電車の後方車両に乗るということ

 やけに寒く、案外暗い。スマホの画面をつけることすら気が引ける暗さ。夜とはいえ、冬とはいえ、これほど寒くて暗かっただろうか。手袋などあればよかったと、乾いた両手を擦り合わせた。

 不意に音が聞こえてきた。遠くの踏切の音だった。向こうに点滅する、黄みがかった人工的な光。一定続いたかと思えば、踏切の音が鳴り止んで、はじめて唸りのような、地響きのような微かな震えが音を伴ってやってくる。それは案外長く続いた。期待感から目を凝らした。暗闇の中から続くガタンゴトンと鳴り止まない音は、徐々にゆっくりになりながら近づいてくる。強い灯りに包まれたのはあっという間のことだった。黄色と白の眩しい光。人の輪郭が黄金になる。そして頬のすぐ横をすり抜けて、どこまでも続くかと思えるような長い長い身体が流れていった。明るい窓がいくつも私を追い抜いていく。だんだん速度を落としながら、電車は前進を続けていた。最後の最後に弾みをつけてきりりと停車。機械的に開く扉。高揚感を感じながら、生暖かい空気が漏れ出す電車に乗った。

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