第8話

「ここだよな?」


 月渚から逃げるべく家を飛び出して、マップだよりに最寄りの駅から電車に乗って二駅。

 もうあと一駅で新幹線も止まるような繁盛している都会部で、駅を一駅分我慢してくれたら自分の通う高校の最寄り。 

 そんな駅で降り、逃げてきたために約束には早すぎる時間を少し遠いが『平城堂』で本を見て時間を潰してちょうど約束の頃合いになったころ、俺は『CAFE アモレ』とマップの示した店の前に来た。

 


 なんというか目立たないところにある、目立たない店。

 ぱっと見の印象はそれだが、次に来る印象としては


「....高そ」


 決してスタバとかドトールみたいな明るさとかインパクトはないがそれはようやく高校生を名乗れるようになった俺にもわかる。

 

 張りぼてとか、そう見える加工とかではなく間違いなく木に少しばかりのガラスがはめ込まれた感じの扉。

 格子状になっている窓。


 その隙間から見るだけでもいい感じのライティングの施された店内には、高級感が漂っていた。


「ほんとにここか?」


 なんというか心配になる。

 もういちどラコマを開いて繰り広げられた取引メッセージに目を走らせる。


「......ここか」


 数回繰り返されメッセージの中にある、

『10時半に 駅前のアモレで』

 の文。

 間違いはないようだ。


 意を決して、木の取っ手に手をかけて扉を開いた。


 店の店主であろう初老の男性は、まるで俺の様がわかっていたかのように軽く俺を案内していく。

 俺もそれにつれられてついていくと、


「おはよう、樫尾君」


 窓際のボックス席にその女性はいた。

 

 艶のある黒の長い御髪はポニーテールにまとめられ、多分つけまとかではなく長いまつ毛に所謂白磁のようと形容すればいいのか色白な肌。

 下手な芸能人よりは美人なことが間違いない端正な顔立ち。


「(うん、間違いない)」


「おはようございます。 五条先輩」


 五条星那はそこにいた。


 

 

 

 

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