第5話:事前交渉
私は、こらえきれずに泣いてしまいました。
国内外の重鎮を集めた舞踏会で、夫不在でホスト役を務めなければいけません。
社交など全くした事のない私がです。
私の我儘から始まった事ですし、ピエールに文句を言うのが筋違いなのも分かっていますが、それでも悲しくて情けなくて腹が立ってしまうのです。
自分の愚かさと醜さに、自分自身に嫌気がさしてしまうのです。
「奥方様、何を泣いておられるのか分かりませんが、事前準備は念入りに行わなければいけませんので、いい加減ご機嫌を直していただけませんか?」
三日三晩泣き続けて、ようやく落ち着いた頃に、後宮総取締のライラが話しかけてきましたが、確かにその通りです。
全ては私の嫉妬心と復讐心と我儘から始まった事です。
ピエールがいない事に哀しみ文句を言うのは筋違いです。
いい加減最初の気持ちに立ち返り、ピエールの不在を利用して、愛人を探さなければいけません。
「悪かったわ、ライラ。
旦那様が不在の舞踏会を仕切るのが不安で、つい泣いてしまったのよ」
また、です、本当に、私は何と汚い女なのでしょう。
ここに来るまでは、ピエールを恨まない、文句を言わない決めていたのに。
ライラの顔を見て口を開いたら、嫌味がでて来てしまいます。
自分自身でも自分の汚さに嫌気がさしますが、変えられないのです。
ついピエールの事を悪く言ってしまいます。
「何か勘違いされているようですが、旦那様は三日間舞踏会に参加されます。
ヘレス侯爵家として開催する舞踏会なのですから、奥方様だけに責任を押し付けられるような事はありません」
ピエールと一緒にホストとして舞踏会を開催する!
そう思うと、心臓がきゅっとして、甘い痛みが全身に広がります。
こんな機会はもう二度と訪れないかもしれません。
これは私を哀れに思われた神様からの贈り物かしれません。
この舞踏会を一生の思い出にするためには、私も努力しなければいけません。
それには、ライラ達の協力は不可欠ですし、機嫌を損ねるわけにはいきません。
「これはごめんなさいね、私勘違いしてしまっていました。
以前聞いた話に、旦那様は人間の汚い姿を見るのが嫌で、社交をなされないというものがあったので、私の我儘を聞いてくださっても、一緒にホストをしてくださるとは思っていなかったの」
ああ、ライラが情けなさそうな表情をしています。
いえ、分かっていますとも、全て私が悪いのです。
忠烈無比と評されるピエールの家臣達からすれば、ピエールに大嫌いな事をやらせる私は、害悪以外の何物でもないでしょう。
嫌味の一つも言われるのは当然ですね。
でもそれで一生の思い出が作れるのなら、むしろ望むところです。
さあ、どんどん嫌味を言ってください。
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