっ!!!
「とにかく貴方体調悪くて休んだんでしょう!手を出して!!」
と言うと真っ赤になり
「は、はい…」
と綺麗な手を差し出した。
私はとりあえずハンドクリームを塗り同じようにしてみる。
「あっ…」
という声があがる。
「ちょっと!変な声出さないでくださいよ!」
「す、すみませんお嬢様…奉仕するつもりが…あっ…そこは……」
いや、やめろよ!だから変な声だすの!!
心なしかはぁはぁしてるよこいつ!!やめてくれ!何か誤解するからっ!!
たしかさっきは円かきながら指の付け根を引っ張ってたよね!?よし、やってみよ!
と私はノアさんの親指を思い切り引っ張って……
ボキッとする嫌な音が響いた。
私の顔面の血の気が引いた。
ブランと親指がお亡くなりになった…。
ノアさんの顔を見るとにこにこしたままちょっと泣いてた。
ひいいいいいいい!!!!
ごめんなさいいいいいいい!!!
いや、どんだけバカ力で引っ張ってんだよ私!!
最悪だわ!!
「あ、あの…ごめんなさい…い、今…あの…おお折れましたよね?」
「………はい、でも折ったのがお嬢様ですので全然大丈夫ですよ?むしろありがとうございます!!」
と何故か折ってくれてありがとうとかお礼を言われる。ミラからはもちろん冷たい目で見られた。
「…今度は指まで殺したにゃ…」
「いや、骨折なんて治るわよ!!そ、そうだ、大丈夫よ!!別に切り落としたとかそういうグロいのじゃないんだからね?折れたのは戻るから!!」
と焦って言うが、ミラは
「ご主人…今度からミラの手とか触らないでほしいにゃ」
と避けられた!!!
違うのミラ!!これは…じっ事故なのおおおおお!!!
その後、痛々しい包帯を巻いたノアさんの親指に目がいってしまう。しかも私が巻いたからド下手くそで親指に包帯と言うか利き手ほとんど使えない巻き方になり、チョロリと先っぽだけ他の指先が覗いている。
「片手の親指だけなので平気ですよ?すぐに治りますよ…まだもう片方の手は空いているので今日はそっちで繋ぎますねお嬢様に包帯を巻いて貰えるなんて感激です!」
とめげなかった。
なんだその手の執着!!
しかし骨折までさせてしまったので更に罪悪感がつのり私は嫌だとは言えなかった。
しかもその包帯の汚い巻き方…自分がそれやられたら私だったら怒る…。
この変態が怒らなくてほんと良かったわ…。
ふ、ふふ、惚れた女には何でも許しちゃうんでしょ?だから私が下手な巻き方してもセーフよ。許される。何故なら惚れられてるから!!
「ご主人…前々から思っていたにゃが……凄く不器用にゃ。にゃんでこんな家事もできにゃい、主人を好いてくれるのか不思議にゃ…。ご主人はもっと従者に感謝するにゃ」
とミラが堪らず言う。
猫畜生が!!喋れるようになって嬉しいけどなんか小姑みたいになってきたわ!!
「いえミラちゃん…私はお嬢様に感謝などしてもらう義理もありませんよ、私の方がお嬢様に尽くす方なのですから!この包帯もとても気に入りましたよ!!もしや…指が治るまでずっと巻いて貰えるのでしょうか?」
と期待するノアさん。
くうっ!
やめてくれ!毎日自分の不器用さを思い知らされるなんて!拷問か!!
新しいタイプの拷問か!!
これでも監禁されてるもんね、私!!
と開き直った所で…
反対側の手で手繋ぎが再開される。
うぐうう…にこにことして幸せそうなノアさんと反対に私は罪悪感で胸が締め付けられ胃痛もキリキリしてくる。しかも変な緊張で手汗が!
ついに手汗が発動しちまったよおおおおおお!!こんなお嬢様おらんよおおおお!!
なんか私のベトベトした手で流石に気持ち悪くなったろ?と隣をチラ見したが…やはり変態は赤くなりはぁはぁしている。何想像してんだよ!!絶対やらしい事だろ!!
