第12話:ボーイ・ミーツ・お嬢様 後編
こんな事件があったもんだから、りーちゃんは俺を自分を助けに来た王子様のように感じてしまったんだと思う。
りーちゃんの親も、俺にものすごく感謝をしてくれて、俺はりーちゃんの家に入れてもらえるようになった。
だから小学生の間、いつも学校が終わっては、りーちゃんの家で遊んでいた。キャッチボールみたいな体を動かす遊びや、テレビゲームも好きで、その当時から男勝りなところがあった。
けど、やっぱり女の子なので、俺よりませていたというか、「大きくなったら結婚しよ」とか、言い出すようになった。
俺もりーちゃんのことは好きだったから、深く考えずにその言葉を自分から口に出したりもした。
うん……子ども同士の合い言葉みたいに考えてたのかな……?
それで、まぁここまでは微笑ましい話なんだけど、小学六年生のときに事件が起きた。
いや……起こした?
まぁ、どっちでもいいや。
その時のことは覚えている。
いつものように、二人でテレビゲームをしている本当に何気ないタイミングだった。ゲームソフトは大人気のRPGゲームだった。
マルチプレイができるのがウリだったので、二人でわいわいと遊んでいた。
ストーリーは、王道中の王道で、敵にさらわれたお姫様を主人公が助けに行くってパターン。庶民の生まれの主人公が伝説の剣を抜いてしまうところから始まる物語だ。
エンディングもやっぱりお約束で、主人公にお姫様がキスをしてハッピーエンドって奴だ。
ありがちなストーリーではあるけど、細部まで作り込まれていて、特に俺たちみたいな子どもにとってはとても感動するお話だった。特に、主人公とお姫様のラブストーリーに主軸が置かれていた。それとムービーシーンも、とても良くできていた。
だから……ゲームに感化されたのか、ゲームが終わるとりーちゃんが、
「ねぇ、たっくん……わたしたちもキス……しようよ」
なんて事を言いだした。
りーちゃんはその頃から、とてもかわいくて……。
好きな女の子からそんなこと言われて断れる男の子がいるんだろうか……。
「うん……いいよ」
少なくとも、俺には無理だった。
二人でキスをして、抱き合った。
そしてもう一度、キスをした。
とてもやわらかいりーちゃんの唇と体を覚えている。
そして……最悪なタイミングで、いつもは家にいないはずのりーちゃんの親父さんが扉から入ってきたんだ。
「お前たち、何をしている!?」
って感じ。後はまぁ、だいたい想像できる通りだ。
◇ ◆ ◇
結局、俺はりーちゃんの家に入れてもらえなくなった。
当時の俺が思ったのは、すごくシンプルな事だった。
「なんで、好きな子とキスしたらだめなの?」
漫画だって、映画だって、ゲームだって好きな人同士はキスしてるじゃないかと思った。
納得がいかなかった。
その後、中学に入って多少は冷静になって、「そういう事は大人になってから」なんて言い分も受け入れるようになった。
だけど、俺とりーちゃんの問題はそれだけじゃないって言うのも理解していくことになった。
分別がつけばつくほど、りーちゃんみたいなお嬢様と俺は、不釣り合いなんだって、分かってしまった。
理不尽だと思った。
俺はりーちゃんの事が好きで、りーちゃんも俺の事が好きなのに、お金や家だのという理由で、一緒に居られないのは、悔しくてたまらなかった。
だから、中学に入ったらかなり荒れた。
周りからは不良って呼ばれる存在になっていった。
ちなみに、その頃のりーちゃんは、家の約束を破っては、俺の後をひょこひょことついてくるようになっていた。
俺は彼女を無視した。きっとまた、辛い思いをするって分かってたから、接触しないようにした。
りーちゃんのヤンキースタイルは、その頃の俺の影響だ。
同じような格好をしてれば遊んでくれると思ったのかもしれない。
そういう俺を親は、大目に見てくれていた。
もともと放任主義だったし、感情的な部分で俺の事を理解してくれてたんだと思う。
でも、中学二年生の二学期ぐらいに膝を突き合わせて、話す機会をもつことになった。
「そろそろ進学について、考えないとな」
と言われて、
「なんでも、いいよ」
ってぶっきらぼうに答えたら、親父にぶっ飛ばされて壁まで吹っ飛んだ。
他の不良どもとケンカは良くしてたけど、あんなパンチは初めて受けた。
その後、親父が
「お前が本当にやる気があるなら、私立の名門校にいける金は出してやる」
と言うので、
「……そんな稼いでないだろ」
って言ったら、もう一回ぶっ飛ばされた。
顔が膨れ上がって、前がよく見えなくなった。
そんな状態の俺に、
「すまん……とは言わんぞ」
殴ったこと?
