第3話

「あ、季節のフルーツタルトで」

「かしこまりました」

「樫尾君は?」

「あ、えっと......」


 ここは本当に日本の中なのか。

 机の上に置かれた呼び出しベルを軽く鳴らした五条先輩は、メニュー表をさっと見て注文を一つ。

 呼ばれてきた、マスターであろう初老の男性も低い声ですっとそれを受ける。


 俺の間違いでなければ1200円って書いてあるんだけど気のせいじゃないよな。


「俺は抹茶のシファンケーキで」

 860円。

 決して昨日まで中学生だった俺には安くはないが、一番ダメージが少ないセットメニューだった。


「お飲み物は?」

「あ、ブレンドのアイスで」

「かしこまりました。 そちらは?」

「紅茶でお願いします」

「茶葉はどうされますか?」


 五条先輩に何かを感じたのか。

 それとも、もともと紅茶にはこだわっている気質だったのか男性がそう聞いてくるが五条先輩の顏に焦りなどは一切見えない。


「ルフナで」

「わかりました」


「(ルフナ? なにそれポケ〇ン?)」

 紅茶なんて、ストレートとかしかわかんないけど茶葉ってなんだよ。

 

 目の前で繰り広げられた訳の分からないやり取りに思わず意識が持っていかれた。


「どうしたのそんな顔して?」

「い、いや凄いなぁって」

「なにが?」

「...いえ」

 本当に大したことではなかったのか、わけのわからないという風に瞳を見開いてきょとんとした顔をする彼女にバツが悪くなって会話を区切る。


 それなのに俺を終始面白そうに、笑顔を浮かべてみてくるのはなんでだか。


「それで樫尾君」

「はい」

「購入申請は受けてくれる?」

 両手を机の上で組んだ、所謂ゲンドウスタイル。

 ただ本家と違うのは、眼鏡を煌めかせるわけでも顔に濃い影が差しているわけでもなく、お店の落ち着いた照明を受けてかそのキレイな顔立ちがこちらをじっと見ていることで、


「まじすか?」


 俺の口からはそんな言葉が漏れた。



 

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