告白
栞が明里に見せたのは、草原に立つ女性の絵だった。
拙さを感じるものではあったが、明里が言葉を失ったのは、その色使いだった。
草原の緑、黄緑。空の青に太陽の光を表した白と黄色が混じり、画面中央に立つ女性を明るく照らしている。
「明里は私の光だから。輝いているイメージで、描いたの。」
栞が、明里を抱き締めながら恥ずかしそうに囁く。
明里がずっと望んでいたことのはずだった。栞の世界の中に、輝いた自分が存在すること。
なのに。
何にも怯えず、一人で光を浴びて立つ女性。
絵の中にあるのは、明里がなりたかった、なれなかった自分の姿だった。
明里は、ようやく話せるようになっても、泣きすぎて声が枯れていた。
涙と鼻水で化粧が崩れた顔も、栞は愛しいと思った。
「これは、私じゃない。違うの、本当は。」
明里が絞り出すように言葉を発した。
「私にとって、栞の方こそ光そのものだった。…これからも。」
明里は、栞から身体を話すと、徐に服を脱ぎ出した。
栞は驚いて止めようとしたが、明里は栞の手を握って強い口調で言った。
「栞に、見てほしいの。」
明里が初めて見せる深刻な表情に、栞は何も言えなくなってしまった。
「これでも、まだ、この絵の中にいるのは私だと言える?」
一糸纏わぬ姿になった明里は、俯いて震える声を出した。
彼女の身体は、傷だらけだった。火傷のような痕もある。どれも、年数が経っているもののようだった。
特に下着で隠れる部分はひどい。
似た経験のある栞は、それが何を物語るのかを悟った。
改めて、明里をしっかりと抱き締める。優しく、明里に聞こえるように、耳元ではっきりと言う。
「そうだよ。」
自分も服を脱いだ。栞の身体にもまた、消えない傷痕があった。明里の手を取って、自分の胸元のケロイド痕を触らせる。
「そうだよ。」
彼女の心に届くように祈りながら、もう一度同じ言葉を呟いた。
頬を伝って落ちた水滴が、素肌を冷たく濡らす。
これまで幾度も会話を重ねてきた二人は、一言も言葉を紡がずに溶け合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます