第8話、王女さまのブラ

「な、なんだこれは!」


「床や壁が新築同然になり、家具も新品に…」


「か、課長、大変です!」


「どうした?」


「執務室が…キラキラしてます」


「なに?ちょっと失礼します」


うわ!ここもか!


「局長、執務室全体がここと同じになりました!」


「想像以上だな。

城全体で80室ある。いくらで請け負う」


「その前に、年末の大掃除の予算枠はどれくらいで?」


「金貨300枚だ」


「でしたら、外側込みで金貨500枚」


「変更は受けんぞ」


「よし、陛下に直訴する。

謁見の間で実演してくれ」


「結構です」


「あの、アキラさん、陛下って王様…」


「そうよ」


粗相そそうがあると牢屋へ…」


「ないわよ!」




謁見の間かよ、小学校の体育館半分って感じか。

天井は高いし、カーペットの下がどうなるかは未知数だな。


「どうした総務局長。急に大掃除を前倒ししたいなどと。

それに、兵士長、訓練の途中なんだろうが、もう少し汚れを落として来いよ」


「申し訳ございません。緊急招集と聞き、直接まいりました」


「今、市中で噂になっている、アミノクリーンという商業ギルドの新サービスがございます。

これが、優れたものでありましたので、率先して城へも導入したく存じます」


「その程度のこと、お前の判断でやればいいだろう」


「それ以外にも、食事・下着・菓子など革命的な改革が起きつつあり、その中心にこの商業ギルド職員が絡んでおりますので、お見知りおきいただきたく読んでおきました」


ザワザワ あれか? あの娘が?


