第5話、アミノクリーン なんだそれ
「じゃあ、次です。
クリーンは人前で使わせますが、極秘の能力があります」
「なんだ」
「その道具袋が、ありえない収納力を持っています」
「伸びるのか」
「プッ、でもいい線行ってます」
「アミ、出して」
「はい」
床の上に1m四方の木箱を取り出します。
ドン!
「!」
「所長の驚いた顔を見られて満足しましたわ。
しまって」
「はい『収納!』」
「まさか…」
「収納力は馬車3台分くらいみたいです。
重さは無効になって、腕にぶら下げてきたのを見ましたよね」
「ああ…」
「彼女しか使えないみたいです」
「見せてもらっていいか」
「はい。でも私が触ってないとダメですから」
「ああ、中は普通の道具袋だよな、さっきの木箱はどこへ行った」
「私にもわかりません」
「極秘なんだな。俺とアキラだけか」
「そうです」
「もう一人、運輸部門の責任者コンドを追加してくれないか。
月1回以内で手を貸してくれるなら、金貨10枚だ」
「信用できる人ならば…」
「すごいわね。いきなり私と同じお給料だなんて」
「お前も、特技を見せてみろ」
「あらん、ベッドの中でならお見せできるんですけど」
「仕事で使えるやつだ」
「そんなのがあったら、こんなところに10年もいません」
「それもそうだな。
アミ、明日から朝と夜は出勤してくれ。
朝は用事があるかどうかの確認で、夜は事務所の掃除だけでいい。
当直が二人いるだけだから何時でもいいぞ。
その後は、文字の練習でも髪を切るでも好きにしていい。
明日の分から給料を出してやる」
「いいんですか!助かります」
商人ギルドは朝が早い。
夜中に到着した旅商人の申請を受けたり、出発する商人がいるからだ。
その代わり夜は17時で店じまいとなる。
それでも、22時までは緊急対応で開けてある。
だから、17時から22時の間に掃除をすればいい。
「さてと、荷物を片付けたから、何か食べに行ってそれからお買い物よ」
「えっ、外でご飯なんて食べられるのか?」
「串焼き?」
「それもいいけど、ちゃんとした食堂で食べてみようよ」
「食堂?」
「そう。お姉ちゃんも入ったことはないんだけど、美味しそうな匂いがしてるの」
「それ知ってる。家が食べられるのかと思って、なめてみたけど苦かった…」
『お前たちの話を聞いてると、涙が出てくるな…』
「そういうのやめようね。これからはお小遣いをあげるから、二人も自分でお菓子をかったりできるんだよ。
あっ、近いからここに入ってみようか」
「か、勝手に入って怒られない?」
「大丈夫。ほら、美味しそうな動物の絵が書いてあるでしょ」
『違う!ここはペットショップだ』
『でも、美味しそうな匂いが…』
『多分、自分たちの食費を作っているんだろう。
食堂は3件隣だ』
「…、ここは生き物を売ってるんだって。
食べられないことはないけど、手間がかかるから、あっちにしましょうか」
『違ーう!』
ガラガラ
「らっしゃい!」 「いらっしゃいませ」
「あ、あの、ごはんを食べさせてもらえませんか」
「えっと、こういうお店は、初めて?」
「は、はい。ごめんなさい突然来てしまって」
「おう、とっとと座って注文してくれ」
「あんたは黙って!あっ、床に座らなくていいから。
テーブルに座って…
ごめん、言い方が悪かった、テーブルのところにある椅子に座って。
いや、バラバラに座るんじゃなくて…、あんたはここ、おチビちゃん達はこことここに座っとくれ」
「す、すみません…」
「で、何を食べたいんだ?」
「パン」 「ぎゅうにゅう」
「うーん、どうしようかね…。
いや、あるよ、パンも牛乳も。
でも、できれば料理を注文してくれると嬉しいんだけど…」
『見てらんねえな、おすすめを聞いてみろ』
「おすすめって、ありますか?」
「そうだねえ、今日は山鳥のいいのか入ったから、たれ焼きがいいかね。
うーん、どうしようか…、銅貨3枚出せるかい?」
「はい、お金ならあります。
そこの商業ギルドで雇って頂けましたので」
「えっ、ギルドの職員なのかい。
分かった。サービスしちゃうよ。
あんた、銅貨3枚でお任せ」
「おう」
「あの、量は食べられないので少な目でお願いします」
「あいよ」
「あんた、骨や皮は外してやんな」
「おう、子供に食べやすいようにだな。任せろ!」
「ちょっと聞くけど、目は大丈夫なのかい」
「ええ、魔法である程度は分かりますので」
「「おいしい」」 「うめー!」
ガチャガチャ
「アキト、こぼさないように食べなさい」
「だって、フォークやスプーンなんて、めったに使わないから…」
「いいよいいよ、子供ってそういうものだからさ」
「もう、床にまでこぼしてるじゃない『クリーン!』」
キラキラキラーン♪
「えっ?」
「な、なんだこりゃ!
