第10話、プリンは如何

「わかりました、前回はごめんなさい。

全員、ティースプーンを持参して座ってください」


「?」


「シュークリームの時は、彼女たちのことをすっかり忘れていて、他に配ってしまいましたから恨まれているんです。

はい、5人分。

みんなで頂きましょう」


「「「ありがとうございます」」」


「甘いです」 「これは、上品な食べ物ですね」 「この繊細な舌触り…」


「まだ、販売前なんですか?」


「ええ、リンカ堂の新商品です」


「おいくらで販売されるのですか?」


「容器代もありますから、銅貨6枚になります。

シュークリームもそうですが、買い占めを防ぐために、一人5個までとしています」


「シュークリームの後発ですから、とりあえずお高くても試しますよね。

シュークリームも美味しかったですけど…あっ」


「お待ちなさい。

シュークリームを食べたんですね」


「すみません、5個までしか買えなかったものですから…」


「そうでしたか。5人いるから私の分はないと…そうですか」


「「「お許しください」」」


「まあ、プリンを食べながらですから、怒りもおさまりますけどね…」


「来週から、月曜にはシュークリーム10個、水曜にはプリンを10個届けさせますから」


「いえ、それでは店の負担が大きくなってしまいます。この中の誰かに取りに行かせますから」


「ああ、そうしてもらえると助かります。

まだまだ、新作を作ってもらわないといけませんので」


「まだ、新作があるのですか?」


「季節にあわせたフルーツと、生クリームを組み合わせればいくらでも作れます」


「フルーツと生クリームですか…」


「販売ベースに乗せる前にお持ちしますから」


「「「ホントですか!」」」


「いや、なんであなた達が喜んでいるんでしょう。試食は私のお役目ですよ」


「「「…」」」


「そんな意地悪をいわないであげましょうよ。私も大勢の意見を聞きたいですから」


「「「!」」」


「まあ、アミさんがそうおっしゃるのなら…」


「「「ありがとうございます」」」


「今日は、夕海亭のマヨソースとゴマドレッシング、新作のニンジンとリンゴのドレッシングをお持ちしました。

サラダと冷静肉も入っていますから、あとでお試しください。

お召し上がりになるまで、冷やしておくといいですよ」


「まさか、夕海亭の新作ですか!」


「ええ、昨日試作して明日からメニューに追加します」


「さて、プリンを食べ終わったところで、着替えていただきましょうか」


「まさか…」


「急仕上げですので、多少不具合があるかもしれません。

そこは手直しさせますので」


「「「例の下着ですか!」」」


「はい。パンツ一枚になっていただきましょう。

市井しせいの縫製工房が、総力をあげて作った品です」


パサッパサッ


「装着したら、このように脇から肉を集めて押し込みます」


「すごい、胸がワンサイズ大きくなりました」


「私から見ても、この谷間が深くなったのがわかります」


「次に、ブラの形にあわせて縫製したブラウスです」


「襟元がおしゃれですね。王族専用の仕立て師では、こんな発想はできないでしょう」


「細身のスカートに、スリット…大胆な切れ込みを入れてみました」


「タイトなスカートは、歩くときに窮屈ですが、これなら…」


「足元には私と同じ編み上げのサンダルを用意しました。少しかかとが高くなっています」


「アミさんのように、お辞儀でよろけないように注意しないと」


「ですが、横のリボンと宝石がオシャレです」


「私の黒歴史は忘れてください。

仕上げに、ルビーのネックレスです」


「細い仕上げですね、大きな宝石や鎖よりも首がすっきりして見えます」


「待ちなさい。姿見を持ってきてください。私には全然見えませんから」


「はい、ただいま」


「素敵ですわ。公式の場では難しいでしょうが、執務着であれば問題ないと思います」


「だから、私にも見せてください!」


「はい、姿見をお持ちしました」


「!これが私ですの…」


「白と黒のシンプルな装いですが、清潔感もあり十分に王族らしさを感じられます」


「なにより楽です。コルセットなしで執務していいなら…

お父様とお母さまは?」


「お二人とも自室におられます」


「アミ、ついてきて。

あなたたちは、ティースプーンとプリンを運んでください」




「お父様、ジェシカです。失礼してよろしいでしょうか」


「ああ、かまわんぞ」


「失礼します」


「お、おま…、その姿は…」


「前回話のあった下着を仕立ててもらって、それにあわせた服も作ってもらいました。

執務中は、これで過ごそうと思いますがいかがでしょう」


「…」


「お父様?」


「いかがも何も、気に入ったのであろう。好きにすればいい。

おお、アミも一緒か、この間のシュークリームは旨かった。礼をいうぞ」


「お気に召していただき、何よりでございます」


「新作を持ってきていただきましたの」


「なに!」


「お母様もお呼びしていますから、一緒にいかがですか」


「それが…」


「プリンといいます。まだ発売前で、本当の試食ですわ」


「失礼します。ジェシカ…えっ」


「お母様、如何でしょうか。アミに仕立ててもらった執務着です」


「アミさんは、初めましてですわね。

この間のシュークリーム美味しかったわ、もうほっぺたが落ちそうになりましたよ」


「光栄に存じます」


「アミが新作を持ってきてくれたそうだ」


「まあ、本当ですの!」


「お母様、その前に私の服装はどうなの?」


「アミさんの装いに近いけど、この間話していた下着に合わせたの。

シンプルだけど、ところどころに工夫があって動きやすそうね。

切れ込みがちょっと大胆すぎる気もするけど、うーん、黒の上着を羽織れば公務でも平気じゃない?」


「そうね、上着があればいけますよね」


「それに、ネックレスも上品でいいわね。首がすっきりして見えるし、私も欲しいくらいよ」


「コルセットがないから、すごく楽なんです」


「コ、コルセットなしなの!でも、胸が強調されて…それが、新作の下着の効果なのね」


「流行間違いなしよ。胸もお腹も楽ちんで、いくらでも食べられそう」


「ア、アミさん、その…」


「後程、サイズを測らせていただいてよろしいですか?」


「え、ええ、お願いするわ」


「それよりも、プリンを喰わせろ!」


「あっ、どうぞお掛けください」


ガチャガチャ


「どうぞ、スプーンでお召し上がりください」


「「…」」


「どうかしら?」


「こ、この滑らかさ…」


「この間のシュークリームは、少し油の感じがありましたけど、これは…」


「このようなものを、市中にて販売するのか…」


「王家御用達でもおかしくないですわ」


「城の料理長にも作らせてやりたいが…」


「簡単ですから、お教えできますよ」


「作り方を教えてもいいのか?」


「ええ、簡単ですから。

販売はリンカ堂に当面は独占させますけど、いずれはどこでも食べられるようにしたいです」


「お前には、独占欲はないのか?」


「みんなが幸せって感じてくれるほうが嬉しいですから」


ジェシカ様は、プリンをもって各局を回り、女子職員に一口ずつおすそ分けだそうです。

私は王妃様のサイズをいただいてから、食堂の料理長に手ほどきです。


サンプルに一個持参し、全員で食べてもらいます。


「ほ、本当にこの作り方を教えてもらえるのか」


「ええ、ですけど、秘密厳守でお願いします。

当面はリンカ堂の独占販売ですから」

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