第11話、必殺!影の処刑人…なんだそれ

「王妃様のブラを承ってうけたまわってまいりました。

すみません、収益に直結しないものばかりで」


「とんでもございません。

目先の利益よりも、信用と実績がものをいう世界ですから、王家で認められたなんて最大の功績ですよ」


「その王妃様が、ジェシカ様の装いなら、上着を着れば公の場でも問題ないだろうとおっしゃってくださいました。」


「まさか!私たちの作ったものを、公式の場で…」


「はい。ですから上着を作らないといけません」


「喜んで作りますが、何かアイデアがありますか?」


「女性らしいラインを出すために、ウエストを絞る程度でいいと思います。

あっ、二本立てでいきましょう。

もう一つは、後ろの裾を燕のしっぽみたいに長くします。

前は一か所でとめて、金の鎖でかけるようにとめます」


「イメージはつかめました。

他には?」


「王妃様もコルセットを苦にされていますから、ジェシカ様と同じように一揃え持参しましょう。

そうですね、髪の色にあわせて濃いめの茶で揃えましょうか」


「わかりました。

期間は?」


「来週の金曜日にお持ちできれば最高です」


「やりましょう。

夢のような話ですが、王妃様と王女様に自分たちの作ったものを着ていただける。

それだけの技術を持っていると証明できるんですから」




「月曜日にシュークリーム10個、水曜日にプリン10個。ジェシカ様の側近がとりにまいりますから、用意していただけますか?」


「そ、それって王家御用達みたいじゃないですか」


「収益にはなりませんが…」


「とんでもない。宣伝効果を考えれば十分元はとれますよ。

いや、他の菓子も連日売り切れる状態で、職人をふやさないといけません。

あの日、アミさんが立ち寄ってくれなければこんな人気が出ることもありませんでしたから、なんでも言ってください」





その日、少し遅くなって家に帰ると弟と妹の姿がなく、一枚の手紙が置かれていた。

内容は、金貨100枚持って指定の場所に来いというものだった。


『どうしよう、金貨100枚なんてないよね…』


『こういう場合、金貨100枚持って行っても全員殺される可能性が高い』


『なんで…』


『顔を見られているからだ』


『じゃあ、どうすれば…』


『もし、誰かに話したら、弟と妹を殺すと書いてある』


『ダメ…、そんなの…許さない…』


『おい、アミ、大丈夫だ、二人で何とかしよう』


『ダメ…』


『アミ!どうした…』


あーっ!と叫んでアミは倒れた。


『アミ!』


「私が…殺す…」


『どうしたアミ』


アミは走り出した。


やむを得ず、俺はアミの体を覆う。


『アミ、しっかりしろ、俺の声が聞こえるか!』


返事はない。


『誰かに見られるとまずい、闇に潜れ』


俺の指示通り、アミは闇に潜った。


指定された空き家はギルドで管理しており、掃除に来たことのある場所だった。


アキトとアリアは倒れていた。意識を失っているようだ。


『闇から出るなよ。闇の中から仕留めるんだ』


アミは指示通り、その場にいた3人を仕込みづえで刺し殺した。


『まだだ、2階に人がいないか確認しろ』


2階にいた二人もアミは躊躇なく刺し殺した。

全部心臓を一突きだ。


『よし、二人を抱いて闇に潜って家まで帰るんだ』


家に入る前に身体強化をかけてあったので、二人を軽々と抱き上げ家に帰る。


二人を横にしてから、アミ自身も意識を失い倒れこんだ。


三人は朝まで目を覚まさなかった。


「あれっ、こんなところで寝たっけ?」


「いてて、変な格好で寝たみたい…」


「昨日、誰かが来て、急に眠くなって…どうしたんだろう」


『アミ、テーブルの上にある紙を燃やせ』


『なんで?』


『いいから、弟たちに見られないように燃やすんだ。急げ』


『う、うん分かった』


アミに夕べの記憶はないようだ。

やばいな、二重人格か錯乱状態だったのか…

唯一の救いは、俺の指示に従った事だが、次も同じようになるとは限らない。

防犯対策をしておかないと…


『アミ、昨日弟たちが帰る前に泥棒が入ったようだ。

金目のものは置いてないから、被害はなかったが、対策できないかアキラさんに相談するんだ』


『分かった』


どうする。様子を見るしかないのか…


その夜から、アミは寝た後で起きるようになった。

暗い空間を凝視し、何か集中しているようだ。


『アミ、どうしたんだ』


「なんでもない」


そして、再び眠りにつく。


ある夜、集中していたアミはカっと目を見開いた。


『どうした』


「悪い奴見つけた。殺しに行く…」


アミはそのまま影に潜り移動していく。


夜盗だった。

数は5人。

家人を縛り上げ、金のありかを聞いている。


アミは影の中から5人を刺し殺し、そのまま帰っていく。


『アミ、どうしたんだ』


「悪い奴、殺すだけ」


『…』


翌日、アミにスキルを確認させた。

スキルに悪意感知が追加され、特技に暗殺が備わっていた。



********************

名前:アミ

職業:商業ギルド職員

LV:11

HP:75

MP:150

スキル:気配察知

     闇制御

     飛行

     悪意感知

装備:道具袋

    布の服

    仕込み杖

魔法:氷魔法 LV.1

    闇魔法 LV.2

    身体強化 LV.2

    クリーン LV.6

特技:杖術

    闇の目

    暗転

    影移動

    念話

    暗殺


********************


『アミ、昨日のことを覚えているか?』


「うん。悪い奴を感じたから…殺した…」


『そうか。お前が気づかなければ、あの家族は殺されていただろう。

よかったな』


「うん」


意識してやっているのか…

結論から言えば、善行なんだろう。

だが、続けさせていいものか判断できない…




「家人は何も見ておらず、ただ、目の前で急に倒れたと言っています」


「ただ、明らかに背中に刺し傷がある。

誰かを庇っているのか、本当に見ていないのか…」


「どちらにしても、家人は無事で夜盗は全滅。

めでたしでいいじゃないですか」


「ああ…」




アミは、週に1度くらいの率で、夜の討伐に出るようになった。

まるでテレビの必殺!〇〇人のようだ。

違うのは、報酬はなく、ボランティアだというだけだ。


時折、刃先を目撃されてしまうことがある。

それでも姿は見られていないので、いつしか影の処刑人と噂されるようになった。


「くそう、また影の処刑人かよ。

いったい、どこのどいつが…」


「待ってくださいよ。

それって、八つ当たりですよ。

俺たちは犯罪が起こらないようにするのが仕事で、影の処刑人を突き止めるっていうのは筋が違いますよ」


「わかってんよ。

だけどな、そいつはどうやって犯行を察知してるんだ。

俺たちにそれがあれば、犯行前に捕まえられるものを…」


「ただ、実際に夜の犯罪が減っているのは確かですよ」


「まあな…悔しいが、そうなっちまったな」

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