ど、どうしたってんだ」
「い、今の…魔法」
「あっ、ごめんなさい…、魔法はいけなかったですか…」
「い、いや…、店中がピカピカって…」
「こびりついてた油汚れが…。
鍋も新品みてえだ…」
「これ、あんたの魔法なのかい?」
「ええ、そういえば所長さんも驚いて…」
「名前は?」
「アミです」
「商業ギルドで働いてんだよね、家は近いのかい」
「ええ、ギルドの裏に住みます」
「うーん、よかったらさ、月に一度でもいいから食べにおいでよ。
お代はいらない。今の魔法できれいにしてくれればいいからさ。
昼間、あんたが働いてる間、おチビちゃん達は二人だけなんだろ。
おなかが空いたら、いつ来てもいいからさ」
「えっ、いつきてもいいのか!」
「ああ、子供の食べるぶんなんか、たかが知れてるさ。
好きなものってわけにもいかないけど、私らの食事を少し多めに作るだけだ」
「助かります。お金は、言っていただければ払いますから…」
「いらないって、月一回きれいにしてくれれば十分だよ」
ガラガラ
「いらっしゃい」
「うおっ、どうしたんだよ。新築みてえにピカピカじゃねえか!」
「気持ちいいだろ。これなら彼女を連れてきても平気だよ」
「いねえけどよ。そうだな、職場のお姉ちゃん誘ってくっかな」
「なんにする」
「焼き魚とエール」
「あいよ」
「姉ちゃん、ホントにあそこへご飯食べに行っていいのか?」
「うん、でもお店の空いている時にするんだよ」
「サラダが美味しかった。トマトって初めて食べたけど、おいしい」
「ジャガイモを茹でたのもおいしかったなぁ」
「あっ、俺食おうと思ったのに、姉ちゃん全部食っちゃったし」
「フォークとスプーンの使い方も練習しないとね」
「うん」「…」
「さあ、洋服と下着と靴も買おうね」
「俺の靴なんか、指が3本も出てる」
「それはサンダルっていうんだよ」
「俺の知ってるサンダルは、指が全部出てるぞ。両方とも」
「あと、二人も一緒に字の練習しないとね」
「うん、字覚えたい」
「そういえば道具袋持ってないね」
「えへへ、これだよ」
「あっ、腹巻になってる」
『俺としては、ブラ…、いや胸帯を主張する』
『はいはい、今度ね』
「こんにちわ。掃除に来ました」
「アミ、あなた、はす向かいの食堂でクリーン使った?いえ、ネタはあがってるわ。使ったわよね」
「はい。喜んでもらえました」
「問い合わせが来てるわ。食堂から数件。その関係で臨時会議よ、ちょっと着て頂戴。
はい、各部門の責任者は会議室に集合。
おチビちゃん達は応接室で待っててね」
「今日から採用になりますアミです。
ポジションは私の直属で、受付の予定だったんだけど、状況が変わりました。
増員です。ちょっと特殊な魔法を使いますので、まずは実際に見ていただきましょう。
アミ、この部屋をきれいにして」
「はい『クリーン!』」
キラキラキラーン♪
「なっ、なんだこれは」 「黒板まできれいに…」 「床や天井のホコリが…」
「はい、これが新商品アミノクリーンです」
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