第6話、女は化けるっていうが…

「アミノクリーンだと…」 「ネーミングセンスがねえな」


「名づけは所長です。

文句があるなら、今のうちですよ」


「「こほん」」


「ないようですね。

みなさんご存じの、はす向かいの食堂『夕海亭』ですが、厨房を含めて新築のようになりました」


「まて、あそこの厨房って、油とススまみれで…」


「アミノクリーン一発です」


「まさか…」 「それって、どこまで効果あるんだ!」


「言葉で言われても信用できないわ。

私の家で実演してみせて!」


「却下よ、サヤカ。

効果の範囲は、こちらで設定すればいいの。この会議室相当で仮定し、汚れのレベルでABCの3段階に分ける。

Aがどうにもならないようなひどい汚れで、Bが夕海亭の厨房相当、Cが普通の状態。

さあ、価格を設定してください。サヤカ、あなたならいくら出す?」


「金貨2枚…いや、ここまできれいになるなら3枚ね」


「住宅と事業用は分けた方がいいだろう。事業用でBレベルなら金貨5枚が妥当だと思うな」


「例えば来客の予定があって、普段は掃除してるけど念入りにって場合、金貨1枚くらい出すよな」


「住宅用はAから順に金貨5枚、3枚、1枚。

事業用は金貨10枚、5枚、3枚ってとこだな」


「アミ、夕海亭はどうなってるの」


「月一回のお掃除で、弟と妹の面倒を見てもらうことになっています。あとは、食事代で」


「アミ個人の約束だ。勤務外のことだしギルドで関与はできんよ」


「いい広告塔でもありますからね」


「標準の価格設定はそれでいこう。

あとは部門の責任者の判断に任せるが、現地には必ず責任者が同行し、具体的な指示は責任者がすること」


「普段の付き合いによっては、値引きも可能って事かしら」


「そうだ」


「アミちゃんの取り分は?」


「給料制だ、お前らと同額にしてある」


「それでも、夕海亭2回でギルドは元がとれる」


「だが、トラブルはギルドで引き受けるし、交渉や契約はギルド対応だ。

どうだアミ、この条件でいいか」


「はい、お役に立ててうれしいです」


「現場の作業がある日は、この間の冒険者の服装でかまわないぞ」


「はい」


「城からも要請がありそうだけど、どうしますか?」


「外装込みで金貨500枚ってところだな。

契約が多ければ、臨時ボ-ナスも検討する」


「「よっしゃー!」」




『いい傾向だ。クリーンならお前ひとりでも可能だし、もし俺が消えてもギルドの給料で生活していけるな』


『えっ、おじさん、いなくなっちゃうんですか…』


『もしもの話だ』


『そうですよね…、おじさんが現れて急に変わってきたけど、私自身は何も変わっていないんですから…』


『そんなことはないさ、前向きに考えられるようになってきたじゃないか』


『それは、見えているからで…』


『なら、見えなくても同じようにできるように練習すればいい。それに、スキルや特技を使いこなせば今と同じようにできるんじゃないか。

闇の目や気配察知を磨けば大丈夫だよ』


『うん、頑張る』




「わ、私の髪ってこんなにボサボサだったの…」


「んで、どう切るんだ」


『あごが隠れるくらいに切りそろえて、内側を思い切り短くしてもらえ。

前髪は眉が出るくらいでいい』


「えっと、、顎が隠れるくらいに切って、内側を思い切り短くしてください。

前髪は眉が出るくらいでいいです」


「切りそろえるって、おかっぱじゃない。それで内側を短くね…、変わった注文だけど、ご希望通りにしますよ」


チョキチョキ…


「ほお、内側を短くしたから、少し内側にカールするんだ。

きれいな栗色だが、少し重たいか。少しボリュームを減らして…うん、いい感じだ」


「こ、これが私ですか」


「少し油をつけてツヤをだしたからな。うん、我ながらいい仕上がりだ」


「ありがとうございます。これでギルドに行っても、所長さんに怒られないですみます」


「ギルド?冒険者のかい」


「いえ、商業ギルドです」


「へえ、切った髪が中に残ってるから、今日はよく洗ってな」


「大丈夫です『クリーン!』」

キラキラキラーン♪


「あっ、広げすぎた…」


「こ、これって夕海亭と同じ…」


「すみません、お店までやっちゃいました」


「い、いや、店が新装開店になっちまった。

鏡なんかキラキラしてるじゃねえか。

なあ、月に一度は髪の手入れに来い。

とびっきりの油を使ってやるから」


「弟と妹も連れてきていいですか」


「ああ、大歓迎だ!」




「その髪型と髪色なら、薄めのブラウスがいいわね。

白と淡いピンク、肌が白いから黒のノースリーブも似合いそう。

スカートもタイトな黒と茶、ミニもいいわね…、あらその胸帯…変わってるわね。

えっ、自分で作ったの。胸のラインが強調されて女性らしい感じが出てるわ。

肩ひもで、下がらないようにできてるのね…背中の部分と肩ひもを調整できるようにすれば…!

ねえ、うちで作らせて、絶対に流行るわ!」



「ほう、白のブラウスに茶のタイトスカート。

これなら、白と茶の編み上げのサンダルだな。

かかとが少し高いものがいいだろう。

革製も素材の色が生きるし、気分で使い分ければいいさ」




『えっ、お酢と卵と植物油?

そんなもの買ってどうするの?』


『野菜を食べるときのソースを作るんだ。

異世界物の定番だよ。

まあ、胸を堪能したご褒美だな』


『胸は意外と楽だからいいけど…』




「いらっしゃい。あらアミちゃん、食事?」


「いえ、野菜用のソースを作ってもらいたくて」


「いいわよ、どんなの」


「マヨソースっていうんですけど、私も聞いただけで…」


「材料は?」


「卵の黄身、お酢、植物油、お塩とマスタード少々です。

材料は一通り買ってきました」


「あら、全部あるのに。

どうやって作ればいいの?」


「まず、油以外をよく混ぜます」


「水魔法があるから簡単よ。

次は?」


「かき混ぜながら植物油を少しずつ混ざて行きます」


「ふんふん、こんな感じかな…

すこし白っぽくなってドロッとしてきたわね」


「あっ、それで完成です。

キュウリやニンジンをスティック状にして、それをつけて食べます」


「どれどれ…、シャクッ…!

なにこれ!」


「なんだ?」


「こ、これ食べてみてよ」


「キュウリか、シャクッ!………なんじゃこりゃ!」


「マヨソースです。私もシャクッ…、美味しい!」


「だ、だれが考えたんだ」


「もう、死んじゃった人に教えてもらったんです」


「うちで使わせてもらっていいか?」


「いいですよ」


「ねえ、ほかにはないの?」


「マヨソースがあれば、ゴマのドレッシングが作れます」


「材料は?」


「マヨソースとすりごま、ゴマ油、漁醤、お酢と砂糖を混ぜるだけです」


「ちょ、ちょっと作ってみる」


ゴリゴリゴリ

シャカシャカシャカ


「ウミャー!

おい、これをつけて食ってみろ」


「あっ、これもいける」


「豚肉を薄切りにして、お湯にくぐらせてから冷やして、野菜と一緒につけて食べると美味しいそうです」


「ちょっと待ってろ、作ってみる」


「あっ、私氷魔法使えますから、冷やします」


ダダダッ


「できたぞ」


「じゃあ、かけるわね」


トロッ


「し、試食だ…、おお、いけるぞこれも」


「これも出して平気?」


「もちろんです」


「この二つは、野菜だけでなく肉にも合う。

この街の胃袋をつかんでやるぞ!」

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