第4話、商業ギルドにて

「部屋を借りたいんですけど、兄弟3人で住みたいんです」


商業ギルドへはアミの姿で行かせる。

弟と妹も一緒に住む家を探すのだから当然だ。


「失礼ですが身分証はお持ちですか?」


「いえ、この街に来たばかりで…」


「お仕事は」


「これから探そうと思っています」


「目がお悪いようですが…」


「魔法で、ある程度はわかります」


「それって、字の読み書きはできるんですか?」


「…読むのは大丈夫です。書くのはやったことないので練習しないと…」


「計算はできますか?」


「えっ、で、できるそうです…」


「じゃあ、これを計算してみてください」


カウンター嬢は紙に数字を書き出した。


10+25=


『35だ』


「35です」


「これを2倍して」


「70です」


「じゃあ、それを10で割って」


「7です」


「7×11は」


「77です」


「金貨3枚と銀貨50枚と銅貨129枚だといくらになりますか?」


「金貨9枚と、…銀貨2枚、…銅貨が9枚です」


「ふうん、うちで働く気ある?」


「えっ…」


「子供ができちゃって、辞める子がいるのよ。

タイミングはよかったわね。

これだけ計算ができれば、優秀よ。

その気があるなら上司に推薦してあげるけど」


「書くのは練習します。お願いします」


「じゃあ、こっちに来て、所長と面接よ」


トントン 「失礼します」


「なんだ?」


「マリーの後釜を見つけましたわ」


「うん?目を閉じているが…見えないのか」


「魔法で見ているそうです。

計算はでした」


「読み書きはできるのか?」


「読めるんですが、書くのはこれから練習するそうです」


「いつから来られる」


お姉さんが私のほうをみます。


「えっ、引っ越ししてからですから、一週間いただければ…あっ、荷物はないので、弟と妹を連れてくるだけです。

3日あれば…」


「住むところは?」


「探しているようなので、裏がいいんじゃないかと」


「年齢は」


「幼く見えますが18だそうです」


「それなら、10日後までに字を書けるように練習しろ。

出勤はそれからでいい。

給料は、半年は見習いだ。月に金貨1枚と銀貨5枚。

採用になったら、金貨3枚だ」


「えっ、そんなに頂けるんですか!」


「それから、髪を切ってこい。

窓口は印象が大事だ。

着るものも、そんな冒険者のような恰好じゃだめだ。

アキラのような女らしい服装にしろ」


「わ、わかりました」


「アキラ、支度金を出してやれ」


「はい」


ギルドで身分証を発行してもらい、金貨2枚の支度金をいただきました。


洋服屋さんの場所と整髪店を教えてもらい、裏に連れていかれます。


「裏といっても、同じ建物よ。出入り口が違うから、長屋みたいな感じね。

3室あって、主に旅の商人に短期貸し出ししてるの。でも、ほとんどが宿屋に泊まるからあまり借り手はいないのよ。

今は1室だけ貸し出し中。それでも、空き部屋は週に一度は私たちが掃除しなくっちゃいけないし、一部屋でも減ってくれれば職員も助かるの。

月に金貨1枚なんだけど、職員特典で銀貨5枚にできるわ。2部屋しかないけど、馬車を停めるスペースもあるし、倉庫付きよどうかしら?」


「こ、こんなちゃんとしたところに住めるんですか…、夢みたいです…うっ」


「泣くな~!」



急いで家に帰って、荷物をまとめます。

明日の朝出発する定期馬車を予約し、食料を買い込みます。

荷物は、収納に入れられるので楽ちんです。

翌日、私たちは馬車に揺られていました。


「お姉ちゃん、ホントに王都に行くの?」


「そうよ、商業ギルドで働けることになったの」


正面に座ったおじさんが話しかけてきました。

上品そうな身なりですが、目は笑っていません。


「ほう、失礼な言い方ですが、目がお悪いようですが、よく商業ギルドで雇ってもらえましたね」


「ええ、魔法である程度は分かるようになりましたので」


「引っ越しにしては、荷物がないようですが、別便で送られたのかな?」


「…、向こうで全部揃えますから、処分してきました」


「いやあ、私も王都で商いをしておりますので、これからお世話になりそうだ。よろしくお願いしますよ」


「そうだったんですか。こちらこそよろしくお願いいたします」




「すっげー、人がいっぱいいる!」


「お兄ちゃん、恥ずかしいから大声出さないで…」


「そうよ、アキトもアリアも、これからはここに住むんだからね。

さあ、家にいくわよ。」



最初に商業ギルドによります。


「アキラさん、弟と妹を連れてきました。

今日から住みますので、よろしくお願いします」


「あら、来たのね。

じゃあ、出勤までに字の特訓よ。頑張って…

でも、荷物は?」


「あの、…内緒にしてくださいね」


「何を?」


「実は、収納があるんです」


「収納?」


「はい。この道具袋が特殊な袋で、なんでも入っちゃうんです」


「えっ?それ…」


「はい」


「ちょっと待って、これから部屋に行くのよね」


「はい」


「どんな感じなのか、見せてもらっていいかな」


『信頼できそうな人間には、知っておいてもらったほうがいいだろう』


「はい、大丈夫です」


部屋のカギを開けて中に入ります。


「ちょっと待ってくださいね『クリーン!』」


「えっ?」


「これくらいの広さなら私でもできますから」


「えっ、き、きれいになってる?」


「隣の部屋もやっちゃいますから」


「ま、待って…、クリーンって、自分の体とか、着ている服には使うけど、普通は部屋をきれいにするなんて…聞いたことないわ…」


「えっ、そうなんですか?」


『俺は知らないぞ…』


「でも、姉ちゃんは毎日やってた」


「わかった。所長に相談してみるけど、この魔法だけで本採用の価値はありそうね。

汚れがひどくてもできる?」


「今までは、見えていなかったんです。

だから、やってみないと…」


「わかった。で、収納って…」


「じゃあ、テーブルから出します」


ドン


「エッ?

えっ、なんで…、どこから…」


「ボロで恥ずかしいんですけど、衣類です」


ドサッ


「食器です」


ガチャッ ガチャッ ガチャッ ガチャッ


「パンです」


カサッ


「ミルクです」


ドン


「こ、これって、どれくらい入るの?」


『まだ、限界まで試したことはないが、この3倍くらいかな』


「試してないんですけど、この3倍くらいは…」


「重たくならないの?」


「普通に持てますから…」


「その袋があれば、馬車なんて要らないじゃない。

とんでもない重量物だって運べるわ」


「公になっちゃうと、トラブルの元ですから、内緒でお願いします」


「そうね。でも所長には言っておいた方がいいわね。

秘密にするから、ギルドが困ったときには力を貸してくれると助かる」


「じゃあ、二人だけで秘密にしてくださいね」




「いったい、どうしたってんだよ。

こんな空き部屋に連れてきて」


「ええ、一週間ぶりですから、多少ホコリとか蜘蛛の巣とか虫の死骸とかありますよね。

見えますよね、所長」


「ああ、何がいいたい。これを掃除するんだから人を増やせとかいうつもりか」


「アミ、全部屋を一気にできる?」


「やってみます『クリーン!』」


「なにっ!どういう事だ!」


「今までは、世間の標準的なクリーンを知らないでいたらしいんですが、掃除専門の仕事としても食べていけるんじゃないでしょうか」


「どれくらいの汚れまで対応できる?馬車とか立体的なものでもできるのか?」


「それは、これから検証ですね。

本採用でいいですよね」


「当たり前だろうが!他所にとられる前に確保だ。

今のところ、給料は金貨5枚だ。汚れの程度や状況で増額する」

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