咀嚼

 一匹のカットトマトが皿から滑り落ちた。トマトは死にたくないと言ったが、死神は無言でトマトを拾い上げ、埃を睨んで、水で洗って口を開いた。トマトは白い鎌に裂かれ、死神の喉に落ちた。

 死んだカットトマトには三人の兄弟がいたが、うち二人は彼が皿から落ちる前に別の死神の喉に落ちていた。最後に残されたカットトマトは兄弟が死神の大きな口に吸い込まれていくのも、片割れが皿から落ちるのも見ていた。彼は自分たちが死ぬために育てられたことも、また、自分の兄弟が死ぬということも、知識として知っていた。だが、死神の口が開いた時、彼は、あ、と小さな悲鳴をこぼした。兄弟の滑らかな肌が、みずみずしい肉が、同じ赤色の死神の唇を滑っていく。まるで死ぬために生まれたかのように、一連の動作はスムーズで、墓も建てられないささやかな死は目を離せない一瞬だった。自分たちは死ぬために生まれた。まな板の上で、死神の口の大きさに切られた。死ぬために生まれたのだと、彼はようやく兄弟の死をもって本能的に理解した。それは、当然、死を前にして逃げられない一匹にとっては、知らなければよかったことだ。

 皿の上、一人の死神を見上げる。死神は二本の鎌を器用に使って、動物の肉の塊を裂いた。かすかな肉汁、あぶらぎったそれを好むらしい、悪食の口が開く。ずらりと並んだ歯、捕食者だった肉を、真の捕食者が喰らう。閉じた口の上から見下した視線が告げていた。次はお前だ、と。

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