過去、再会①

高川たかがわさん?」

 声をかけられたのは、休日に映画館のポスターをぼんやり眺めていた時だった。

 聞き覚えのある声に振り返ると、ワンピース姿の細身の女性が立っていた。

 久田明里ひさたあかり。彼女は、大学時代のバイト先の先輩だった。美人で穏やかで優しく、人当たりの良い人物として、周りから慕われていた。

 もっとも、いつも周りに人がいた先輩と孤立していた私では接点があまりなく、当時は挨拶と業務連絡以外で言葉を交わしたことはほとんどなかったが。

 バイトを辞めて大学も卒業して数年経つというのに、まだ覚えられていてしかも声をかけられたことに、正直びっくりした。


「久しぶりだね。私のこと、覚えてる?」

 輝きを湛えた瞳が真っ直ぐにこちらを見つめている。

 はっきりと覚えている。いつも遠くから見ていた。ゆるくウェーブのかかった柔らかそうな髪。当時より少し長くなっている。

 面倒見が良く、いつもにこやかで、彼女がいるとその場が明るくなるようだった。今も。

「久田先輩。お久しぶりです、覚えてます。あの、先輩こそ…私のことよく覚えてましたね。」

 顔を正面から見返すことができずに、視線を落として答える。彼女はターコイズブルーのパンプスを履いていた。きらきらと光を反射して、眩しい。

 履き潰したぼろぼろのスニーカーの自分が、少し恥ずかしかった。

「覚えてるよ!本当はずっと気になっててお話してみたかったんだけどね、迷ってる間に高川さん辞めちゃって、心残りだったの。会えて嬉しい!」

「え?」

 思わず顔を上げてしまい、視線がぶつかる。どきりとして慌てて目を逸らす。何故、私などに興味を?

 顔が熱い。何を言えば良いのかわからない。

 話したいこと、聞いてみたいことがあったはずなのに。

 しどろもどろになっている私に、彼女は尚も続けた。

「ね、せっかくだし、良かったらお茶でもどうかな?」

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