近くて遠く

 両親が死んだ訳でもない。


 祖父母が死んだ訳でもない。


 なのに彼女はずっと泣いている。


 朝来てから今はもう昼だ。


 遅すぎるが遅れて気付いた。


 あいつが居ない。尻尾を振って抱き付いてきてくれるあいつが。


 だからこいつは石の前からずっと動かないんだ。


 思えば虚無感は最初から俺の側にあった。


 心臓が苦しくなる現実から逃げていたんだ、俺は。


 重く、深く息を吐き出す。


 凄いなと思った。


 こいつは涙が枯れない程苦しいのに逃げていない。


 目を逸らしていないんだ。


 違うなと感じる。


 ずっと一緒に居たと思っていた。


 でもそれは居ただけだった。


 今も隣に座ってはいる。


 少し近づけば肩が触れる距離だ。


 でもこれ以上は近づけない。


 そんな資格は無いだろう。

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