それとも、稼ぎが少ないこと?
聞いたらやぶ蛇になるだろうから黙った。
「お前が私立の名門校に行ったからって、鬼塚さんに相応しい男になれるかは、俺には分からん。まぁ……なれる可能性の方が低いだろうな」
失礼だな……と思った。
でもそれが現実かも知れない。
りーちゃんの家ぐらいになると、いい学校に言ったからどうにかなるレベルじゃないって、中学生になって分かってきたから。
「でも……試してみたらどうだ?」
「……無理……だよ」
「そうか……」
ふぅと親父は諦めるように息を吐き出した。
そしたら、
「あ〜あ〜……」
それまで黙って見ていた母さんが呆れるような声を出した。
「小さな頃は好きな子のために命張れたのに、今じゃ人生すら張れないって情けな〜〜」
完全に馬鹿にしてる口調だ。
「あの時は、うちの子もやるじゃないって思ったのに、今じゃこんな有様じゃあねぇ。母さん恥ずかしくて……笑っちゃうよ……ぷぷ」
そうやって、母さんに馬鹿にし続けられる。
「あ〜あ〜、きっと、リサちゃんも大人になって、他のいい男見つけて、結婚しちゃうんだろうな〜」
──ダメだ──と思った。
「ねぇ、タクミ〜、リサちゃんを取られちゃうんだよ」
──嫌だ──
「そしたら、するのはキスだけじゃないだろうな〜……」
この母親……下品すぎる……。
でも……それを想像したら、めちゃくちゃ腹が立って、めちゃくちゃ悔しくて、めちゃくちゃ情けなかった。
「いいのかな〜?」
──いいわけが、ない──
「あ〜あ、そうして何年もしたら、タクミの事なんか忘れちゃうよ」
──ムカツク──
「あ、でもたまには、あ、あんなマヌケいたなって思い出してくれるかもねぇ」
──カチン──
何かがキレた。
そして、
「ふっざけんなぁ! りーちゃんは俺のもんだぁ!」
と叫んでしまった。
今思うと、俺って、ほんと単純……。
父さんは
そうして、受験のために俺は勉強に励むことになった。
髪型とかも真面目にして、死ぬほど頑張った。
どういうわけか、りーちゃんと俺の母親は仲良くなっていて、俺が言ったセリフも知っているらしい。
もともと高かったと思われるラブ度がさらに上がり、俺の家まで入ってくるようになった。
(その分、自分の親とは険悪になっているみたいだ)
勉強に集中できないじゃねーかって思ったけど……まぁ……嬉しかった。
そんなわけで……「俺が頑張っているのは、りーちゃんのため」ということは、彼女も知っているわけで……。
◇ ◆ ◇
──昼休みの学食──
こういう話題をすると、多分、当時のことを思い出すんだろう。
里中とマミが目の前に居るというのに、テーブルの下で、イチャつこうとしてくるりーちゃん。
(や、やめろ……!)
(なんで?……いいじゃん)
(よくないの……!)
(え〜……ケチッ!)
はぁ……。
俺の学生生活は大変そうだ……。
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