とそこでお昼の時間が迫り、ようやくノアさんは離れてキッチンに昼食を作りに行った。
「ぶへーーーっ!!」
いなくなりようやく寛ぐ私!
「ご主人…ぶへーじゃないにゃ!手!臭いにゃ!洗ってくるにゃ!」
と顔を背ける猫。
「失礼ねミラ!こう見えて美少女の手汗が臭いわけないじゃないの!やめてよ!私のこの薔薇のような体臭を臭いとかやめてよね!!」
「美少女でも臭いもんは臭いにゃ!早く洗うにゃ!」
とお前後で覚えてろよ!めちゃくちゃ撫で回してやるからな!!
と洗面所で手を洗いに行った。
まぁ臭くないけど念入りに高価な石鹸で洗った!!クンクンと手を嗅ぐ。
ふっ!芳しき香り!!
臭いなんてあるわけないのよ!!
昼食が終わるとさっさとノアさんは片付けてまた私の手を握った。1日手を握らせる触らせる権利をやったのだから仕方ない。ていうかさっきから思ってたけどこの美形執事(変態)の方がなんかいい匂いしない!?えっ!?香水?
ちょっと待ってよ!
私の体臭とこいつの匂いどっちがいい匂い!?
………完全に美形変態の勝ちであろう!!
くっっ!!私は臭いのか!!?
負けた気がする!!
もう気にせず本でも読むか…。と片手でめくるがめくりづらい!手繋いでるから!しかし1日手繋ぎ権利がある限りは我慢せねばならない!
そして私はまたやってしまった。
めくりづらいからつい、本のページをビリっと破ってしまった……。
チラリと横を見ると…。にこりとそんな事気にしてませんよみたいな顔がある。
やはりこいつは私が臭かろうが不器用だろうが女として何かが欠落していようがもはやどんと来いスタイルの心の広い変態なんだと思い知る。
すると美形の変態はもう堪えきれないと言う感じで笑い出した。
「ふふふふ!!もっもう、素敵です!お嬢様!!焦ったり私などに緊張したり可愛らしいし、おっ面白い!!とても嬉しいです!お嬢様!!も、もういいですよ!充分です!!手はもう自由でいいですよ…」
と一頻り笑い、パッと手を離した。
うぐうう!!バカにしとんかーい!!
私だって好きで握ってたんじゃないから!仕方なくだから!普段は手汗とかかかないし、落ち着いてるから臭くもないわ!!
ノアさんは蒼い瞳を細め優しく笑むと
「良い休日になりました…お嬢様ありがとうございます…。そうです、手を出してください」
と言われてまた手を差し出すとその手の上にノアさんは自分の手を重ねて呪文を唱えると
そこからフワリと綺麗な魔法のお花が現れた。魔法のお花は七色の光りを纏い次第に当たり一面花畑になっていった。
もちろん魔法だからすぐ消えたりするけど。前はあんなに残酷だと思っていたが…今日のお花はとても綺麗に見えた。
*
部屋で眠る準備をしてベッドに腰掛けて手を見る。
「ねぇミラ…」
丸くなって寝ようとしていたミラに声をかけると
「何にゃ?ご主人…」
「私…ひょっとして…不器用さがヤバイのではないかしら?」
「今更にゃ」
「…なんてことなの…」
今まで私は美しい方という事で、夜会に出ればちやほやされ他の令嬢からは嫉妬され、わっしょいわっしょいでモテる方であった。
それも全て侍女が美しく着飾ってくれたり努力した賜物だ!!じ、侍女によって!!
ブルブルとピカピカの爪とスベスベになった手を見つめ私は頭を抱えた。
このままでは私は女として枯れるのではないか?流石にガサガサの枯れ葉ババアになったらあの変態ももはや私などに見限りす、捨てるかも!?そしてまた若くて可愛いらしい活きの良いピチピチした女を連れてきて監禁するかもしれない!!
今だけ!?奴が私に惚れて隠しときたいのは今だけなのか!!?
私は…再び酷く悩むことになった。
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