「お待ちください」


「おお、ジェシカか、どうした」


「新サービスとは、アミノクリーン。夕海亭をきれいにしたもの。食事とはそこで昨日から提供になったサラダ類。

手のものを向かわせましたが入手できませんでしたわ。

その髪型も話題になっていて、ほかにも下着?菓子?聞いていませんわよ、そのような事」


「おそらく、数日のうちに話題になるかと存じます」


「というわけで、私も非常に興味がありますから、同席させていただきます」


「まあいい、好きにしろ」


「では、こちらが商業ギルドのアキラ副ギルド長とアミ嬢でございます」


「うむ、顔を見せてくれ」


「商業ギルドのアキラでございます」


「アミでござ…あっ」


「申し訳ございません。このような場所は初めてで失礼を」


「すみません、かかとの高いサンダルなんて、履いたことないものですから…」


クスクス


「よいよい。

で、目が不自由なのか?」


「はい、目は見えていませんが、最近になって魔法を覚えましたので、周りのことは分かります」


「わかった。続けてくれ」


「では、この謁見の間をきれいにしたいと思います。

ただ、絨毯の裏側がどうなるか…未知数です。

アミ、王様の前だからって緊張しなくていいわ。普段通りやってみて」


「はい、『クリーン!』」

キラキラキラーン♪


「まて、何だこれは…」


「あ、明るくなったのか?」


「壁や床が反射してるから実際に明るくなってるんだ」


「兵士長!洗濯の手間が省けたではないか。

それに、絵画のクスミも消えて、書き上げたばかりのようだ…」


「ちょっと待ってください。ティアラや宝石類が輝いています…。

お父様、彼女を私の側近にしてください。

きっと民の幸福につながるような事業を起こして見せます」


「お待ちください、ジェシカ様。

彼女はおそらくギルドにあってこそ、自由に動けます。

うちのスタッフに引き抜きたいのは本音ですが、それではおそらく自由な発想ができないでしょう」


「では、最小限の希望です。私の相談役として週一回登城させてください」


「副ギルド長、どうだ週一回、城の相談役としてアミ嬢を派遣してくれぬか」


「国王陛下のご要望とあればいなやはございません」


「やった!」


「おまえのではないぞ、城の相談役だ」


「結構ですわ。彼女とのパイプができたんですから文句はありません。

それで、下着とか菓子とはどのようなものなのでしょう」


「菓子は甘いクリームを使ったもので、舌の上でとろけるような感じです。

下着は、胸帯を発展させたものでして、この場ではちょっと…」


「いいわ、次回登城の際には、サンプルを拝見できると嬉しいです」


「承知いたしました。

失礼ですが、別室をお借りして王女様のサイズを確認させて頂きたいのですが」


「ア、アミ、何を言い出すの!」


「縫製組合で、実際に試作品を作らせます。

アキラさんも一緒に測りましょうよ」


「いいわ、こっちへ来て頂戴」


「で、では、局長、後程事務室の方へ」


「わかりました。お待ちしてます」




「このコルセットが苦しいのよね」


グッ


「この乳の下と胸の高さが重要になります」


「乳を包みような縫製がキモね。

確かに、胸のラインがきれいに見えるわね。

コルセットなしでもメリハリがつくから、あとは体のラインを生かした服を作ればいいわね」


「それと、胸元を強調するような、控えめな細い鎖のネックレスを考案中です。

ワンポイントで小さめの宝石をつけて」


「ジャラジャラしたネックレスは不要って事ね。

大賛成だわ。

ほら、副ギルド長も早く脱いで」


「いえ、私は年ですし…」


「ふうん、部下の発案に賛成できないんだ…」


「いえ、脱ぎますよ…」




「それで、城の相談役に就任かよ」


「ええ、私と二人で、月に金貨15枚。

あぁ、毎週城に行くとなると、お洋服代もかさむし…」


「特別手当で、月に金貨3枚上乗せしよう」


「そのお金で新人2人は増員できるわね」


「ああ、4人募集をかけた。

増員しないと窓口が対応できん。

アミはどうした」


「縫製組合に直行したわ。

王女様の下着を最優先で仕上げるって」


「王家には、専用の仕立て屋がいるだろう」


「王族が市中と同じものを着るっていうのも、ジェシカ様の政策よ。

本音としては、王家発信のものを市中で流行らせたいみたい。

だから、町の流行に敏感なの。

そうそう、板バネって知ってる?」


「なんだそりゃあ」


「馬車の車輪に…、車軸に取り付けて、衝撃を柔らかくするんだって」


「アミの発案か」


「そう。具体的な構想はできてるみたい」


「あいつの頭はどうなってるんだ」


「こっちが聞きたいわよ」




「ジェシカ王女様のブラですか!」


「そう。サイズは測ってきたから、最優先でお願いしたいんですけど…」


「当然ですよ。これ以上の広告塔はないですから。

最高の生地を使って、総力をつぎ込みます。

そうそう、金細工の職人を捕まえて、金製のサンプルを作らせました。

宝石はサファイアを使っています」


「ジェシカ様の肌は白いから、映えそうですね。できれば、赤い石のものも作って、差し上げたいのですけど…」


「大至急作らせます。

王族に使ってもらえるなんて聞いたら、職人の爺ちゃん腰を抜かしますよ」


「あと、このブラの形を生かしたブラウスもサンプルで作ってみたらいいと思うんだけど、肩幅は私と同じくらいで、襟元にレースをあしらって…」


「じゃあ、スカートも!」


「ウエストはこの長さで、細身のスカートで片方に大胆な切れ込みを入れるの」


「切れ込みですか」


「そう、パンツのラインギリギリまで切れ込みを入れるの。

ジェシカ様は肌が白いから、横から見える素足が引き立つと思うの」


「やりましょう!

人前では無理かもしれませんが、最先端の事務服ですね。

ああ、そこにアミ様が履いているような編み上げの黒いサンダル…」


「そうね、この外側のひもを少し垂らして、脇に宝石をつければアクセントになると思いませんか」


「サンダル職人に手配します。

もし、王女様に来てもらえたら…想像しただけでワクワクしてきました」

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