第11話:ボーイ・ミーツ・お嬢様 前編
◇ ◆ ◇
俺がりーちゃんに会ったのは小学校低学年のときだ。
もちろん、りーちゃんみたいなお嬢様と俺みたいな平凡な家の子どもが同じ学校に通っていたわけじゃない。
今思い返しても、本当に劇的な出会いだったと思う。
その日、俺は友達と遊びに出かけていた。
自転車に乗れるようになった子たちと遊んでいたら「少しだけ遠くまで言ってみようよ」ということを誰かが言い出したんだ。
それで駅の反対側の住宅街を皆でうろうろとしていたところ、ものすごい大きな家を見つけた。
子供心に、世の中にはこんな家があるんだなぁ、って言う感想を持ったのを覚えている。
それで、一人のときでもその家を見にふらふらと自転車に乗る事が増えていった。
そのうちに、その家に自分と同じぐらいの、かわいい女の子が住んでることに気がついた。
門の外から、庭で遊んでいる姿をよく見かけたからだ。
その子がりーちゃんだったのだが、いつも世話係の大人の人と遊んでいる姿は退屈そうだった。
なんとなしに、世話係の人の目を盗んで門の外からボールをりーちゃんに投げつけたりすると、嬉しそうな顔をして、投げ返してきた。
なんだか俺も嬉しくなって、りーちゃんを見つけると、その遊びをするのが楽しみになっていった。
ただ、それでも直接話す機会はなかった。
多分だけど、こんな家にすんでいるお姫様みたいな人間に、自分が話しかけていいものか迷っていたんだと思う。
もしくは、ただ子どもの俺が恥ずかしがり屋だったのか。
そんなとき、ある事件が起きた。
◇ ◆ ◇
いつもと同じように、りーちゃんにボールを投げつけに行こうと家に向かったら、近くに黒塗りの大きな車が停まっているのに気がついた。
二人ぐらいがその車のそばに居て、聞いたことのない外国語を話していたのが印象的だったけど、特に気には留めずに、りーちゃんを探した。
あ、いるいる! と、りーちゃんを見つけられて嬉しくなる。
それで、世話係の人が離れるのを待って、ボールを投げようと準備していたその時に、さっきの黒塗りの車から出てきた二人が塀をよじ登って庭に入っていった。
りーちゃんの家の警報装置がなったけど、彼らの手際のほうが良かった。
俺は子どもだったけど、さすがにこいつらは悪い奴らだということは分かった。
ただ……どうしたら良いかが、まったくもって分からなかった。
悪い人をみたら110番みたいなのは教えられていたはずなのに、完全にパニック状態で、隠れるしかなかった。
かっこよく、りーちゃんを助けに──行ったわけじゃなくて、どちらかというと、陰に隠れてなにもできずに、彼女がさらわれるのをだまって見ていただけの臆病者だった。
二人は小さなりーちゃんを無理矢理に袋に入れると、それを担いでまた塀を登って、車の中に放り込む。
その時になって、やっと世話係の人と、他の大人達がりーちゃんの家から出てくるのが見えた。
だから、俺は混乱しながら、「この車を止められれば、大人たちがなんとかしてくれるんじゃないか」と思ったんだと思う。
そして、アホな事に、出発しようとする車に自転車で突っ込んでいった。
今思うと、あまりに無謀すぎるだろとツッコミたくなるんだけど、子どもの頭とパニック状態で無我夢中だった。
自転車のパワーで車を止められるとでも思ったのかも知れない。
漫画で言えば、かめは○はの打ち合いみたいな感じで。
案の定、俺は吹き飛ばされた。
まだ車がフルスピードじゃなかったのが幸いだったけど、下手したら死んでいた。
もう一つラッキーだったのが、反射的にドライバーが俺をよけようとして、急ハンドルをきったせいで電柱に突っ込んでくれたことだ。
正直、後半の記憶は曖昧だ。
ただ、救急車に乗せられる俺を、心配そうに眺めるりーちゃんの顔だけが印象に残っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます