第6話:誤解

 私の目の前で、ライラが盛大な溜息をつきました。

 嫌味を言われるのは覚悟していましたが、溜息は意外でした。

 私は何かとんでもない事をやってしまっているのでしょうか?

 それこそ、恨まれ憎まれるのではなく、呆れられるほどの間違いや失態を犯してしまっていて、しかもそれに気が付いていないのでしょうか?


「本当に色々と誤解があるようなので、この際はっきりと申し上げさせていただきますが、旦那様の王家に対する忠誠心は、私達家臣が呆れるほどのものがございます。

 その気になれば独立して大帝国を築くこともできるのに、王家を超える領地を持つのは不忠だと、戦争の全てを賠償金で済ませておられます。

 旦那様なら、王家の要望などいくらでも拒否できるのに、どれほどの無理難題も全て受け入れておられます」


 ライラに言われて初めて気が付くのは情けない話ですが、その通りです。

 これでピエールが領地の割譲を求めなかった理由が分かりました。

 王家の命令に全て従っていたというのは、以前から分かっていた事ですが、それが嫌々ではなく、忠誠心からだと言われると、国王と王妃と両親のやって来たことが、顔から火が出るほど恥ずかしくなります。

 一緒に聞いていた、王家や実家から付いてきた者達も、最初は口を開けて唖然として聞いていましたが、今では恥ずかしいのか下を向いています。


「奥方様に対しても同じでございます。

 わずか八歳で無理矢理政略結婚させられ、両親の元から離され、遠く離れたこの地に送られてしまわれました。

 旦那様はその事を可哀そうだと申されて、できる限り身近なものと団欒できるように、側に近づかないようにされました。

 王家の皆様のなされようを非難するわけではありませんが、十三歳の奥方様に正式な結婚をさせるなど、鬼畜の所業でございます!

 旦那様は奥方様が哀れだと申され、白の結婚を証明するために、一切近づかないと宣言され、奥方様に好きな方ができたら、何時でも離婚するから、その心算で仕えるようにと、我々に申されたのですよ」


 ライラにも溜まりに溜まったモノがあったのでしょう。

 途中ライラの思いが爆発したところもありましたが、ピエール様の私への思いやりを教えてくれました。

 私は嫌われてたわけではなく、同情され、大切にされていたのです。

 この場で飛び上がりたくなるような喜びと、刺すような哀しみがあります。

 大切にされていたのはうれしいですが、同情されているというのは、女性として見てもらえていないという事です。

 白の結婚だと証明しておいて、私に好きな人ができたら何時でも離婚するなんて、私の想いを全く理解してくれていません。

 私は、思い切って自分の想いを伝えようと決意しました。

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