過去、再会②
ショートカットなの変わってないね。高川さんだってすぐにわかった。
バイトしてた時は、ほとんど話したことなかったよね。高川さんのこと、無口で大人しい娘だな、って思ってたな。
あの時、他のスタッフとバイトの休憩室で映画の話になったんだったかな。
高川さんが反応したのが見えて。
それまではちょっと離れた席でスマホの画面を見てたのに、私が「■■■」ってタイトルを言った時に顔を上げてこっちを見たの。他の人達はそんな作品知らないって言ってて。
一瞬のことで、またスマホの方を見たから、声かけられなかった。
すぐに休憩時間も終わっちゃって。
その日から、高川さんのことが何となく気になるようになったんだ。
私が話してた映画、古くてマイナーだったけど、主人公が幼少期のトラウマと向き合う様子がすごく良くて、私は好きだったんだ。
今でこそヒットを連発する監督になってるけど、昔の作品はあまり知られてなくて。
周りの友達に勧めたことは何度もあったけど、「■■■」を元から知ってる人には会ったことがなかったの。
だから。
「だから、すごく嬉しかったの。高川さんは覚えてないと思うけど。ずっと、お話してみたかったんだ。どんなものが好きなんだろうって。」
明るいカフェの店内で、私の向かいに座る久田先輩がニコニコと見つめてくる。
先程声をかけられてから、ずっと向こうのペースだ。あれよあれよという間に、差し向かいでお茶をしている。
話を聞きながら、その吸い込まれそうな大きな瞳や、輝くような白い肌をうっとりと見つめていた。カップを持つ指も綺麗だ。爪は明るいピンク色をしてキラキラしている。
艶やかな唇から、私のことが語られている。ささやかとはいえ、好意的に見られていたことが、夢のように嬉しかった。
幻滅されたくない怖さと、もっと自分を知ってほしいという熱情が自分の中で闘い、その結果、詰まりながら返事を返していった。
当時の出来事について覚えていたこと。自分の好きな作品名が、全く共通点の無さそうな先輩の口から出て驚いたこと。話題に加わりたかったが、人と話すのが苦手で何と話しかければ良いかわからなかったこと。
だから、時を経て今、こうして同じ思いだったことがわかって、嬉しい気持ちだということ。
先輩は、拙い私の話をうんうんと楽しそうに聞いてくれた。
そして、それから、好きな映画だけではなくお互いについて、時間の許す限り語り合った。
元々聞き上手な先輩に促されて、私は自分でも驚くほど饒舌に喋るようになっていった。
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