第4話:舞踏会の準備

 私はピエールに断られると思っていました。

 けんもほろろに、取り付く島もなく、断られると思っていました。

 この城で晩餐会や舞踏会を開けば、流石にピエールも出席しなければいけませんから、そうなると愛する女性の心を傷つけることになります。

 そんな事をするくらいなら、私を強制的にこの城から追い出すか、離婚する。

 それくらいの事をしても、今のピエールなら誰も文句は言えません。

 

 まあ、ピエールが王家に譲歩してくれていているのは分かっています。

 断ろうと思えば断れるのに、王家が命令という形をとれば、恥をかかせないように形だけは整えてくれます。

 私に対しても、体裁は十分に整えてくれています。

 だから私が少々我儘を言っても、追い出されたり離婚されたりはしないでしょう。

 晩餐会も舞踏会も開けない、そう言われるくらいでしょう。


「旦那様のお返事を伝えさせていただきます。

 舞踏会を三日連続で開催させていただくとの事でございます。

 王国内外の王侯貴族には、ピエール様から招待状を送るという事ですが、奥方様が特に呼びたい方がおられるのでしたら、別に招待状を送ってくださいとの事です。

 それと舞踏会で必要な衣装と装飾品は、全て旦那様がプレゼントすると申されておられますので、明日から職人と商人をこちらに来させます」


「本気ですか?!」


 私は、はしたなくも大声で聞き返してしまいました。

 多少は譲歩してくれるとは思っていましたが、ここまでやってくれるとは思ってもいませんでしたから。

 侯爵領はビスコー王国の王都を基準い考えれば辺境ですが、ピエールの戦いぶりを考えれば、周辺国にとっては最も大切な外交相手です。

 一度でも戦って負けた国から見れば、特に最近大敗した国から見れば、少しでも関係改善したい相手です。


 どのように遠くであろうとも、何を置いてでも舞踏会に参加する事でしょう。

 ビスコー王国の王侯貴族も、少しでもおこぼれに預かりたくて、揉み手をして媚び諂いにやってくる事でしょう。

 そんな人間のさもしさ汚さを見るのが嫌で、ピエールは一切社交をしないのだと、ライラが教えてくれました。

 そのピエールが、私のために三日連続で舞踏会を開催してくれるなんて!


 いえ、まさか、そんなはずはありませんよね。

 ピエールは舞踏会を開催してくれるとは伝えてくれましたが、自分も出席するとはひと言も言っていません。

 恐らく、いえ、間違いなくピエールは欠席するでしょう。

 私のために、最低限の礼儀を示してくれただけなのです。

 それが誇り高いピエールの、王家に無理矢理押し付けられた正妻に対する礼儀であり、愛する女性を傷つけない方法なのでしょう。

 でも、そんなやり方は、私が惨め過ぎます!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る