第10話:僕は勉強ができる
東堂さんの家からの帰り道、りーちゃんはずっとむくれていた。
「おい、なんで機嫌悪くなってるんだよ。飼い主が見つかって良かっただろ?」
「……そーだけど。タクミがデレデレしすぎ」
要するに、ヤキモチを焼いているらしい。
「あのなー……普通だったろ」
「ううん……絶対、胸のところに視線いってたもん」
そりゃなぁ……。
どうしても無意識に見てしまうところはあったかもしれんが……。
と、自分の行動を振り返る。
「……ほら、思い出してるんだ! スケベ!」
「あのなー……俺は小さい方が好きなの」
一応、本当だ。
「ほんと……? わ、わたしのはどう?」
…………こういう時に、恥ずかしがってはいけない。
「おう……悪くないと思うぞ」
というか、正直なところ、りーちゃんぐらいの手のひらサイズが好きだった。
「…………さわる?」
りーちゃんがかわいらしく自分の胸を手のひらで包んでいる。
「……やめれ」
俺はクールを装って、すたすたと歩いた。
「……えー、なんでー!?」
「知らん」
そりゃね、俺も男ですよ。
触りたいですよ。
「……前は触ったくせに」
「そんなこと忘れた」
そうなのだ……。
ぶっちゃけ、りーちゃんの胸を触ったことはある。
だからこそ、気持ちに歯止めが効かなくなることを知っていた。
色々と危険だと思って自制している。
うーん俺ってむっつりなのかな……。
◇ ◆ ◇
次の日──
授業が本格的に始まった。
とはいえ最初なので、そんなに難しい内容がでるわけではない。
他のクラスメイトもそんな感じだ。
国語、数学、物理と淡々と授業が終わっていった。
そうして、四限目の英語になった。
英語の教師は、眼鏡をかけた少しきつめの印象を与える若い女教師だった。
「では皆さん、さっそくですけど、英訳をしてもらいます」
いきなりかー、というクラスの小さな愚痴がこぼれるが、その女教師は気にしていないようだった。
黒板にカツカツと文字が書かれていく。
「? 英訳って言ったけど、英語を黒板に書いてるけど?」
「いや、英語じゃないぞあれ」
なんてヒソヒソと生徒達が話している。
「Scientia potentia est」
と書かれていた。
「はい、英訳できる人?」
誰も手を上げない。
まぁ普通、高校一年生なら何語かも分からないし、分かる奴なんて稀だと思う。
ぶっちゃけ、先生も本当に分かると思って出していないだろうけど……一応、アピールしておいて損はないと思って、手を上げた。
「ん? 分かるの? え〜と、竹中くん」
先生は座席表を見ながら俺の名前を呼んだ。
「英語にするとKnowledge is power でしょうか? 知は力なり……哲学者のベーコンの言葉じゃないでしょうか」
「……へ〜、すごいね。ラテン語分かるの、君?」
「いえ、たまたま雑学として知っていただけです」
本当に、たまたま昔みた言葉を覚えていただけだった。
「ふ〜ん。でも素晴らしいわ、拍手してあげちゃう」
先生がパチパチとすると、クラスメイトも若干微妙な顔をして、「おぉぉ」「すげーな」とかいいながら、拍手してくる。
……やめてくれ、まじでたまたま知ってただけだから、恥ずかしい。
「そう、知は力なり。私いつも最初の授業でこの言葉を紹介してるんだけど……今回はちょっと勝手が違ったわね」
まぁ要するに生徒のモチベーションアップみたいなもんだろう。
最初に一発かまして、集中力を上げるみたいな。
「でも、まぁ竹中くんのこれこそ、まさに知は力なりね。雑学でも役にたつんだから、学校で学ぶことも皆役に立つと思って勉強しなさいね」
女教師は、そんなことを言いながら、自分の授業のペースを作っていった。
場慣れしてるなぁ。
◇ ◆ ◇
授業が終わるとちょうど、昼食の時間だった。
俺とりーちゃんと里中とマミで学食で定食を食べる。
「いや〜、竹中って頭いいんだな。意外だわ〜」
「はははー。確かにー」
里中とマミが笑う。
「褒めてるんだか、けなしてるんだか分からん」
「褒めてるんだって」
「……まぁ、授業で言ったとおり、あれはたまたま知ってただけだよ。大した事でもないしさ」
「タクミって結構記憶力がいいんだよ」
今日のりーちゃんはなぜか上機嫌だ。
「う〜ん、もともと記憶力はそんなに良くないぞ。単純に中学の後半から勉強を効率的にやらないといけなくなったから、必要に迫られて記憶のコツみたいなものが身についた感じで」
「「へぇ〜」」
里中とマミが一緒に頷く。
こいつら相性良いな……付き合ってるのかな?
今度聞いて見よう。
「なんで、中学の後半からなの?」
「う〜ん……それは……」
ちょっと言いづらいな。
「それは、タクミが私と同じ学校に通いたかったからなのだ」
勝手に説明するりーちゃん。
「「え〜、ラブラブじゃん」」
「ち、ちがうぞ。中学の時に、俺も偉くなりたいなって思ったんだよ」
「「偉く?」」
「ほ、ほら、良い学校に入って、良い会社に入って〜みたいなやつだよ」
「え〜、ほんとかよ? 竹中ってそういうタイプに見えないけど」
「意外とそういうタイプなんだよ! だから勉強は頑張る予定なんだよ」
「「ふ〜ん」」
適当に相づちをうつ里中とマミ。
りーちゃんが、テーブルの下で手を握ろうとしてきた。
簡単に言うと、いちゃつきたがっている。
くっ……恥ずかしい。
なぜこんな話で、りーちゃんがこういう態度になるかというと少し長くなるのだが──。
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