第一話 

「なぁ、なんかしようぜ」


 そんな突拍子の無いことを言ったのは同じ中学校の友達で、これから同じ高校へと進む友達の横沢一輝よこさわかずきだった。


「なんかってなんだよ?」

「いや、わからん」

「はぁ?」

 どちらかといえば落ち着きのある優等生タイプのこいつにしては全くの無計画っぷりを見せるがその言わんとしていることはわかる。


「まぁ横沢ちゃんの言うようになんかはしたいよな」

「そういってもなんも思い浮かばんだろ?」

 一輝の言葉に賛同するように笑いながらそういって見せるのは同じ高校で同じクラスの立石洋一たていしよういちだ。


「あ、セイコーの時計買うとかどうよ?」

「いやカシオだろ。 樫尾だけに!」

「うぜぇえ」

 入学者説明会からの仲の立石だが、もうすでに俺のここまでの九年間の学校生活でのいじりをモノにしているのだから侮れない。


 ただ一つ言えるなら、


「なんで、中学最終日に男の家なんだろ」

「「それ!」」

 俺の言った言葉に間髪入れずにうなづいて見せるあたり、仲良くやっていけそうだ。


 3月31日。

 今日という日が俺達中学校を卒業した、中学三年生の中学校生活最後の日である。

 中学の仲間の中には、実質高校生みたいなもので彼女とデートに興じる仲間や、卒業旅行という名のお出かけをしている者たちもいるのだが、俺達は虚しく俺の家に集まってこんな会話を繰り広げているのだ。


 まぁだからこそ、こんな突拍子のない言葉が一輝の口から飛び出たのだろうが。


「翔! 今起きたぞ!」

「あ、忘れてたわジャイ子」

「ゴメン、ジャイアン」

「俺もだ豚ゴリラ」

「辛辣かよ」


 突然起き上がって、まるで凱旋でもして来たかのように声高らかと起床を告げたのは、男塚敏おつかとし

 名前の男に恥じないような男で、彼との出会いはまさに生涯忘れないと思う。


 入学者説明会で教室に行き、指定された机についてふと周りを一周眺めた。

 時刻はそこそこ早かったので人はちらほらだったが彼は隣にいた。


 明らかに高1にこれからなるようなガタイではなく三年といわれたって信じてしまいそうなほどにガタイのいい体つき。

 思わずさりげなく教室を出て、間違えて三年の教室じゃないかと思ったほどだ。


 ただせっかく隣だからと話しかければかなり気さくで、オラオラするタイプではなく柔らかい物腰。


 まぁ今日初めて家来た時に、母親が先輩と間違えたのは許してほしいが。


 そんな強烈な男なのだが、昨日が家業の手伝いだったらしくこの瞬間まで床に横たわるオブジェと化していた。


「で、敏はなんかいい案ある?」

「ん? あーーー・・・彼女に聞いてみる?」

「死ね」

「消えろ」

「滅びろ」

「...あ、ごめん」

 そしてこの男、彼女もちである。


 ラインの交換をして三十秒。

 プロフ画面に映るツーショットの写真に映った少女がその真実を俺に告げた。


「樫尾。 敏はダメだ」

「わかったぜ洋一」

「裏切ったな洋一!」

「ふ、裏切ったのは敏だろ」


 洋一と敏は同じ中学だったらしく仲がいいこともあり、今日の集まりが成立した節もあるが、この会話でわかるように洋一は彼女がいない。


 まあ言ってしまえば、リア充比1:3といった感じだ。


 なんとも虚しい気持ちが俺達を覆いだした時、


「翔ぁ! 荷物来たよ」

「あ、了解」

 母親の俺を呼ぶ声が聞こえた。


 今思えば、この荷物がすべてを狂わせたのだ。

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