第7話、お城なんか、無礼者って牢屋に入れられちゃうんですよね

「なんだ、みんなどこへ行った」


「みんなアミノクリーンの現地確認よ。

おかげで窓口はてんてこ舞い」


「そ、そうか…」


「私も総務局長に呼ばれてるの。午後は出かけるわよ」


「えっ、アキラさんまでいなくなるんですか!

無理ですよ…」


「大丈夫よ、所長がフォローしてくれるから」


「お、おう。

それで、当のアミはどうした」


「縫製組合の会長に連れていかれたわ。

新作の下着ですって」


「夕海亭の行列はなんだ?」


「アミの考えたソースが大人気みたい。

商業ギルドの職員が、特定の店を贔屓ひいきしてるって、組合の幹部がご立腹よ」


「そこはギルド関係ねえだろ」


「本音は、ギルドから圧力をかけて、レシピを共有させろってこと」


「まだ、あいつが来て5日だぞ!」


「3日目に化けてきて、髪を切った整髪店も大盛況よ。

あの独特のカットで、ショートカットの女の子が増えてるわ。

それだけじゃないわ。

そこのお菓子を食べてみて、昨日お菓子のお店に行って試作してきたみたい」


「どれ」


ハグッ


「これは!」


「美味しいでしょ。

薄い生地の中に甘いクリームを詰めたんだって。

明日には大人気間違いなしよ」


「それが全部あいつの頭の中にあったのかよ」


「そう、クリーンを含めて、世に出ていなかっただけ。

整髪組合も飲食組合もアミを相談役に迎えたいって言ってきてるわ」


「ギルドで守ってやらねえとな」




「わざわざ申し訳ございません。

試作品が完成しましたので、ご確認いただけると助かります」


「背中の部分ですが、このカタチだと金属が直接肌にあたります。

寝ている時に、変な寝返りをうって肌を傷つける可能性があります。

小さめの金具を作って、フックで引っ掛けるようにできませんか」


「引っ掛けるんですか」


「ええ、上下に二つのフックをつけて、受けの方は3列くらいにしてやればサイズの調整が可能になります」


「なるほど、ですがそれだと装着に手間取りそうですが…」


「前ではめてから背中に回して、肩ひもを腕に通せばいいんです


「それは、売るときに指導できますね」


「それと、この部分にレースをつけて高級感を出せば貴族にも高値で売れると思います」


「レースですか。確かに貴族用も作っておきたいですね」


「胸は、大きい人や小さい人がいますから、できれば5サイズくらいを既製品として販売し、あとはオーダーメイドで作ってください。

それと、必ずフィッティンゲしてもらい、納得して買っていただくこと。

つけていただければ、絶対に満足します。

胸の形もきれいになりますし、これで強調された胸に男性はくぎ付けになるでしょう」


「すごい!これは画期的です。

今まで、大きい胸の人は劣等感でいっぱいだったんです。

それが、武器になるんですから」


「それと、胸のラインが変わりますから、ぴったり目の服は胸がきつくなります。

服の買い替えもでるでしょうし、シルエットも少し変えていった方がいいと思います。

ブラのラインギリギリにして、この谷間を強調できるようにしてあげると喜ばれると思いますよ」


「アミさん、当面はうちの店で独占販売しますが、たぶん需要に追いつきません。

ロイヤリティーをとって、ほかの縫製組合にも作らせたいのですがいかがでしょう。

アミさんの取り分は、販売価格の1割で」


「どうぞ、ご自由になさってください。そのへんはお任せいたしますから」


「ありがとうございます。

ほかにお気づきのことや、新しいアイデアがございましたら、いつでもお店の方にいらしてください」


「はい。

早速なんですが、胸もとが強調されるようになると、ネックレスが目を引くようになります。

金や銀の細かい鎖や、嫌みでない小さい宝石を組み合わせると上品なおしゃれになりますよ」


「これから、すぐに金細工師を抱え込みます!」



『おじさん、なんでそんなに女性の下着に詳しいのかな…』


『俺の暮らしていた世界では、情報を簡単に得ることができたんだ。

今までに教えたのは、ほんの一部でしかない』


『それは、女性の下着に詳しい説明になっていません』


『例えば…、お前には嫌な話題かもしれないが、男と女が同意のうえでエッチをする』


『子供じゃないんだから、それくらい知っています』


『物語はわかるよな』


『本に書いてあるやつですよね』


『物語を、実際に演じるお芝居というのがあるんだが、それを好きな時に、好きな場面を見られる』


『エッチな場面を見てたんですね…何度も…』


『…見たな。それは、自分がいつか好きな女の子とエッチをするときに、必要な知識だ』


『それ、役に立ったんですか?』


『いや、その前に死んじまったからな…』


『どうてい…ってやつですね』


『うるさい、もう少しだったんだ…』


『可哀そうに、経験済みのお姉さんが慰めてあげますよ。

ほら、胸の感触をあじわってください』


モミモミ


『うっ、だが、やわらかくて気持ちいいぞ…』


『やっぱりヘンタイですね』


『ヘンタイじゃない。男にとって、胸の柔らかさってのはロマンなんだ』


『そうなんですか?』


『だから、胸を強調したり、少し胸元が見えていると男は惹かれる。

あれがヒットして、ほかの男もそうなんだと分かれば俺が普通だとわかるだろう。

ちょっと戻れ、形を変えて見せてやる』


『えっ、これじゃあ、見えすぎですよ。

嫌です。こんなの見せたら私がヘンタイだと思われちゃいます』



「戻りました」


「あっ、やっと帰ってきた。

お城へ行くからついてきて」


「はい。…えっ、お城ですか」


「そう。私一人で打ち合わせに行くつもりだったんだけど、急に連絡が来て本人とも会いたいそうよ」


「お城なんて行ったことありませんし、礼儀とかも知りませんから…

無礼者とかでいきなり牢に入れられちゃうんですよね」


「馬鹿ね、いつの時代よ。大丈夫、私のやることをマネしてればいいから。

さ、行くわよ」


パカッ パカッ ガラ ガラ ガラ


「ば、馬車って、揺れますよね」


「そ、そうね。王都は下が石だから余計に硬い振動よね」


「板バネを使ったり、車輪に柔らかい木を使えばいいんじゃないかって…思います」


「板バネって?」


「二枚の鉄の板で車軸を挟むらしいです」


「それって…、いいわ、帰ったら職人に相談しましょう」




「アミ、馬車の中では会話禁止よ。

舌を噛んだら、商談に影響するからね」


「そ、そうですよね。注意します」


「さて、戦場よ。

髪が少し乱れたわね、服装もよし。

私の方は、変なところはないかしら」


「はい。アキラさんはいつもお奇麗です」


「今のあなたから言われると、嫌味にしか聞こえないわ…」


「えっ?」


「なんでもない。ふう。

失礼します。商業ギルドからまいりました」


「あっ、アキラさん、局長がお待ちかねです」


「おう来たか、入れ」


「失礼いたします」「失礼いたします」


「課長と主任を呼んでくれ」


「いま、まいります」


「失礼いたします」「失礼いたします」


「総務課長のコゴウと主任のショウだ」


「商業ギルドからまいりましたアキラでございます」「アミでございます」


「コゴウです」「ショウです」


「早速だが、アミノクリーンの現物を拝見したい。

この応接は、普段から掃除は徹底してある。ここに使って変化はあるのか?」


「はい。術者であるアミ本人を連れてまいりました。

アミ、強めにやってみて」


「はい、『クリーン!』」

キラキラキラーン♪

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